掌編集2022

たぴ岡

崩壊

 僕の大切なものが壊れるときは、決まって白い少女を見た日だった。

 小学生のときの学芸発表会。会場に潜む小さな白い何かを見た。記憶は定かではない、けれどこれまでのことを考えるとそれは少女だったのだろうと思う。ステージに上がってすぐに見つけてしまったものだから、動揺して台詞が飛んだ。代わりに隣にいた子が僕の役を引き受けてくれたが、僕らの学年の劇は大失敗。それ以来僕はいじめられることになった。

 中学生のときに引っ越した。第一印象が大切だとわかっていたから、僕は失敗しないように自己紹介も会話の受け答えも色々考えておいた。微妙な時期の転校だったし、ゼロかヒャクかだろうと思っていた。結果から言えばゼロだ。白い服の迷子らしき少女を助けて遅刻し、僕のための時間なんてなくなってしまったから。当然友人なんて一人もできなかった。

 推薦で高校へ進学することになっていたのに、会場へ向かうときに白いワンピースの少女を見つけてしまった。面接は散々だった。考えておいた全ての回答が脳から消えていて、僕の高校受験は失敗した。それからというもの、親からの信頼はなくなったし、僕のやる気もなくなった。

 好きな子に告白するときもそうだった。あれは夏祭りで、花火大会のときに伝えようと計画していた。それなのに白装束の少女を見た。彼女に気持ちを伝えると、気持ち悪いと平手をくらった。

 だから今、僕が目にしている光景も、何故か怖くなかった。きっとそうなるだろうと思っていたから。さっきまで目の前にいたウエディングドレスの女性は、自らの紅とドレスの純白の美しいコントラストを作り上げていた。僕と結婚するはずだった彼女は、もう助からないくらいに血を流していた。恐怖よりも感動があった。

 振り向くと白い少女がこちらを向いて微笑んでいた。何とも愛らしい、守りたくなる笑みだ。それを見て僕は全て理解した。だから、手に持っていたその血に染ったナイフを、僕の胸に刺した。


お題「白い少女」

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