扉のある屋敷

@kunibasira

第1話 扉のある屋敷

 あるところに3階建てのお屋敷がありました。そのお屋敷はとてもとても大きく、明らかに住民は普通の人ではないことがわかるほどでした。また、周囲を森に囲まれたちょっとだけ不気味な屋敷でした。


 お屋敷の中は、玄関ホールはごくごく普通の造りでした。2階も3階も少し華美な所はあれども、このくらいのお屋敷ならば普通だろうと思うような造りでした。しかし、1階だけが厨房と食堂、応接間、浴室、お手洗いを除いて10cmほどの間隔で扉が埋め込まれていました。


 厨房と食堂、応接間、浴室、お手洗いにはプレートが付いており何の部屋か一目瞭然でしたが、他の扉にはヒンジとドアノブ以外に何も付いていませんでした。また、奇妙なことに外からこのお屋敷を見ると2階と3階には普通に窓がついているのに1階だけは厨房と食堂、応接間、浴室、お手洗いを除いて窓がありませんでした。


 正確には扉の数と合う部屋の中を覗ける窓がありませんでした。しかし、2階と3階と同じような間隔で窓枠はありガラスもあります。しかし、中の様子はお屋敷の主人の幻影魔法で再現されているモノが窓と壁の間に存在するだけでした。なので、外からでは普通の部屋の間取りのようにしか見えませんでした。


 お屋敷の主人はまだ24歳の青年でした。彼は、平民、しかも田舎の農民の生まれでしたが、頭もよく、魔法も使えたので偉い人が推薦状を書いてくれて特別な学校に通うことができました。家からは遠くて通えないので、まだ6歳なのに寮生活になりました。彼は、6年制の初等部では図書館に入り浸(びた)り、沢山の本を読んで知識を身に付けていきました。そして、試験ではいつも1番になっていました。


 しかし、そんな彼を妬んで一部の貴族の生徒からいじめを受け始めました。ですが、彼は本で呼んだ知識を基にして、いじめをしてきた生徒達に復讐をしました。彼は、火や水、風に土、光に闇といった全ての属性の魔法以外に時間と空間を操る時空魔法を持っていました。


 彼は自分だけが持っている時空魔法で復讐をしました。内容としては、とてもシンプルなもので、いじめてきた貴族の生徒たちの身内が皆、急激に歳を取り、次々に亡くなるというものでした。後ろ盾であり愛する家族が無くなった貴族の生徒たちは心が壊れてしまい、治療のために教会へと入れられました。


 彼は時空魔法で、夜間に生徒たちの家を一軒ずつ回り、家族を強制的に老衰する歳まで年齢を上げたのでした。勿論、幼い子供も例外ではありません。もし、生かしておいて家族を殺し、壊した人間が彼だとバレて報復されると面倒だと思ったからです。しかし、彼もまだ子供でしたので、心を痛めてしまいました。自分の行いを後悔し、神に謝罪しました。


 3年制の中等部に上がる頃には彼は立派な魔法使いとなっていました。もう、誰も彼をいじめようとしませんでした。逆に彼に教えを乞いに来るほどでした。それほど、彼は頭一つ抜けていました。彼は、優しく丁寧に教え、生徒からも教員からも信用を得ました。また、中等部からクラブ活動を始めて、剣術などを学ぶ騎士部に入りました。彼は、そこでも優秀な生徒でした。


 3年制の高等部に上がると、彼は寮の自室で時空魔法の研究を行いました。彼は優秀な生徒でしたので学校から個室を与えられていたのです。また、騎士部では勇敢な部員の筆頭に挙げられるほどの実力を手に入れました。

 また、それに見合う肉体も手に入れました。背は187cmと長身で、細身の肉体には鍛え上げられた筋肉がついていました。所謂、細マッチョでした。なので、冒険者ギルドに登録して休みのたびに稼いでいました。彼を学校に推薦してくれた偉い人がここでも後押ししてくれたので、彼は全てのランクの依頼を受けることができました。すぐに金持ちになりました。


 希望制の大学部に上がりました。2年制と4年制のコースがありましたが、彼は4年制のコースを選びました。大学部は単位制でしたので彼は自身の魔法研究に勤(いそ)しんでいました。しかしながら、騎士部には必ず毎日顔を出して鍛え上げた体をさらに鍛えていました。これは、彼が健全な肉体にこそ健全な魔力が宿るという研究結果の実行にすぎませんでした。


 彼は大学部1年の前期試験にて全て満点を取ると、夏休み期間中は冒険者ギルドでお金を稼ぎました。そして、寮に戻ると魔法の研究を行いました。この際に言語魔法と贈与魔法、返還魔法、幻影魔法を覚えました。彼のオリジナルです。


 言語魔法は全ての生物の言語がわかるようになる魔法。贈与魔法は彼が持っている能力を他人に分け与える魔法。分け与えるといっても彼の持つ能力が低下することはありません。返還魔法は贈与魔法で分け与えた能力を回収する魔法です。


 幻影魔法はその名の通りあらゆるモノを存在しているかのようにその場に造りだす魔法です。幻影は動かすこともできるので、彼は冒険者として働くときはよくこの幻影魔法を使い獲物を狩っていました。


 彼は、2年生のときも3年生のときも新しい自分だけの魔法を生み出し、覚えました。彼が卒業する4年生に進級するとまだ4月なのにあらゆるところから「就職をしないか。」と書簡が届きました。彼はそれらを全て丁重に断りました。中にはかなり偉い人からの誘いもありましたが、それも断りました。


 彼は、初等部から大学部の4年生まで首席でいたので、他の国に行ってしまわないよう、国から推薦してくれた偉い人の領地の好きなところに屋敷と土地を与えると言われました。彼は卒業後には実家に戻り、農畜をして暮らしていこうと考えていましたが、国からそのように言われてしまうと両親たち家族や推薦してくれた偉い人にも迷惑がかかると思い了承しました。


 そうして彼は卒業後、推薦してくれた偉い人ことクレメント・バチェフ侯爵の領地にお屋敷をかまえることになりました。こうして彼の生活が始まったのです。



 6月17日水曜日、ザァザァと降る雨が僕の気分を暗くする。魔法を使えばこの辺り一帯の雨雲なんて吹き飛ばせるけど、そんなことしたら農家の人達が困ってしまう。植物にとって雨季は大切だ。それにクレメントのおじさんにも迷惑がかかるかもしれない。大人しく本を読んでいるのが一番だ。


 窓から本に視線を移すと同時に部屋の扉がノックされる。


「ケネスです。来訪者の方がお見えになりました。応接間にお通ししております。」


 執事長のケネスが扉越しに伝えてくれる。僕は、


「わかったよ。」


 と返事をし、廊下に出る。すぐにケネスに尋ねる。この屋敷で来訪者とは通常のお客では無いという意味を持っている。


「人数は?」


「3人です。主人らしき女性が1人と護衛らしき男女が2人です。」


「侯爵様から事前に連絡は無かったよね?」


「はい。どうも噂を聞いてやって来たようです。」


「なるほどね。じゃ、お仕事をしましょうか。」


 そう言って応接室の扉をノックして開ける。


「どうも、こんにちは。僕の名前はオーギュスト・ユベール。貴方たちのお名前は?」

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