仲良し少女の恋愛相談

 前回の続きと言われても、何を相談されていたんだっけ。と。

 少し時を遡り。

 美結みゆちゃんがこの部室に来た五月の事を思い出す。



     ※



 部室内の机で。

 私はだらし無く頬杖をつきながら、スマホをいじっていた。

 ラインする相手もいなければ、こんな部室に来る相手もいない。

 ……先輩から引き継いだ相談部だけれど。もう、廃部になるのかなぁ。

 時刻は五時半を回り、誰も部室に来ないことを別に気にもならない。

 もうそろそろ帰ろうかと、席を立ち上がった。

 その時だった。


 ──コンコン。


 ドアから聞こえた優しいその音に、私は耳を疑う。

 この部活にやってきた人がいるのかと思ったが、すぐにその予想を撤回する。


 ……まぁ。普通に考えれば、先生が何かしらの用事でここに来たのだろう。

 ドアの近くまで歩き、「はいはい」と適当に言いながら、私はドアを開く。


 だけど違くて。

 最初に目に入ったのは制服。

 次に見上げて、その人の顔。

 そして、彼女の口元がゆっくりと動き出す。


「伊奈ちゃん。久しぶり!」


 呆気にとられ、数秒間膠着。

 自分が確実だと思っていたものが違ったら、誰しも頭が追いつかなくなるもので。

 そして、ようやく整理できた頭で、目の前の人物に関して思考する。


 『伊奈ちゃん』と『久しぶり』。

 そして、見覚えのあるその可愛い顔。

 その点は、一気に繋がり線となる。


「あ。あー! 美結みゆちゃん⁉︎」


 いうと、その子は満足そうに大きく頷いた。


 私のご近所さん。

 小学生の頃は楓花と一緒によく遊んでいた記憶がある。

 だけど、中学が離れ離れになってしまって……というか、美結ちゃんが引っ越してしまい、もう関わることはないとその時は悲しい思いをしたのだが。


「帰ってきたんだ!」

「うん! まぁ、おばあちゃん家に一時的に行っていただけなんだけど。……まぁ、お父さんの仕事の都合でね。それで帰ってきて、この学校に入学したってわけ!」

「おー。嬉しいねー。とりあえず、入って入って」


 私は、どうぞと椅子の方に右手をやり、座るよう促す。

 それに「ありがとー」と返した美結ちゃんはそこに座る。

 私も、先まで座っていた場所に戻り、彼女と対面になった。


「まぁ。おめでたいことだけど……どうしてここに?」


 一息つき、私は美結ちゃんにそう問うた。


「えっとね。楓花もこの学校にいるということに今更ながら今日気づいてね。そして伊奈ちゃんが、四階のこの部屋にいるーって言ってたから来たの!」

「ふむふむ。……あ、あの、伊奈ちゃんってちょっと恥ずかしいかも。私、一応先輩だし……」

「じゃあ、伊奈ちゃん先輩!」

「……それで許してあげよう」


「んで。私、相談があるんだ! ここって恋愛相談する場所なんでしょ?」

「えーっと。まぁ、なんか生徒たちの暗黙の了解的な感じで、勝手に恋愛相談をする場所だと思われてるってだけなんだけどねー」

「まぁ。それはどうでもいいけど。えと……相談っていうのはね……」


 彼女はここで一つ、息を吸った。


「好きな人への、手紙の書き方! を、教えて!」



    ※



 そう。

 こう言う相談内容だった。

 そしてこれが、私と美結ちゃんの馴れ初めだった。

 馴れ初めっていうと変だけど、まぁ高校に入ってからの出会いがこれ。

 その後、一切も私のところを訪れなくて寂しかったけど。

 手紙も渡せて、その人と上手くいっているのだろうと思う。

 だから、四ヶ月ぶりにここを訪れて。前回の続きと言っても、今更何を相談することがあるというのだろうか。


「手紙をさ。……実は、まだ渡せていなくて」


 私の脳内の疑問に応じるように彼女から零れた言葉は。

 本当に。なんで今? って感じだった。


 けど。彼女なりに精一杯悩んで、そうしたことなのだと思う。

 そんな寂しそうな表情を見せられたら、なんとかしてあげたいと。

 そう思いもするわけで。

 だから私は、美結ちゃんに向けて、こう放つ。


「よし! 伊奈ちゃん先輩たちが、相談に乗ってやりますよ!」

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