第42話


「なん…だこれ…?」


「体が…動かねぇ…?」


「金縛り…?」


あちこちから戸惑いの声が上がる。


とりあえず全員そこに跪け。


幸雄がそう言った直後、その場にいた幸雄以外の全員が一斉に地面に膝をついた。


さながら幸雄に忠誠を誓うように。


クラスメイトたちは何が起きたのかすぐには理解できずに、混乱し、周囲を見渡す。


そして、彼らは幸雄だけがこの状況で地面に跪いていないことを認めた。


すると思考は当然、この現象は幸雄によるものなのではないか、という結論に行き着く。


「西川てめぇ…!何しやがった…!!」


「まさか…お前がやったのか…!?」


「おい、答えろ西川…!」


地面に跪きながら幸雄を追及するクラスメイトたち。


幸雄は愉快そうにくつくつと笑いながら、彼らの周囲を歩き出した。


「愉快だなぁ…今まで僕を見下していた連中が全員、僕に傅いている様は」


「「「「…っ!?」」」」


そのセリフによって生徒たちは完全に、自分たちが幸雄のスキルによって跪かされていることを悟る。


「まさか…!お前スキルを使ったのか…!」


「クラスメイトにスキルを使うとか…!何考えてんの…!?」


「この裏切り者が…!」


口々にクラスメイトたちから非難の声が上がる。


「あははは!なんとでも言うといい。でも結果は変わらないよ。僕のスキルは最強なんだ。誰だって傅かせられる。誰だって従わせられる。誰だって操れる。君たちが僕のスキルから逃れることはできないよ。あははは」


心底楽しいと言ったように笑いながら、幸雄は生徒たちの周りをぐるぐるとスキップする。


「い、イカれてる…」


「気持ち悪い…」


「陰キャマジキメェ…」


明らかに様子のおかしい幸雄にクラスメイトたちが引き気味になる中、他の生徒たちよりも一段とこの状況に危機感を覚えている生徒が三人いた。


一人目は有馬裕也。


幸雄のスキルがこれだけの人数を一度に拘束できるほどに強力であることに焦りを感じていた。


自らのスキル、カリスマではここまで強制力を持って他人を従わせることはできない。


彼のスキルカリスマには、自らに少しでも好意を持っている人間でなければ従わせることが出来ないと言う弱点がある。


おそらく幸雄は、自分に対して全く好意を抱いていなく、最初からカリスマスキルの制御下になかったのだろうと裕也は考えていた。


裕也の指示に従い、従順に見えたのは全てが演技だったのだ。


「まずいな…」


裕也は自分のクラスでの地位が確実に危なくなっていることに気づいた。


必死にこの状況を打開する策を考える。


だが、裕也の頭には何も思い浮かばない。


体は膝をついたまま、ピクリとも動かなかった。


まさか幸雄の持つスキルの能力は、誰をも無条件で従わせることのできるものなのか、と言う最悪の想像が頭をよぎる。


だとしたらそれは、裕也のスキル、カリスマの完全上位互換に当たるものであり、裕也の存在意義は確実に失われる。


「くそ…どうしたら…」


裕也は必死になって頭を考えさせ、幸雄の隙を探る。


一方で、黒崎麗子もまた、裕也と同様一段とこの状況に焦りを感じていた。


初日のカテリーナによるスキル鑑定で、幸雄がスキル水晶をクラス1レベルに光らせたこと、加えて、この世界に来てから見せるようになった他人に対する傲慢な態度から、麗子はなんとなく幸雄のスキルが強力なものなのだろうと予想していた。


だが、まさかここまで強力なスキルだとは思っても見なかった。


「…(体が全然動かないわ)」


麗子は跪いた状態から立ち上がろうと何度も試みてみるが、体は全然動かなかった。


おそらくこれは幸雄の支配系のスキルによるものだろうと麗子は当たりをつけた。


幸雄は先ほど、自分は誰だって支配できる、と言ったようなことを口にした。


それが真実なら、裕也のカリスマスキルなど比べるべくもないほどに強力な支配のスキルを幸雄が持っていると言うことになる。


「…(何もされなければいいのだけど)」


この世界に来てから幸雄は何度も麗子のことをメインヒロインと呼んでいる。


正直言って意味がわからないが、なんとなく幸雄が自分に執着していることは麗子にも理解できた。


もし幸雄のスキルが無条件に他人を従わせることのできるスキルだとしたら…それは麗子にとって裕也に粘着されることよりも何倍も厄介な状況と言えるだろう。


極端な話、幸雄に性行為を強要された場合、麗子は抵抗できないのだ。


「…(あぁ…なんでこの世界に来てから私はこんなにも不幸続きなのかしら)」


麗子は召喚されてからこれまでの自分の運のなさを呪う。


そして顔をふせ、出来るだけ幸雄の意識から外れようと努力する。


そして…


「おい、陰キャラ!!もしお前がこれやってんならさっさと俺たちを解放しろ!じゃねーと痛い目に遭うぞ…!(やべぇ…まじやべーよ…)」


裕也や麗子よりも格段にこの状況に焦り、そして恐怖を感じている生徒がいた。


「おい聞いてんのか、陰キャラ!(し、仕返しとかされたらどうしよう…クソ…まさか俺が陰キャラの西川に怯える日が来るなんてな…)」


その生徒は、他のクラスメイトたちに混じって表面上は幸雄に非難の声を投げているものの、内心では幸雄にひどい目に遭わされることを恐れていた。


名前は、鬼山龍之介。


日本において、影で幸雄を虐めていた生徒だった。





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