第21話 のこり6日3 待ち受けていたひと

「知らないことはさして問題ではないですよ。街から遠い所領のご令嬢など、そういうものです。まあごちゃごちゃおっしゃってないで、さくさく参りましょう。時間は宝石の様に貴重です」


 メルダはそう言って私の手を引いた。人混みの中をするすると、よくまあぶつからずに済むものだと感心した。


「ここです。今日お会いして欲しい方がいらっしゃるのは」


 メルダが足を止めたのは、大きい店構えの薬屋だった。


「ここは……」


 先ほどのショックが抜けていないところで、さあさあ、と私は二人に押されるように店の中に入っていった。


「いらっしゃい…… おお、メルダさん、大変なことになったらしいね。お? そちらがシリアさんのお妹さん?」

「ええ店長。マリア様です。で、例の方は」

「二階にいらしているよ。新しい薬についての本があるので、それで待ってもらっている」


 わかりました、とメルダは再び私の手を引いていき、イレーナは後ろについてくる。


「例の方?」

「今日マリア様に会っていただきたい方です」


 外で、メルダがわざわざ私を動員してまで会わせたい人……


「メルダさんこっちこっち」


 二階に就くと、イルドが私達を手招いていた。

 ぎい、と音を立てる板張りの廊下を歩いて行く。


「お待ちだよ」


 扉が開く。するとぱっ、と長い銀色の髪を後ろで三つ編みにまとめた女性がそこには居た。


「フレス様、マリアお嬢さんをお連れしました」


 イルドがそう言って私達を通す。フレス様?


「まあ」


 快活そうな声を立てて、長身の美女は本にしおりをはさんで置くと立ち上がる。

 どうぞ、とうながされて私はフレス様の前に押し出される。


「貴女がマリア? シリアがよく話していたわ、見所のある妹だって!」

「あ、あの」


 圧は無い。だけど何か侵しがたい迫力がある。そして何より美しい。


「お、お初にお目にかかります」

「そう硬くならないで。……と、もしかして、あなたたち、ここに連れてきた目的とか、言っていないの?」


 ちら、と後ろの三人に彼女は視線を巡らす。


「伝言ゲームになると、真意が曲げられることが多うございます。直接お伝えしたほうが良いかと」


 メルダは淡々と答える。一方イレーナは、何やらぼうっとして「フレス様」の方を見ていた。


「あの、フレス様、とおっしゃると、もしや」

「ああごめんなさいね。私はフレスティーナ。この国の第一皇女で、――何よりも、シリアの友達よ」


 五つくらい頭の上にら雷を落とされたようだ。

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