ギャルと小動物とetc…

「な、なるほど〜。倉野くんはバイトでここへ来たのか〜」


「そ。アタシがこんな奴と付き合うわけないでしょ」


 へっ。

 どうせ俺は学校一のギャル様には釣り合わない非リア非モテ男ですよ。


「それじゃあ、私は私で作業するね」


 荒崎さんは手に持っていたカバンを置くと、リビングで何やら作業し始めた。


「よろしく縁。ほら倉野、アタシたちも続きやるよ」


 立花に言われて俺はキッチンに戻り、サラダの準備に取り掛かる。


「何て言うか……2人が仲良いのって意外だな」


「どういう意味?」


「いや、変な意味じゃなくてさ。立花と荒崎さんが絡んでるイメージがなかったから」


「まあ、仲良しグループが違うしね。学校では話さないけど、アパートでは結構話すかな」


 確かに休み時間の教室を思い浮かべてみても、立花は立花、荒崎さんは荒崎さんで大体決まった人と過ごしている。

 それでもこうして部屋の飾り付けを頼むくらいだから、ただの住人同士ではなくかなり親しいのだろう。


「そういえば、ここの住人は俺でも知ってるって言ってたよな?あとはどんな人なんだ?」


 立花、そして荒崎さんは確かに“知ってる”人だ。

 ただ知ってるだけで、非リアの俺は喋ったこともないのだが。

 ……これは非リアじゃなくてただのコミュ障か?


「あ〜101があんただよね?その隣が縁。その隣、103が神奈かんなだったかな」


「神奈?」


「は?アンタ、結城ゆうき 神奈かんなを知らないの?」


「それなら知ってるわ」


 俺の頭の中に、颯爽とトラックを駆け抜ける日焼けしたショートカットの女子が浮かぶ。

 彼女は立花とはまた違った意味での有名人だ。

 2年生ながら陸上部のエースで、短距離、中距離、長距離の3部門全てで全国大会に出場した怪物スプリンター&ランナー。

 かといってお高く止まることもなく、男女両方から人気が高い。

 噂によるとこれまでに告白された相手のうち6割が女子だというが、本当のところは定かじゃない。


「201がアタシでしょ。その隣が河合かわい 百合ゆり。百合は体調を崩してて、今日のパーティーには来られないけどね」


 脳内を結城が走り抜け、今度は丸眼鏡の真面目そうな黒髪JKが登場した。

 事実、河合さんは真面目で生徒会役員も務めている。

 俺たちの通う高校では終業式などの司会を生徒会が務めるのだが、それを担当しているのが彼女だ。

 そういえば、今日の終業式では彼女以外の生徒が司会をしていたような気がする。


「んで最後。203が土川つちかわ はる


「は?土川?」


「そ。ま、さすがにあんたも知ってるでしょ」


 知ってるも何も、土川は教室の座席で俺の隣に座っている。

 俺が唯一、定期的にまともな会話を交わせる女子だ。

 サッパリとした性格をしていて、男子だろうと女子だろうと、陰キャだろうと陽キャだろうと無キャだろうと平等に接する。

 そして大方の場合、相手からも好意的に受け止められるのだ。

 謎のコミュ力お化けサッパリ女子。それが土川 春である。


「待て待て。全員、同じ学校の同じ学年のそれも女子じゃないか!?」


「だから知ってるって言ったっしょ?」


 美人ぞろいのJK5人と、夏休みずっと同じアパートで過ごす。

 仮にこれまでずっと非モテだろうと、これまでずっと非リアだろうと、いやだからこそ逆に。

 この状況に胸が躍らない男がいるわけがな……


「言っとくけど」


 俺の思考を遮り、立花が冷たい目をして言う。


「あんたが想像してるようなことは何も起こらないかんね」


 俺は頭の中であおぞら荘のメンバーを思い浮かべる。

 立花。彼氏持ち。

 結城。彼氏持ち。

 河合さん。彼氏持ち。

 荒崎さん。彼氏持ち…だという噂。


 Oh my god...

 最後の砦は土川だが、彼女は恋バナ嫌い、恋愛嫌いで有名だ。


「ほら、手が止まってる」


 立花に指摘され、俺は無心で手を動かし始めた。

 ……俺はどうしてもリア充になれない運命らしい。


 ※ ※ ※ ※


 何はともあれ、無事に料理も装飾も完成しパーティーの準備が整った。

 そしてメンバー、体調不良の河合さんを除いたJK4人が勢ぞろい。

 全員が彼氏持ち確定、もしくは濃厚である。

 すごくすごーく居心地が悪い。

 結城と土川は、何でここにコイツがいるの?という顔をしている。

 すごくすごくすごーく居心地が悪い。


「あ、じゃ、俺はこれで……」


 いたたまれなくなって帰ろうとした俺を、立花が引き留めた。

「待って。まだ帰らないで」などと心をぐっと掴むような引き留めではなく、エプロンの裾を物理的にぐっと掴み、帰さないぞという意思を目で伝えてくる。


「手伝いだけさせといて本番は帰れって、アタシもそこまで性格悪い女じゃないけど?」


「いや、でも」


「いいから残れ」


 立花の表情からは、「終わってからも洗い物とか仕事あんだろ?」という感情が伝わってくる。

 あおぞら荘、どうやらかなりブラックな職場のようだ。


「……分かったよ」


 俺はしぶしぶ、与えられた場所に腰を下ろした。

 右には荒崎さん、左には結城が座っている。


「それじゃ、乾杯!」


「「「かんぱ~い!」」」


「か、かんぱい……」


 全員でジュースの入ったグラスを掲げ、ホームパーティー in 立花家がスタートした。

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