第23話 のこり6日5 皇女フレスティーナ様曰く(2)

「……それは誰だとお考えですか?」

「貴女には予想が薄々ついているのではなくって?」


 それを言われると。

 確かにシリア姉様より、よっぽど怪しい人物は居る。

 ただ。


「うちの家族の一人であるとは思うんです」


 続けて、と殿下は私をうながす。


「シリア姉様はそもそも、マンダリン様から学んだことを、自分のために使うというひとではなかった…… と思います。少なくとも一緒に過ごした時間の中では、私はシリア姉様はそういう方ではなかったと思います。それにこの件で、街の方で病人の世話とかしていたとも初めて聞きました。それは私の知っているシリア姉様の印象と間違ってません」


 そう、シリア姉様は人のために自らまず動くひとなのだ。

 自分のしたいことのために人を動かす方法を身につけているエリア姉様や、そういう振る舞いを侯爵夫人として後から身につけさせられたとお母様とは違う。

 そっちが貴族の令嬢としては相応しいのだろうけど、私はシリア姉様のそういうところが好きなのだ。


「少なくとも自分自身の何かの目的、というかしたいことのために薬や毒を調合するというひとではないはずなんです。ただ」

「ただ?」


 フレスティーナ様は表情を厳しくなさった。


「気になっていたのです」

「何を?」

「シリア姉様のお母様のマンダリン様が亡くなってから、姉様はようやく、離れから本宅の方に入れるようになったんです。私は自分の部屋に呼んで遊ぶこともできるようになった、と喜んでいました。けどそんな時間は結局取れなくて」

「でも、やっては来たのでしょう?」

「いつもお父様がお姉様を自室に呼んで、何やら話をしてました。皆で食事やお茶の時間を過ごした後は気分がすぐれない、とすぐに離れに戻ってしまったので…… 結局私の部屋に来るようなことはありませんでした。上の姉の嫌がらせのせいもあったでしょうが……」

「エリア嬢は、シリアのことが嫌いなのかしら?」

「好きではないと思います。けど、エリア姉様は私のこともさして好きではないので……」


 初めからそうだ。エリア姉様は私に関しては、好きも嫌いも無い。ただ無関心なのだ。


「嫌がらせをするというのは、明確に嫌い、ということね。理由は何だと思う?」

「身分差…… ですか?」

「そうね、シリアの外見からしてどうも見ても、エリア嬢は妹と認めたくない、というのはありえるわ。だけどそれなら無視すればいいと思うの。気位が高ければ高いほど、身分が下だったら、血がつながっていようとどうでもいいはずなのよ」


 そういう見方もあるのか。


「ところで先の侯爵夫人は、病気で死んだのかしら?」

「急な食中毒であったと耳にしております」


 背後からメルダの声がした。


「横入り申し訳ございません。マリア様はご存じではないと思いましたので」


 そう言って軽く頭を下げる。


「ええ、私は知らなかったわ。お願い、メルダ知っているなら、教えて。イレーナも噂くらいは知ってるでしょう?」


 振り向いて頼み込んだ。はい、と彼女らは淡々と続けた。

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