メイキャップアーティスト
夏目碧央
第1話 男性メイク募集
こんな事ってあるんだな。突然世の中が変わっちまう事が。
―パンデミック。そんな言葉を初めて聞いた。新型コロナウイルスによる感染症は、瞬く間に世界中を駆け巡った。この日本にも。そして、未知のウイルスに恐れ、俺たちは家に閉じこもるしかなかった。
演劇を見に行く事なんて、不要不急の最たる物だからな。家に居て、テレビや動画を観ればいい話だ。だから、俺は職を失った。
俺はフリーのメイキャップアーティストだ。主に舞台に立つ俳優や歌手のヘアメイクを担当していた。公演ごとに雇われていた。よって、どこの劇場も閉鎖された今、俺の仕事は無くなったのだ。
家にいて、何かメイク動画でも作ろうか、モデルはどうするか、などと考えていたところ、メイク仲間から連絡が来た。
「WideHitが男性メイクを募集してるらしいよ。行ってみれば?」
「そうなのか?WideHitって、芸能プロダクションだっけ?」
「そう。最近流行りのOrange Pealがいる事務所よ。」
「オレンジピール?ああ、なんか聞いたことあるな。」
「嘘でしょ、テレビでも動画でも見ない日はないよ。彼ら、これからが旬だよね。」
「へえ。アイドルだっけ?それで、なんで男性メイクを募集してるわけ?」
「それがさ、そのOrange Pealの女性メイクが動画に映り込んでたら、ファンが嫉妬して色々晒したらしくてね。嫌がらせとかイタ電とかさんざんな目にあって、そのメイクだけでなく、他の女性メイクも辞めちゃって、人手が足りないんだって。」
「なーるほど。女性だと嫉妬されるからか。それならおっさんの俺にうってつけだな。」
「いーなー。私も何か仕事見つけなきゃ。」
「若いんだし、またすぐにコロナも収まるから大丈夫だよ。」
「だといいんだけど。じゃあね、決まったら報告してね。」
「ありがとな。じゃ。」
俺は電話を切った。アイドルのヘアメイクなんて、余り気が進まないが、この際贅沢を言ってもいられない。早速WideHitにコンタクトを取った。
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