第20話
「お断りするわ」
即座にバッサリと切って捨てる麗子。
だが、裕也は余裕の笑みを崩さない。
カリスマスキルで操ることが出来なかった時点で、麗子に最初っから自分に対する好感度が皆無であることはわかっている。
断られることは織り込み済みだった。
裕也は麗子に一歩踏み込む。
「そうか…俺に抱かれるのは嫌か?」
「当たり前でしょう?誰があなたのような男と…」
「でもいいのかな?俺の提案を断って」
「どう言うこと…?」
裕也が下卑た笑みを浮かべる。
「クラスメイトたちは完全に俺の支配下にある。君に仲間なんていないよ?」
「…」
「逆らったらどうなるかわかるかな?もしかして黒崎さんも、新田さんみたいになりたいってことかな?」
「…っ」
麗子は顔を顰める。
これは脅しだった。
抱かせなければ、新田恵美のように置き去りにするぞ、という。
麗子は、裕也の本性のあまりの黒さに軽蔑するような視線を向ける。
「脅しのつもり?」
「そうだよ。脅してるんだ。俺に従うの?従わないの?」
「…まさかあなたがここまでのクズだとは思わなかったわ」
「なんとでも言ってよ。いつ命が失われるかわからないこんな世界に召喚されたんだ。生きてる間にやりたいことやったもんがちだと思うんだけど」
「…このクズが」
冷たい声で黒崎が言い捨てる。
あははっ、と裕也が笑った。
「いいねぇ、その強気の態度…ますます俺のものしたくなる…黒崎さん…嫌がる君を今からでもめちゃくちゃにしたいよ…!」
「…っ…くだらない…付き合ってられない…私、もう行くわ」
麗子は背を向けてその場から立ち去った。
裕也は追ってはこない。
麗子のスキルがどのようなものであるかはわからない以上、迂闊に近寄ることは出来ないのであろう。
が、麗子はこれで裕也が諦めるとは思っていなかった。
おそらくなんらかのアクションを起こし、自分は窮地に立たされるだろうとそう思っていた。
それから数時間後。
麗子の予想は見事に的中した。
「美味い!!肉が最高だ!!」
「あっ、ちょっと…!こっちにも分けてよ!一人で食べ過ぎ…!」
「魚もあるぞ!!十匹以上も取ってきたんだ…!」
「キノコも美味しい!!案外こっちでの生活も悪くないかもね!!」
「ええー、そうかぁ?俺はやっぱり日本に帰りたいぜ〜」
「馬鹿ね。冗談よ冗談」
「「あはははは!」」
クラスメイトたちの楽しそうな掛け合いが、少し離れた場所にいる麗子の元まで聞こえてくる。
今やすっかり日が暮れて、周囲は暗闇に包まれていた。
クラスメイトたちは焚き火を囲んで、取ってきた野生動物や魚、キノコ、野草などを焼いたりして食べている。
火は、炎を出せるスキルによるものだ。
また傍には川からくんできた水もあり、さらには、クリーンという浄化スキルを持つものが、全員の体を浄化して、体を洗い流す必要もない。
異世界の森の中であってもかなり快適な生活をできているおかげか、彼らの表情は明るく、先ほどからくだらない冗談を言い合う声が麗子のところまで聞こえてきていた。
「はぁ…」
麗子はため息をついて腹をさすった。
お腹がすいた。
召喚されてから麗子は水以外何も口にしていなかった。
向こうへ行ってクラスメイトと共に食事を取りたいのだが、それは許されないだろう。
『みんな、聞いて欲しいことがある!』
なぜなら先ほど、裕也が皆の前で突然こんなことを言い出したからだった。
『残念なお知らせだ…!なんとついさっき、黒崎さんがみんなを捨てて、二人だけで逃げようなんて俺に提案してきたんだ…!もちろん俺は断ったけど…黒崎さんは俺が了承したら本当に二人だけで逃げるつもりだったようだ…!』
『うわ、最低!』
『黒崎さんまじかよ〜』
『信じられなーい』
『そんな人だったんだ黒崎さんって』
全くもって根拠のない、荒唐無稽な言いがかりを、クラスメイトたちは簡単に信じてしまった。
カリスマスキルによって取り込まれている彼らにとって、裕也の言葉は絶対で、全くの出鱈目だと麗子が言っても誰一人として信じなかった。
結果として、麗子は、裕也と二人でクラスメイトたちを見捨てて逃げようとした最低な女ということになり、罰を受けることになった。
その罰とは、反省するまで食事を取ることを禁止すると言うもの。
よって麗子は現在、クラスメイトたちが夕食を取る中、一人だけ離れたところで見守りながら、空腹に鳴るお腹をさすっているのだった。
「はぁ…最悪ね、あの男」
麗子に罰が与えられることが決定したとき、裕也が近寄ってきて小さい声でこう言った。
抱かせなければ、明日も食事抜きだ、と。
つまり麗子は、裕也に体を許さなければ、一生食事にありつけず、餓死して野垂れ死ぬことになる。
「まぁ…あの男に抱かれるぐらいなら死んだほうがマシだわ」
とはいえ、麗子にはプライドを捨てて裕也のものになる気などさらさらなかった。
あの男の思い通りになるくらいなら、餓死して死んだほうがマシだと思っていた。
「私一人でも反撃できたら…いえ、無理ね…」
一瞬、裕也に一人で立ち向かって命を奪い、クラスメイトたちの洗脳を解くことも考えたのだが、それは無理だと即座に諦める。
裕也は周りを戦闘スキル持ちで固めているし、何より麗子のスキルはあまり戦闘向きではなかった。
「私にわかるのは…あの男がもうすぐにひどい目に遭うってことだけ…」
麗子は自らのスキルの力で、裕也がこのさき、あまり遠くないうちにひどい目に遭うことを知っていた。
「私が餓死するのが先か…あの男が『酷い目』に会うのが先か…持久戦ね…」
ぐぅうう、と。
また鳴ったお腹をさすりながら、麗子はため息を吐くのだった。
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