第88話 初めての看病
公爵邸に着く。
レティは、まだ熱が下がらず寝てる様だ。
侍女がレティの部屋から出てきた。
汗を拭き、着替えをさせて、今からシーツを取り替えるから
レティを抱き抱えて貰う為に、ラウルを呼びに行くと言う。
「 わたしがするよ 」
侍女は少し戸惑ったが、では、お願いしますとレティの部屋に案内した。
部屋に入ると、レティは眠っていた。
レティを起こさない様に、そっとお姫様抱っこで抱き上げた。
ふわっ………
軽い………
こんなにも小さいものかと愛しくなる。
身体が熱い………
レティの頭に頬を寄せる。
愛しくて愛しくて胸が切なくなる。
侍女がシーツを替えて、その取り替えたシーツを持って部屋を出て行った。
そっとベッドに下ろし、布団を掛ける。
彼女はスヤスヤと寝息をたてていた。
暫くすると、侍女が冷たい水の入った手桶とタオルを持って来て、レティの頭を冷やすと言う。
それもやるからと言って手桶を受けとる。
タオルを冷たい水で絞り、レティの頭に乗せた。
生まれて初めて人の看病をする………
そこにラウルが来たので、少し話をした。
たまに目を覚まし話も出きるが、ずいぶんぼんやりとしていて、熱が上がると魘されているらしい。
彼女は以前、身体が3つ欲しいと言ってた事を思い出した。
それだけ、色んな物に挑戦し、頑張って来た。
騎士クラブでの訓練が、身体に悲鳴をあげさせる直接の原因になったらしい。
そして、レティは冬期休みに入ると、毎朝、公爵邸の庭で剣の訓練をしていたらしい。
唖然とした………
彼女が何かを成し遂げ様としてる事は分かるが……
成し遂げたい物は何かが分からなかった。
まるで生き急いでいるかの様な………
暫くして、ラウルは侍女を下がらせ
「 病人なんだから、寝込みを襲うなよ 」
……とニヤニヤして出て行った。
襲うわけ無いだろ………と苦笑いをした。
暫く、静かに水に濡らしたタオルを取り替える作業を繰り返す。
するとレティが魘され出した。
閉じた目から涙がツーっと流れた。
涙を拭おうと手を伸ばそうとした時に
「で……んか………」
……と微かに呼んだ………
「 僕はここにいるよ 」
そう言ったら
レティはおもむろに目を開けた………
そして細く白い手が俺の頬に伸びてきた。
「 でんか……ずっとずっとお慕い申しておりました……」
涙をボロボロ流しながら、少し笑顔でそう言った。
そしてまた、彼女は眠りについた………
心臓が破裂しそうだった……
嬉しくて、嬉しくてどうにかなりそうだった。
でも…………
悲しい悲しい告白だった………
レティの額に手をやると、熱は少し下がった様だ。
額の髪を分けると
牧場で見た、風であらわになった時の、まあるいオデコのまだ幼い顔があった。
可愛いな……
長いまつ毛
桃色に染まった頬。
可愛い鼻
赤く小さなまあるい唇
赤く小さなまあるい唇………
気が付くとレティの唇にキスしようとしていた…………
バッと顔を上げて辺りを見回す。
危なかった………
ラウルに警告されたと言うのに…………
そこでレティがぼんやりと目を開けた。
「 レティ、水飲む? 」
そう言うと、彼女はコクンと頷いた。
可愛い………
水差しからグラスに水を入れ、レティの赤く小さなまあるい唇に持っていく………
レティを抱き抱える手に、寝間着を着てるだけの彼女の柔らかい身体を感じる………
胸に目が行く…………
駄目だ。
僕は可愛い羊だ、狼じゃない………
羊だ、羊だと言い聞かせる。
レティは余程喉が乾いていたのか、ごくごくと水を飲み干したが、まだ飲み足りなさそうにしていた。
水差しから水をグラスに入れ、レティの後ろから抱える様にしてまた飲ませる。
美味しそうにごくごくと飲んでいる……
赤く小さなまあるい唇から、白い首筋に目をやると、ごくごくと喉が動く………
そして………胸に目をやる……………
駄目だ!
皇子様だ!
僕は羊の皇子様だ………と理性を奪い立たせた………
「 殿下? 」
飲み終わると、レティが俺の腕の中から見上げて来た。
うわっ、可愛い………理性が崩れそうになる。
「 うん、大丈夫? 」
「 はい………私、長い長い夢を見ていた様です…… 」
レティは甘える様に、頭を俺の胸にクイクイっと押し当てて来た………
どうしょう………
こんな可愛い生き物をどうしたら良いんだ………
すると………
「 殿下!?」
すっとんきょうな声を出し、見上げて来た。
レティは初めて俺を認識した様だった…………
「 えっ!? 」
レティは辺りを見渡し、そして、自分の様を見た。
俺の腕の中で、すっぽり抱え込まれている。
顔がみるみる真っ赤になり
「 殿下! 何でここにいるんですか!!!」
「 君が心配で………」
慌てて弁明する。
私は寝間着姿なのにと、怒る怒る………
「 マーサ、マーサ、殿下を追い出して!!!」
「 分かった、分かった 」
両手を胸に上げて、降参ポーズを取りながらレティから離れ、部屋を出た。
居間でラウルが笑いこけていた。
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