第250話 公爵令嬢のアルバイト
皇都の街が皇太子殿下の婚約者の話で持ちきりだった頃、学園では学期末試験があり、レティ達は街の喧騒とは無縁の生活をしていた。
やはり学園は生徒達を守ると言う強い壁がそびえ立っていたのである。
それは、皇太子殿下の婚約者であろうとも例外では無い事が公爵家の皆を安堵させた。
学期末試験の結果は500点満点の500点満点だった。
しかし、教務室に呼び出されたレティは全力を出せと説教をされ、私達は君の捻りを見たいのだよ、もしかして君の捻りはそんなものなのかと挑発までされた。
売られた喧嘩は買う主義のウォリォール家の長女としては、挑発に乗らないでどうするよと、次の試験で全力を出すと約束させられてしまったのである。
全く……ムカつくわ~
500点取ったのに何が不服なのよ!
大体捻りって何よ? 捻りって……
……と、廊下のバケツを蹴っ飛ばし、また慌てて拾いに行くレティなのであった。
そんなむしゃくしゃしたこの日はお妃教育の日。
何時もの様にサロンに行ってアルベルトを待っていると、クラウドがやって来た。
「 ご機嫌よう、クラウド様 」
「 こんにちは、リティエラ様。殿下は今日は朝から公務で出掛けていまして……少し遅れる様です。申し訳ありません。 」
「 まあ、そうですの、お忙しいのね 」
取り澄ましながら紅茶のカップを手に取りコクりと一口飲むレティをみていたら、変装したレティを思い出してついニコニコしてしまうクラウドであった。
「 クラウド様は今日は殿下とご一緒では無いのですね? 」
「 はい、今日は溜まった仕事を優先させて貰いました 」
殿下には優秀な女官が付いているので、大丈夫だとクラウドが言う。
その女官を育てる為に色々な仕事を経験させているらしい。
「 リティエラ様、突然なんですが……長期休暇はどうお過ごされますか? 」
「 えっ!? 長期休暇ですか? 」
昨年は留学してたので今年は久し振りに領地に帰るつもりだった。
そして……
あの、ガーゴイルと戦った地に行こうと思っていたのである。
「 今年は領地に帰る予定ですわ 」
「 ああ、丁度良かった……リティエラ様、お願いがあるのですが……バイトしませんか? 」
「 バイトですか!? 」
実は……と、クラウドは話し始める。
今回、殿下が温泉施設の視察に行く事になったのはいいが、女官の一人が妊娠をして退職した事と、女官長が持病の悪化で今回は行けない事になり人手不足で困っていたらしい。
そこで、女官として仕事の手伝いをして欲しいと言われたのである。
「 殿下のお世話も少しして頂けたら殿下も喜び……いや、女官の皆が助かります 」
バイト代は………
でも……
これだけ出します!
乗った!
………と、雇用契約成立で、レティは女官のアルバイトをする事になった。
温泉施設の視察とは……
2年前にレティが領地に帰った時に、アルベルトがレティ会いたさに無理やり公務として視察を捩じ込んだ、あの温泉施設が完成した事による視察であった。
期間は2週間である。
長期の泊まり掛けの公務は、あの領地へ行った時を除いてはアルベルトは初めての事であった。
公爵家の領地から温泉施設までは馬を走らせると日帰りが出来る距離である。
2週間のアルバイトが終わったら残りの休暇を領地で爺や達と過ごすのも良いなと思い、その旨を伝えたら快くオッケーを貰えてレティは喜んだ。
クラウドがレティにアルバイトの申し出をしたのは、計画的では無く全くの思い付きであった。
最近、殿下の元気が無い様な気がしていた。
別に何がどうって事は無いのだが……長年一緒にいるカンである。
学園を卒業してから公務の数もぐっと増えて、お疲れ気味なのかも……とも思い、大好きなレティに同行して貰う事で主君を喜ばせてあげようと思い付いたのである。
それに……
温泉施設も、婚約者である彼女が宿泊する事で女性目線での改善点を指摘して貰おうと思ったのである。
クラウドは一石二鳥だと自分の案に胸を張った。
その日、アルベルトの帰城を待っていたが、時間が過ぎても帰って来なかったので帰宅する事にした。
窓から外を見ればもう日は薄暗くなっていた。
クラウド様から時間が過ぎても殿下が来ないなら帰宅する様に言われていたんだけれども……
話に夢中になっちゃってかなり遅くなっちゃったわ。
話し相手になってくれていたデザート担当のシェフとメイドさん達に帰る事を告げ、サロンから出て正面玄関まで歩いていた。
すると……
正面玄関がガヤガヤと騒がしくなる。
「 皇子様が帰城されました 」
……と、お触れが響き渡り、皆がバタバタとしている。
アルベルトが帰城したのだ。
会えるかな?
少しだけでもお話し出来るかな?
……と、ドキドキしながら思っていたら……
玄関から入って来たアルベルトは、その長い足でスタスタと歩き、運悪く柱の横に居たレティに気付かずに通り過ぎて行った。
その時……
彼の後ろを歩いていた女官がレティを見た。
一瞬あっと言う顔をした……が……
彼女は何も言わずレティをスルーしてアルベルトの後を歩いて行った。
彼女は階段の踊り場で殿下に何かを告げている。
今、ちらりと私の方を見たような気がした。
あっ!
私がいる事を殿下に伝えてくれてるんだわ……
そう思って2人を見ていると……
2人は何やら楽しげに笑いながら階段を上り、皇族のプライベートゾーンに消えて行った。
あれ?
女官さんは私の事を知らなかった?
いや、そんな筈は無い。
彼女は留学から帰国した時にクラウド様が迎えに来た馬車に同乗していたわ。
それに……
面会室に居る私を迎えに来たのも彼女だわ。
最近では殿下の執務室で彼女がお茶を運んで来た時に会ってる……
そうね……
目が合った様に思ったけれども……
私だと気付かなかったかも知れないわよね。
殿下はお忙しそうだから……もう帰ろう。
お顔もちょっとだけ見れたし……
レティは門番に挨拶をして公爵家の馬車までトボトボと歩いて行き、馬車に乗り皇宮を後にした。
すると……
アルベルトが走って正面玄関までやって来た。
メイドから、サロンで今の今までレティが待っていたと言う報告を受けたと、クラウドから聞いたのである。
「 レティは? 」
アルベルトは正面玄関の警備員に聞く。
「 たった今馬車に乗りご帰宅なさいました 」
頭を下げ警備員が言う。
くっ……
アルベルトは拳を強く握りしめた。
遅くなったのでもうとっくに帰宅してると思っていた。
レティ……ごめんな……待っててくれてたんだね。
本当は公爵邸まで追い掛けて行きたいが、報告書やらのやらなければならない公務があり行けそうもない……
この埋め合わせは必ずするから……
アルベルトは踵を返し戻って行った。
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