―第30話― 夢

 ……あれ、ここ何処だ?

 というか、なんで俺はこんなところに……。

 あ、そうだ、ルビーに夢がどうこうって言われて……。

 てことは、ここは夢か?

 にしては、景色がリアルなような気が……。

 ってか、なんで俺は浮いてんだよ!

 よく見れば、全身が半透明になってるし。

 え、なに、俺は幽霊かなんかになったの!?


「よいしょっと」


 うわ、びっくりした!

 誰だ、このガキ……、子供は。

 なんか持ってるけど、ずいぶんと重たそうだな。

 ……試してみるか。

 …………はあ、やっぱりだめか。

 少し手伝おうかと思ったが、そもそも触れることができないようだ。

 というか、本当に重そうだな。

 何を運んでいるんだ?


 …………!

 その子供は、水瓶に水をたっぷりと入れて運んでいた。

 普通、こういうのって大人がやったりするんじゃあないのか?

 ……なんか心配になってきたし、とりあえず着いていくか。


「ただいまー」


 ほう、ここがこの子の家か。

 ま、普通の民家って感じだな。

 中に入ると、少年は真っ先にある一室へと足を運んだ。

 その部屋の中には、ベッドに横たわっている一人の女性がいた。


「お母さん、体の具合はどう?」

「今日は、結構いいほうよ。ありがとうね」


 ……なるほどな、そういう事か。

 この子の母親は、かなりの重病を患っているようだ。

 だから、この子が一人で水を汲みに行っていたのか。

 うーん、今の状態だと能力も使えないみたいだし、どうもしようがないな……。


「はい、今日の分のお薬とお水」

「……ごめんね、いつも苦労を掛けて」

「ううん、謝らなくていいよ! だって、困ったときはお互い様なんでしょ?」

「……ありがとうね」

「いいよ! それじゃ、おじいちゃんの家に行ってくるね」

「気を付けてね」


 そっと扉を閉め、少年はその部屋を後にした。

 ……健気だなあ。

 病気の母のため、か。


「えっと、申し訳ありません。どちら様でしょうか?」


 !?


『えっと、俺のことが分かるんですか?』


 この家に来るまでに数人とすれ違ったが、誰も俺のことに気付く様子はなかった。


「フフッ、目は見えなくとも、気配だけは感じ取れるんですよ」

『? それって……』

「私は、少しばかり厄介な病を患っておりまして。その影響で、今は目が見えないんですよ」

『そう、ですか……』

「ああ、そんなにお気になさらないでください。私自身は、見たくもないことを見ずに済むので、案外気にしてなかったりしますので」

『それならよかったです』

「あ、申し遅れました。私は、ビオラと申します。生まれつき、あなた様のような高位な方の姿が見える体質なんですよ」


 ん、高位?


『俺、そんな感じの人間じゃないんですけど……』

「……なるほど。おそらくですが、何かしらから神聖属性の加護を受けているようですね。おそらくですが、それが影響しているのだと思います」

『へえー、そうなんですか』

「まあ、この家に来たからにはしっかりと客人として扱いますので、ご自分の家だと思ってゆっくりくつろいでいってください」

『あ、ありがとうございます。……そういえば、ご主人はどうされたのですか? 先程も、お子さんのほうが動いていましたが……』

「うーん、その質問にはお答えできないですね」

『どういうことですか?』

「少し複雑な事情がありまして、あの人はもうここには来れないんですよ。そして、自分のことはなるべく口外してくれるな、ということを言われていますので……」

『そ、それは失礼しました……』

「いいえ、お気になさらず。……そろそろ――――――が返ってくる頃ですね」


 あれ、今ノイズみたいなのが入ってうまく聞き取れなかったな。


「私の体質のことは、あまり知られてはいけないので、申し訳ありませんがあの子の前では……」

『わかりました』

「ただいまー」

「それでは、またの機会に」

『ええ、それでは』

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