第34話
次の日、街のあちこちで天斗のことを嗅ぎ回る人物が居た。
そして、その人物は天斗がたまに地下ライヴハウスに訪れているとの情報を入手する。
それからこの人物は毎日ライヴハウスに顔を出している。
ある日、その人物は天斗の姿を見つけずっと天斗の行動を目で追っていた。
そして、天斗がこの会場を出たと同時にこの人物もその後を追った。
天斗が自分のバイクが停めてある場所へ向かっている最中に後ろから
〝タタタタタッ〟
と何者かが物凄い勢いで迫ってきた!
天斗は直感的に殺気のようなものを感じて振り返らずにヒラリと横にかわし、その人物が突き出した腕を取り、相手は身動き出来ずにもがいている。
その人物が突き出した手には、刃渡りおよそ20センチもある大きめのナイフが握られていた。
その人物はヘルメットを被っていて顔が特定することが出来ない。
天斗「誰だ?いきなり後ろから襲ってくる卑怯な輩は」
そう言って関節を極めて地面に抑え付けた。
天斗は相手の腕を自分の体重で抑えながらヘルメットをゆっくりと取った。
天斗「やっぱりな………そう来ると思ったぜ!けどよ、あんたも格闘家なら正々堂々と正面から来て欲しかったな………」
天斗は失望していた。
それから数日後、天斗のチームの集会が行われ、天斗もその集会に参加していた。
メンバー達が天斗の痛々しい目の上の傷に興味津々と言った表情で天斗の周りに集まっていた。
総長の中田が
「天斗、いったいお前の顔に傷を付けられた奴は誰だよ?」
天斗は恥ずかしそうに笑っている。
「多分………俺の最大の宿敵となる奴でしょうね………きっとこの先もまた相まみえることになるような気がします……」
中田がまじまじと天斗の傷を見ながら
「そいつはただ者じゃないだろ!俺もお前の実力はわかってるつもりだ。あの透が認める男なんだからな」
天斗は謙遜して
「中田さん………俺はまだまだ全然未熟者ですよ………このチームでも一番のぺーぺーですし………買い被ってもらっては困ります」
「いや、そんなことはねぇよ!でも、お前のそういうところが俺は好きなんだよ!」
「ところで、蔵田さんの容態はどうなんすか?」
天斗が中田に聞いた。
「あぁ……それなんだがな……もうアイツがチームに復帰出来る見込みはねぇな………」
それを聞いた主力メンバーが
「え!?蔵田に何があったんすか!?」
「蔵田病気か何かっすか?」
「実はよう………」
蔵田は怪我の後遺症で、神経が損傷を受けて身体が動かなくなっていった。
そして、これがきっかけでチーム内に嵐が吹き荒れることになる。
次期総長として最も有力とされていた蔵田が外れることにより、他の候補として上がっていた幹部達がこの大きな組織を我が物にせんと目をギラつかせていた。
当然中田も天斗もその空気を敏感に感じ取っていた。
そして中田がそれを牽制するかのように切り出した。
「そこで皆にある提案があるんだ………俺はもうすぐ引退を考えている。そしてこのチームの次期総長として誰が相応しいかずっと考えてきた。このチームも今やこの辺では知らぬ者など居ないほどにデカくなった。だからそれを率いるにはそれなりの実力、名声、人望……それら全てを兼ね備えていなければ、あっという間にライバルのチームに潰されてしまうだろう………」
中田はチーム全員を見回してから続けた。
「そして俺はある結論にたどり着いた!」
チーム全員が息を呑んで聞いている。
「次期総長として、俺が推したいのは………」
中田は自分の隣に居る天斗の背中を押して前に立たせた。
「俺が推したいのは、この天斗だ!」
これを聞いた幹部のみならず、それらを慕って付いてきたメンバー全員が一斉に天斗を睨み付けた。
この反応に天斗だけではなく、中田もメンバー達が納得出来ていないことはすぐに理解出来た。
「中田さん!俺はこのチームを背負う気なんてさらさら無いっすよ!俺はそんな器じゃない!」
天斗はすぐに辞退を表明した。
しかし、中田は天斗の顔を見て軽くうなずき、そして続けた。
「皆の言い分はよくわかっている!今の幹部は皆このチームに大きく貢献してきた実績がある。それをこの新参者の、しかも一番歳も下の天斗に付いて行こうって奴は居ないかも知れない。けどよ……皆実際どうだ?天斗のこれまでの功績……喧嘩の実力……そしてこの人柄……確かにこいつは一番歳は若い。だが、それをも上回るこいつの器の大きさはここにいる全員が認めざるを得ないものを心の中で感じているんじゃないか?俺は思うんだよ……このチームを立ち上げた初代総長は、ただの荒くれもの達を束ね、そしてこの社会にダークヒーローとして人知れず貢献してきたんだ!今は俺の器が足りてなくてチームを一つにまとめきれてねぇから、いくつかの派閥が出来ちまってるが、もしこのチームが一つの方向を見て一丸となったら、それこそ強固なチームとなれる!それを束ねられるとしたら、やっぱり天斗が一番適任だと………」
メンバー達は黙って聞いている。
そして、幹部の三人が何も言わず順番に退席した。そしてそれぞれの派閥のメンバーもそれに習い消えていった。
しかし、他の派閥のメンバー達はまだ大多数ここに留まっている。
これは中田にとって予想外の展開だった。
残った幹部が次々と口を開いた。
「中田さん、俺はあんたの意見に賛成だ!俺は天斗とこのチームで共に生きていくぜ!」
「俺も天斗なら付いてってやるよ!こいつなら、いつかきっと化けモンに成長するだろうからよ!」
「仕方ねぇなぁ………お前に付いてってやるか!」
そうしてこのチームは、中田が引退後、天斗が総長として新たにスタートすることとなる。
集会が終わって皆解散した後、天斗と中田だけが残っていた。
「なぁ天斗、意外な展開になったな」
「中田さん………そういうサプライズ止めて下さいよ……」
「けどよ、これでスッキリしたじゃねぇか!俺の居なくなったあと、誰がお前に付いて行くか。これだけメンバーが残ってくれりゃ、お前だって頼もしいだろ?」
「いやだがら……俺なんか皆を束ねられる器じゃないんで……」
「それを決めるのはお前じゃねぇよ!お前に付いてってやるって言った仲間が居るってことは、お前をそれだけ認めてるってことじゃねぇか!」
天斗は本当に自信など全く無かったが、それが自分の運命なのだと受け入れるしか無かった。
その報告はすぐに透に伝わっていた。
そして透から天斗に電話があった。
「もし?お前やったなぁ!」
「透さん………」
「チームに入ってこんなにも短いスパンで異例の総長抜擢!!!さすがは俺の秘蔵っ子だけあるな!」
「いや………事の成り行きでそうなっただけで……何て言うか自信とか全然無くて……今でもまだ誰か他の人が代わってくれないかな?って……」
「まぁそう謙遜するなよ!皆お前のそういうところが気に入ってんだよ!やるだけやってみろよ!」
「はぁ……」
「それとよ、ちょっとある情報筋で耳にしたんだけどよ、お前………某ジムと小競り合いあったのか?」
「え?何でそんなこと知ってんすか?」
「やっぱりか……いや、これは本当にごくわずかな者しか知らないシークレット情報だから安心しろ!お前が相手した石田ってのはよ、ある暴力団組員の息子でよ、ある意味ちょっと面倒な輩なんだよ……」
「そうなんですね……今回は向こうから仕掛けて来たので……」
「わかってる。その傷は石田から付けられたものだろ?」
「まぁ……」
「一応石田って奴も格闘家の卵だからな。それなりに出来るんだろうけど、ちょっと嫌な噂聞いたからよ……」
「嫌な噂?」
「何者かがお前を執拗に狙ってるって……きっとそれが石田と関係のある奴の隠蔽工作を図ったものだと見てるんだがな」
「えぇ……そうでしょうね……」
「もしかして何か心当たりがあるのか?」
「まぁ……ちょっと前に襲われたことがあったので……」
「やっぱりそうか……だが、この件が未だに表に出てないから相手もいずれ諦めるだろうがな」
それから三ヶ月の月日が経ち、薫のレディースチームに大きな変化が起きた。
総長である今井あずさが、このチームを脱退する意思をメンバーに伝えた。
「みんな………今まで本当にありがとう………本日をもってチームを卒業するけど、皆のことはこれからもずっと私の想い出として心の中に大切にしまっておくよ………
そして………これより新たな総長として、かねてより話していたこの薫に託す事にした。
皆よりも歳は下だけど、実力で言えば皆が知ってる通りガチで本物だ!
もし………薫が何か困っていたなら、皆でサポートしてあげてほしい。
きっと………このチームは今まで以上に大きくなって行くだろう……
それを見るのが、今後の私の楽しみでもある。
さぁ、今日は皆で久々に思いっきり走って来ようぜ!!!」
あずさのその言葉にメンバー全員が一斉に拍手をしてバイクに乗り込んだ。
あずさが引退し、薫をリーダーとした新たなレディースチームのスタートが始まってから早々に、このチームに大きな変化が現れ始めた。
かねてより名をはせていた薫が総長を務めるという噂は、良い方にも悪い方にもあっという間に界隈(かいわい)に広まった。
そして、薫を尊敬する女子達はこぞってこのチームに入会したいと集まってきた。
その数はおよそ50人!いきなり大所帯が出来上がってしまった。
そして、薫を尊敬し憧れていたのは、女子だけに留まらず、悪で有名な年上の男子達でさえ隠れ薫一派として薫に接触してきた。
薫は来るもの拒まず、自分の手足のように動いてくれる者達を全て囲って情報収集能力と、勢力の両方を一気に得る形となっていった。
その一方で、薫の勢力を危惧する他の勢力、それはレディースのみならず、男側の族のチームも見過ごすことが出来ないという勢力争いが生まれ始めた。
当然矢崎透の妹ということは、この界隈では周知の通りだったのだが、たかだか中学生にして大きなレディースを束ねるということは、あまりにもニュースとしてはショッキングな出来事だったのだ。
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