―第32話― 悪魔狩り

 何だ、この騒ぎは。

 いつも通り少年の後ろを歩いていると、町の中心に当たる場所に人が集まっていた。

 ふっふっふ、こういった時にこの体は便利なんだよなあ。

 はい、ちょっと通りますよっと。


 人混みの中心まで行くと、そこには一人の男がはりつけにされいた。

 何だ、こいつは。

 見たところ、普通の冒険者のようにも見えるがな。


「これより、この者の処刑を始める」


 その声に、集まっていた者の視線が集まる。

 こいつは、罪人かなんかなのか?


「ふざけるな、俺がなにしたってんだ!」

 磔にされた男が、必死の形相で叫ぶ。

 しかし、その声に対して民衆から返ってきたのは。


「てめえこそふざけるな、この悪魔めが!」

「とっとと地獄に堕ちろ!」


 そ、そんなにひどいことをしたのか、この男は。


「皆の者、少し落ち着け」


 磔代の横に立っていた男の一言で、その場にいた全員が口を閉じた。


「それでは、この者の処分を言い渡す」


 そして、その男はおもむろに息を吸い、


「この者は、悪魔と関わり、この世を混乱に貶める恐ろしき力を手にした。このことは到底許されるべきことではない。よって、この者は火刑に処す」


 そんな、とんでもないことを口にした。


「おい、ふざけるな! 恐ろしい力だと!? ただの能力じゃねえか!!」

「黙れ! 何が能力だ!! この汚らわしい悪魔崇拝者が!!」


 磔られた男に、次々と石が投げられる。

 あまりの胸糞の悪さに、俺は少年の元へと戻った。

 少年も、遠巻きにあの光景を見ていたのか、


「悪習だな」


 と、たった一言だけ呟いた。

 ……なるほどな。

 この街は、能力者を忌み嫌う風習があるようだ。

 ……そういえば、昔は悪魔狩りとかで能力者を狩る慣習があったってのを本で読んだ記憶があるな。

 この街には、未だにその風習が残っているのだろう。

 …………!

 そうか、だからビオラさんは俺が見えることを隠しているのか。


『っ!!』


 処刑が始まったのか、男の断末魔があたりに響いた。


「……絶対にこの街から出ていってやる」


 少年の表情は、怒りに満ちていた。

 この少年は、正義感が強いんだろうな。

 周りの起こす理不尽に対して怒ることができている。

 そしてその一方で、自分だけでは何もできないことが分かっているのだろうな。

 ひょっとしたら、俺なんかよりも相当賢いのかもな。

 俺だったら、能力ですぐさまあの場にいた全員を気絶させそうだしな。

 ……本当に、理不尽ってのは頭に来るな。




 草木も眠る丑三つ時。

 この姿になってからは眠る必要がなくなった俺は、先ほどの処刑場へと向かっていた。

 もしかしたら、まだ魂が残留しているかもしれない。

 そうしたら、少し話したいこともあるしな……。

 って、あれは……。

 処刑台のところには、この間喚き散らしていた宣教師じゃないか。

 いったい何をしているんだ?


「『チェンジ・アンデッド』」


 な!?

 こいつ、アンデッド化の魔法を使いやがった!?

 灰の中からは、処刑されたあの冒険者の骨が少しづつ形を取り戻している。

 こりゃあ、少しやばい状況かもしれないな……。

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