第25話
あずさは強く拳を握りしめ、怒りで身体が震えている。そして暗闇の中、どこか一点をものすごい形相で睨み付けていた。
薫があずさに近より
「おねぇ…総長…コイツらは人間じゃない!生きてる価値もないクズだ!」
「薫…今晩の事件で必ず仲間が動いてくる。ウチのチームに手を出したらどうなるのか、奴等にとことん思い知らせてやろうじゃないか!例え相手がどんなに危ない奴だろうと、そんなんでビビるほどヤワな生き方してきちゃいないよ!」
「総長、もちろん美夏ちゃんの為にも奴等は許さない!攻め込まれる前にこっちから奇襲仕掛けてやりましょうよ!」
「そうだね!動くなら明日だよ!明日必ず奴等は集会開いてこの男達の弔い合戦に動き出すはずさ!」
「奴等のメンバーが集まったところで奇襲かけて一網打尽って寸法ですね?」
「例え刺し違えようとも絶対生かしちゃおかない!女をオモチャにするようなゲス野郎共!!!ブッ飛ばす!」
恐怖で放心状態の女の子達をあずさ達は家に送り届けることになった。薫はそこへ一人残り、天斗の元へ寄って二人きりになれる所へと中田達みんなから離れた。
「ねぇ、天斗…ありがとう…いつもいつも…結局私って自分のことぐらい自分でやれるって思って来たけど…全然そうじゃ無かったんだね…私にはいつも…天斗が付いていてくれた…ずっとずっと昔から…ほんとに…ありがとう…」
薫は改めて天斗の存在の大きさを感じていた。自分から離れて行ったのに、それでもいつでも心から心配してくれて、どんな時でも力になってくれる…今はもう消し去ったつもりだった天斗への想いが、少しばかり揺らいでいる自分に対して困惑していた。そんな薫の想いを現実に引き戻す天斗の言葉が…
「薫…武田とはどうなんだよ…何かちょっと頼りないっつうかさ…お前は自分を守れるぐらい強い男じゃなきゃダメだったんじゃねぇのかよ…お前の横に居る資格を持つには、それが絶対条件だったんじゃねぇのかよ?もし、この先お前の身に危険が及んだ時、お前を見捨てて逃げ出すような事があったら俺は…アイツを全力で潰させてもらうからな!」
「天斗…」
「ま…これは透さんとの約束でもあるからよ…そんだけのことさ…」
天斗…ごめんね…何か今日の私はどうかしてたみたい…今の天斗に私が思わせ振りな態度取ったら余計に辛くなるだけだよね…
「大丈夫!剛はいつか必ず誰よりも強くなって私を守れる男になるから!」
そう…天斗がそうだったように…
「薫…無茶すんなよ!お前に何もするなっつったって、結局黙って居られるわけがねぇのはわかってるけどよ…お前に無茶されて何かあったら…俺が透さんに殺されちまうんだからな!」
「わかったわかった!説教とかマジウザいから!」
そして二人は顔を合わせて吹き出してしまった。
翌日
Nの鷲尾達は、自分達の仲間が中田、天斗達によってキャンプ場で報復を受けたことなどは知らず、何者かによって拘束されているという情報を受けてその犯人探しに躍起になっていた。
「いったいどこのどいつなんだ!早く犯人を割り出せ!俺達に楯突いたらどうなるか思い知らせてやる!!!」
鷲尾は目撃情報等を集めるべく、仲間達を方々に当たらせていた。
そして帰って来た仲間から有力な情報として薫達のレディースメンバーの報復の可能性が高いことがわかった。しかし、女だけで手練れの悪達をボコボコにして粘着テープでぐるぐる巻きにし、ロープで木に縛り付けるだけの力があるとは鷲尾には到底理解出来なかった。絶対に他に誰か協力者が居ると勘ぐっている。
鷲尾が聞いたこともないレディースのチームの名に
「なんだ?そんなチーム聞いたことねぇけどな」
「確かにちょっと前までは弱小チームでほとんど名前など売れて無かったみたいなんすが、どうも最近けっこう急激に勢力伸ばしてきてるって話で」
「フン!たかが女共にナメられるわけにはいかねぇな!それに、他に何者かが関わってるに違いないはずだ!そいつらのこと吐かせに行くぞ!」
鷲尾達は真っ先にあずさの元へと向かった。
一方あずさ達も鷲尾達に報復しようと、薫の説得もあり天斗達の族のメンバーと合流して合同でNを潰す為に待ち合わせをしていた。が、タイミング悪く、天斗達が到着する前に鷲尾達は先にあずさ達の元へと乗り込んで来てしまった。
複数の唸るバイクのエンジン音に、一瞬天斗達が到着したのかと思ったのもつかの間、殺気を帯びたやさぐれ集団があずさや薫達の周りを取り巻く。
「おぉ!俺達が何でここに現れたか、もう十分心当たりはあるよなぁ?」
鷲尾がイラつきを隠しきれずにあずさに向かって歩いていく。
薫が心配そうにあずさの袖を引っ張る。あずさは少し緊張気味に薫に振り返って「大丈夫」と目で合図する。
「あんたが鷲尾かい?昨日はあんたのとこのメンバーがウチの美夏に随分と酷い目にあわされたよ!ちょうど今からあんたの所へ乗り込むとこだったんだが、どうやらその手間も省けたようだね!」
「ほう?随分と威勢のいい!」
「あんた達みたいなクズがのさばっているから何の罪もない善良な人達が力でねじ伏せられて泣き寝入りしなきゃならないんだ!」
「ワァーワァーとうるせぇ女だなぁ!昨日キャンプ場でウチの仲間をあんな目にあわせてくれた奴はどいつだ?お前らみたいなクソ女にあいつらがやられるはずは無いことぐらいわかってる!」
「フン!あいつらはもう一生女に対して使い物にならない身体にしてやったさ!」
「このクソ女~」
バシィッ!!!
鷲尾はそう言って目にも止まらぬ速さであずさにおもいっきり平手打ちを浴びせた。
「あっ!」
思わず薫が声を上げた。と、同時にあずさも鷲尾に対しておもいっきり平手打ちを返した!
鷲尾は頬を押さえて鋭い眼光であずさを睨み付け付ける。この一触即発の状況に、薫はどう出るべきか迷っていた。
鷲尾が脚を振り上げあずさの顔面目掛けて振り上げようとした時、薫が後ろから空高く大きく片足を振り上げてかかと落としの体勢に入っていた。
ブンッ!
とっさに鷲尾が薫の攻撃をかわしてあずさから離れていた。
レディースのメンバー達が一斉にあずさに駆け寄り、盾になって庇う。薫が鷲尾に向かって
「総長に手を出したんだから、もうあんたの人生は終わったよ!」
「あ?何だお前!むしろお前らの方がウチに宣戦布告してきてんだから人生終わったのはお前らの方なんだよ!」
Nのメンバー達が薫達にジリジリと詰め寄る。あずさがゆっくり前に出て薫の肩を掴んで
「薫…あんたを傷ものにするわけにはいかない!あんただけは私が絶対守らなくちゃならないんだ!」
「おねぇ…総長!総長に手を出した奴は私が許さない!」
「いいから下がって!私だって、だてに総長務めて来た訳じゃないんだ!何度も何度も修羅場や死線なんてくぐり抜けて来たんだ!私が一番年下の薫に守られたなんてあってはならないことさ!やる時はきっちりやるのが総長としての努めさ!」
「総長…」
薫は絶対に譲らない固い決意を持って挑んでいるあずさに、これ以上逆らってはいけないと思い軽くうなずいて横にどいた。あずさはゆっくりと前に出て再び鷲尾と対峙する。
「これは美夏の弔い合戦だ!負けるわけにはいかないんだ!!!!!」
あずさの目には全く臆するような弱さは感じられない。
「ほう!なかなか良い目してやがるよコイツ!どうだ?俺の女にならねぇか?お前みたいな肝の座った女はそうそう居ねぇ」
あずさは鷲尾に向かって唾を吐きかけた。
「ブサイクな上に最低のクズ野郎が私なんかと釣り合えると思う?私には強くて優しい素敵な男が似合ってるの!わかる?あんたには一生かかっても手の届くような女じゃないわ!」
鷲尾は仲間達の目の前で女にここまでコケにされた経験がない。当然鷲尾のプライドはズタズタにされて怒りは限界を越えている。目はつり上がり、口元は震え、拳を固く握り締め、その手を振り上げた瞬間に薫がとっさにあずさの身体に飛び込んで鷲尾が振り下ろした拳をギリギリのところで避けた。更に鷲尾があずさに蹴りで追撃を仕掛けようと片足を上げたタイミングで薫が足払いを喰らわせ、鷲尾は体勢を大きく崩し転倒した。
「このチビがぁ!!!テメェもブッ殺すぞ!」
薫も怯まず鷲尾を睨み付ける。あずさが倒れている鷲尾に飛びかかろうとした時、Nのメンバーも一斉にあずさに向かって動き出した。そこへ何十台ものバイクが爆音を轟かせながら近づいてくる。
そのバイクの一台が先陣切ってNのメンバーの中へと突っ込み、右往左往して蹴散らしていく。それはやはり天斗だった!
「薫~!無事か!?」
「天斗!」
中田達がゾロゾロと寄ってきてお互いにらみ合う形になった。
「鷲尾~!蔵田の仇取りに来たぜ!今日ここでお前達を潰す!」
「あ?何寝言言ってんだよ!お前ら全員生きて帰さねーぞ!俺は今MAXに頭に来てんだよ!」
「鷲尾、そりゃこっちのセリフだ!もう俺達もお前らの行きすぎた横暴さを看過することは出来ねぇ!今日という今日は徹底的に潰してやる!」
中田率いるチームとあずさ率いるレディースチーム、そして鷲尾率いるチームのおよそ百近いメンバー達の抗争が始まった。
鷲尾と中田の号令とともに、三勢力が一斉に入り乱れ互いが密集しながら暴れまわる。
天斗は薫の側で薫を庇いながら、薫はあずさや自分のレディースメンバーを庇いながら戦っている。
そして実はこの時、剛は天斗の行動を密かに追って原付でこの現場に一人駆けつけ、そして天斗の闘いぶりを観察していた。剛は薫の危機に手も足も出せなかった不甲斐ない自分に対して憤りを感じ、天斗に言われたように薫を守れる力とはどういうものなのかを知りたかったからだ。
剛、黒崎と共に行動してよく観察してみろ。大切な人を守るってことがいかに難しく、そしていかに重要なことなのか見えてくるはずだ。あの黒崎だって最初はただの泣き虫に過ぎなかったんだ。それでもアイツは大切な繋がりを失いたくない一心であそこまで強くなれたんだ。お前もそれだけ悔しい想いをしたのなら、それをバネに強くなれ!
それは透から言われた言葉であった。
黒崎…俺もお前のように強くなってやるよ!もう二度とあんな惨めな想いをしなくても済むように!
天斗と透の言葉は剛にとって大きな転換期を迎える為の原動力になっていた。
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