第13話 残り一週間1 まず何ができるのか考えてみよう

 何はともあれ、私達には一週間しかない。

 その事実が胸に重くのしかかった。

 子爵はシリアお姉様を助けたいと言ってくれた。

 そのために「私に」わざわざ取り調べをしてきた。

 だったら私に何ができるのだろう?

 子爵は今後も連絡を取るとは言ってくれた。

 彼は彼で動くのだろう。

 だけどおそらく「それだけでは」手詰まりなのだと思う。

 そうでなくては、こんな社交界に出る前の小娘に話を持ちかけてくるはずがない。

 では私にできることは?

 まずシリアお姉様に一番近かったこと。

 離れで暮らした日々。

 知識。

 ここの使用人との面識。そして助力を乞える立場。

 そして、一応侯爵令嬢という肩書き。

 子爵になくて私にあるのはそのくらいだ。

 今日は一応司法省の人々は引き上げていった。

 お父様もお母様もエリアお姉様も、それぞれの部屋に引きこもっている。

 食事もそれぞれの部屋に持ってくるように言われた、とイレーナは言っていた。


「お嬢様はどうなさいますか?」


 そうだな、と考える。


「厨房で食べるわ」



 これはよくあることだった。

 私とシリア姉様以外が社交の場に出なくてはならない日、私はよく厨房で食事をしていた。お父様達には内緒である。

 どこかから話が流れているのかもしれないが、とりあえず止めはしなかった。

 そんなことを、と料理人の中には眉をひそめるのも初めはいた。

 けど、私の育ちや、皆が居なくて寂しい、ということを告げたら彼等はほろりとして出来たての賄いを食べさせてくれた。

 そして豪快に食べた。


「普段の料理はお気に召さなかったのですか?」


 そんな私の様子を見て、料理長は不安げに私を見た。


「ううんあれはあれで美味しいの。ただ、どうしても慣れなくって。今まではばあやが作ってくれたから」


 森の側の家では、この賄いの様な食事が常だった。たっぷりと、野菜がごろごろとしたシチュウや、あぶりたての肉とか、焼きたてのパンとか。

 どうしても家族揃ってのテーブルだとあつあつのもの、という訳にはいかない。綺麗で、それでどうしても何処か冷めたものになってしまう。

 離れの食事もそんなものだったので、どうしてもなかなか揃っての夕食には慣れることが――今でもできない。


「お取り調べ、お疲れ様でした、マリア様」


 厨房に行くと皆がふわりと微笑んでくれた。


「みんなもご苦労さま。色々聞かれた?」

「はい」


 そしてテーブルにつく。

 この日は十人ほどが大きなそれを囲んでいた。

 お父様とかの直のお付きではなく、もっと下っ端に当たるひと達。

 歳はまちまち。先輩後輩はいても、上下はない。

 お父様には内緒、ということが皆面白いらしく、私はちょいちょいとこの中に入らせてもらっていた。

 「後からきたお嬢様」という立場もある。

 気位の高いエリアお姉様より、私は取っつきやすかったらしい。


「それにしても、離れのお嬢様のことなど、わたし等が何を知ってるというんですかねえ」


 旺盛な食欲を見せつつ、口々にこの日の取り調べのことが語られだした。

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