監禁6日目
今日から、いつもの半固形物とサプリのご飯セットに、デザートのお菓子がつくようになった。ガムも、グミも、チョコも、全部ある。
昨日の今日だが、きっと某密林のお急ぎ便でも使ったのだろう。
置き配を使えば、配達員と顔を合わせることもない。
俺はお菓子を摘まみつつ、今日も今日とて彼女を描く。
糖分を脳に入れると、心なしか筆がのる気がした。
調子に乗ってバクバク食べていると、すぐに配給された分だけじゃ足りなくなる。
「あの、おかわりとか、もらえたりしない?」
控えめにそう尋ねる。
今日三度目のお願いだ。
居候ではないが、三杯目にはそっと出すのだ。
「今日はこれだけ」
「そんなこと言わずに」
「もうない」
彼女は首を横に振る。
「まとめ買いしなかったのか? その方がお得だろ」
「でも、あればあるだけ食べそう」
「……」
反論できなかった。
事実、俺にはまとめ買いした方が安いと倹約家ぶって、暴飲暴食を重ねて堕落していった前科がある。
反省からうなだれていると、彼女は部屋から出て行った。
(強欲っぷりに愛想を尽かされたかな……)
と思ったら、すぐに戻ってきた。
手には、白い粉の入った小袋。
(ヨーグルトについてくる砂糖か……。俺の健康のために、糖分を取りすぎないように調整してくれていたんだな――って、え?)
ますます自省の念に駆られる俺の前で、彼女は突拍子もない行動に出た。
ピリッと小袋を破き、砂糖を彼女自身の左手の指にふりかけはじめる。
「ん」
そして、無造作に左手を俺の口の前に突き出してきた。
「え、いや、大丈夫。子どもじゃないんだから、お菓子くらい我慢できるって!」
後ずさり、激しく首を横に振る。
「ん!」
それでも彼女はムッと眉をひそめ、砂糖まみれの人差し指を突き出してくる。
包丁を握る彼女の右手に力が込められるのを見て、早々に抵抗を諦めた。
「い、いただきます」
少女の人差し指をしゃぶる。
甘いし、何だかいい匂いもする。
指紋の独特な感触が、舌に伝わってくる。
確かにこれなら、口寂しくはない。
でも、まるで赤ん坊のおしゃぶりを口に突っ込まれたかのような情けない気分だ。
これが、彼女が俺を教育する目的からの行動だとするならば、大成功だ。
明日からもう、お菓子のおかわりを望むことはないだろう。
(ますますこいつのことが分からなくなってきた)
お金関係のけじめはきっちりとしている。
酒やタバコが身体に悪いという常識もある。
でも、みだりに男を挑発してはいけないということは知らないらしい。
確かに彼女は包丁を持ってはいるが、もし俺が反撃に出たらどうするつもりなんだろう。指に噛みついて、包丁を奪い、逆に彼女を押し倒すかもしれない。
もちろん、実際の俺にはそんな度胸も体力もないが、可能性としては十分にあり得ることだ。
「おしまい」
チュポンと少女が俺の口から指を引き抜く。
「お、おう」
その後、何事もなかったかのように、俺のデッサンは続いた。
ちぐはぐなモラルに、少女のミステリアスさが深まった一日だった。
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