第38話 幕間5 公爵家の血

 これは前に皇女殿下から聞いた話だ。



 エリアお姉様は実に頻繁に小型の馬車に乗っては、母方の実家の公爵家へと通っていたという。

 行き先はマルデスタ公爵家。

 その耳慣れない名前を私は皇女殿下に会った時、初めて聞いた。


「マルデスタ家が侯爵家に娘を嫁がせたと聞いた時には、皆驚いたものらしい。

 公爵家は古くからの血筋が多くてな。皇族と血縁関係を持つところも多い。

 だが必ずしも金銭的余裕が多いとは言えないところもある。

 そんな場合は、さすがに国家から皇室の親戚筋ということで補助金が出る場合もあるが、そればかりでやっていける訳でもない。

 それだけのことをする理由は何故か?

 場所だよ。

 公爵領というのは、大概わが国にとって隣国との関係上重要な地であることが多い。

 つまり経営が下手で潰れてしまっては国防上困る場所なんだ。

 だからまあどうしようも無い事情で馬鹿が当主に就いてしまったとか、就いてから馬鹿だと判明した場合、皇帝陛下の名において、公爵領の経営権を取り上げ、その筋の知者に任せるということもある。

 まあ大概は、そんな馬鹿は出ない。そんなことをすれば、公爵同士の付き合いにも支障が出るからな。

 だが残念ながら、そんな時期もごく希に出る。

 それがエリア嬢の母君の両親の世代だ。

 これは私も聞いた話に過ぎないが、何というか…… 頭は馬鹿ではないのだが、山師的なというか、博打的な性分があってな。

 新奇なものを取り入れることによって最初は領内の収益が跳ね上がったこともあった。

 だが、その時運が良かったと言って、その後いつまでも続く訳ではない。

 例えば、マリアは植物を育てることの難しさを知っているだろう?

 何故その土地でその作物が作られてきたか、というのは土地そのものの性質に合っていたから、ということもある。

 その代の公爵は、領民に一度成功したからと、その新奇な作物を何年も継続して作らせたんだ。

 すると、土の性質がおかしくなった。土にあった栄養が吸い取られてしまったと言ってもいい。

 それこそ、その当の作物自体の成長も難しくなる程にな。

 では元の作物を植えてみれば、新奇な作物によって、元々の作物にとっては毒になる成分が溜められてしまっていた訳だ。

 すると元の作物も作れない。

 その一方で、収益で別の事業に手を出していて、それはまずまずだったのだが、それ自体を継続するにも、ある程度の資本は必要だ。

 その収支が取れなくなった。

 そこで公爵は侯爵の申し出た援助を受け容れたということさ。侯爵家の娘を手に入れるということは、侯爵という位にしてみれば、非常に名誉であるからな。

 まあそうなったら、嫁がされた方の令嬢はその誇りからして、まず心は開かないだろうな。

 基本的に公爵令嬢は皆、皇族に嫁ぐべく教育されている。エリア嬢の母君もそうだろう。

 そして何より気位が高い。

 侯爵家に居ること自体が、酷く重荷だったろうな。

 それ故に身体も心も壊していったらしい――

 逆に言えば、身体を壊す理由がそこにはちゃんと用意されていた、とも言える訳だ。

 さてこれは誰の意図かな?



 本当に、何処までが意図されたもので、何処からが真実なのだろう?

 私はよく判らなくなる。

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