第4話 観測

 航空自衛隊、府中基地。

 かつてはスペースデブリなどを観測するために設置された、宇宙作戦隊の観測基地だ。

 現在は、規模が大きくなった宇宙作戦隊の総隊が置かれており、現在も観測業務は行われている。

 そんな宇宙作戦隊は、地球の高軌道衛星地帯にいる光学観測衛星「ひかり」を使って、情報を懸命に収集していた。


「どうだ?光学で捉えられたか?」

「……難しいですね。地球に向いている面と向いてない面の境界辺りにいるので、うまく捉えられない状態です」

「こういう状況は光学の苦手とする所だな。そっちの方はどうだ?」


 そういって、別のパソコンをいじっている班に聞く。


「赤外線ならばっちり捉えられますよ。しかし、月と比べるとかなり巨大な物体ですよ」


 赤外線からの情報によって、その正体が次第と分かってきた。

 その物体は、幅が最低で100kmある事が判明する。当然、こんなものが地球から運搬されたという事実はない。

 となると、必然的に考えられるのは、地球外からやってきたということだろう。


「あの物体、何だと思う?」


 宇宙作戦隊総隊司令官が副官に問いかける。


「順当に考えれば異星人によるもの、でしょうね」

「だな。しかし、あんな巨大なもの、一体どこからやってきたというんだ?」

「それこそ、我々の想像できない超技術というものでしょう」

「……仮にそうだったとして、それが地球に向かない事を祈るしかないな」


 それから世界中の天文台、観測装置、アマチュアの天文家までが参入し、月面に出来た異物を観測する。

 約1ヶ月の時間を使うことで、その異物を隅々まで観測した。

 その結果、人類の持っている技術を超越した技術力を有している、異星人による構造物という結論に至った。

 この観測結果を受け、安保理理事会が直ちに動く。


「緊急招集に応じてくれて、まずは感謝を申し上げたい。さて、早速議題に入ろう」


 そう議長が言う。


「月面に出来た異物。世界中の有志による観測の結果では、異星人のもので作られたものだそうだが、その辺りはどうなんだ?」


 アメリカ代表が議長に聞く。


「その辺りの情報は現在精査中だが、おそらく十中八九異星人のものに違いないだろうとのことだ。だたし、断定するには情報が少ないというものだが」

「それで、我々を招集した理由はあるのか?」


 今度はロシア代表が聞いた。


「異星人の地球侵略に関しては、かつて2042年にNATOおよび中央アジア条約機構、太平洋軍事同盟が採択した『異星人の登場による軍事同盟』に規定されている。異星人と思われる超文明が出現した場合、安保理理事会で賛成多数で可決された時に限り、国連軍を速やかに組織する事、と書かれている」

「それは分かりやすい侵攻があった場合に限るのではないか?現状、誰の土地でもない月面に謎の構造物が出来ただけで、そんなに大騒ぎすることでもなかろう」


 中国代表が反論する。


「しかし、それではもしもの事が起こった時に対応が遅れないようにするためのものだろう。それに安保理には、そういった脅威となる存在が現れた時に対応するように書かれているのも事実だ」


 フランス代表が中国代表を牽制する。


「現状を考えるに、今はもしもの備えをしておくのが吉だろう」


 イギリス代表がその場を仕切るように発言する。


「仮に月面の構造物が異星人のものとして、それが我々の脅威にならないと考えるのは無理筋があるというものだろう。よって、ここで決議を取ろうと思う」


 その時、ロシア代表が急に立ち上がる。


「この決議は全会一致が前提ではないのか!?」

「どうした急に」

「現在は緊急事態な上に、実質事項であろう?そうなれば、全会一致が理想というものだろう!」

「つまりロシアは、世界的な危機でも自国の利益を優先しようという魂胆なのかね?」


 アメリカ代表が釘を刺す。


「私は問題提起をしただけだ。問題はあの異物が異星人のものかどうかが分からないのだろう。ならば、まずはアレを調査するのが先決ではないのか?」

「確かにロシア代表の言い分も分かる。しかし、ここは地球の安全を守るために、分かってほしい」


 議長はそう訴える。

 その時であった。

 理事国代表の前に置いてあるモニターが、急に砂嵐になった。

 そして、砂嵐が収まったと同時に、謎のヒト型物体が姿を表す。


『地球の諸君、初めまして。我々は、君たちでいう異星人である。衛星に居を構えているのは、我々である。我々の目的はとある人物の殺害だ。もし、ひと月の時間で当該人物を殺害もしくは我々に差し出すことが出来なかった場合、我々が強制的にその人物を殺害に行く。地上にある全てを蹂躙しながら進んでいくことだろう。そうなれば地球は死の惑星になる。覚悟するがいい。その見せしめとして、これから君たちの叡智を少しずつ奪っていく。以上』


 そういって、再び砂嵐になり、モニターは正常になる。

 その瞬間、安保理議事場に各国の関係者が押し寄せた。

 そして、それぞれが代表の元に進み、先ほど起きた現象について話し始める。


「……どうやら状況は変わったようだな。それでも決議は取るかね?」


 議長が聞く。

 誰も何も言わなかった。


「では、決議を取ろう。国連軍を組織することに賛成は手を挙げてほしい」


 そういうと、15ヶ国の理事国全てが手を上げる。


「今回の会議は以上だ。皆さん、良しなに」


 こうして安保理理事会は終了した。

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