第26話


「そうですが…俺たちのことをご存知なのですか?」


「はい…ええ、まぁ…」


「…?」


裕也が日本人であることを肯定すると、職員らしき人たちはあからさまに面倒そうな顔をした。


「どうして日本人がここに…?」


「また王族が召喚したのか…」


「おそらく試練の最中なのだろう…」


「どうする…?」


「追い出すか…?」


「しかし、ここを出て野垂れ死でもしたら、我々が王族たちに報復される恐れが…」


「体裁を整えるためにも、少しぐらい手助けした方が…」


時折裕也たちに視線を送りながら、声を潜めて何かを相談している。


あまり歓迎されているといった雰囲気ではなかった。


本当にここにいて寝床と食事の問題が解決するのだろうか。


そんな疑問を裕也が持ち始めた、その時だった。


「日本人の方々、ここへきたのはどのような理由で?」


どうやら相談を終えたらしい職員たちがそう訪ねてくる。


「ええと…俺たち困っていることがあって…」


「ほう?それはどのような?」


「我々でよければぜひ手助けをさせてもらいたい」


先ほどとは打って変わって態度が軟化する職員たち。


裕也は違和感を覚えながらも、寝床と食料を求めていることを伝えた。


すると、職員たちはここの裏手にある冒険者専用の宿を貸し出すと言ってくれた。


裕也は驚いて聞き返す。


「いいのですか?本当に?」


「ええもちろんです」


「空室ですのでぜひ使ってください」


「大浴場もありますよ、ぜひ旅の疲れを癒してください」


「お食事も提供させていただきます」


口々にそういう職員たち。


「よかった…」


「やっとだ…」


生徒たちは安堵の吐息を漏らす。


一方で裕也はというと、唐突な高待遇を少し不気味に思っていた。


何か裏があるのではないかとどうしても疑ってしまう。


しかし現状、彼らのお言葉に甘える以外に寝床や食事を調達する方法がないのも事実で、ひとまずは彼らの施しを受けることにした。


「それじゃあ…ありがたく使わせてもらいます」


「ええ、是非」


「日本人の皆様に使っていただけるのは光栄です」


「こちらです、案内しますよ」


そう言って歩き出す職員たちに先導され、裕也たちは裏手にあるという宿へと向かうのだった。






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