第59話 もう、帰ろう……




王女はこの時に来国していたんだ………


2人は既に出会っていたのね。

私の記憶では王女の来国はもっと先だったのに…………

そうかぁ………

もう出会っていたんだ。





2人のダンスが終わり、皇帝と皇后の元へ手を繋いだまま歩いて行き、4人で楽しげに話し込んでいる。

その間、王女の手はアルベルトの腕を両手でしっかり掴んでいた。









もう、帰ろう………




とぼとぼと歩いていたら

美味しそうな匂いに誘われて、いつの間にか軽食コーナーの部屋に来ていた。



お腹空いたなぁ…………



皆に内緒で、侍女のマーサとカイルとで皇宮に忍び込む計画を立てていたので

朝から何も食べていなかったのだ…………



メイド姿で食べるのは…………無理よね。

レティは忍び込む為に、公爵家のメイドの服をマーサに借りて着ていたのだ。




お腹空いたけど………

もう、帰ろう………




「 我が家に不法侵入してる可愛いメイドさんは、牢屋に放り込もうか? それとも僕の部屋に放り込もうか? 」



振り返ると、ドアの柱に凭れ掛かり腕を組んだアルベルトがいた…………



「 ………罪人は牢屋へぶち込んで下さい 」

頭がぼーっとして何も考えられない。


「 僕の部屋より牢屋の方が良いの? 」

「 はい、罪人は縄で縛り上げ、石を抱かせて拷問して下さい 」


「 レティ、何か変な本を読んだ? 」

「 魔法使いと拷問部屋 」

「 うわっ、それって僕への悪意を感じるぞ 」

2人でケラケラ笑った。



「 よく、私がいると分かりましたね? 」

さっきまで楽しそうにダンスをしてたのに………


「何処にいても………君の事を分からないわけ無いじゃないか………」

「………?………」



その時に

お腹がグーっと鳴った。

「 ス………スミマセン……… 」

顔が赤くなる。



「 お腹空いたの? 」

「 朝から何も食べてないの…………… 」

目はサンドイッチに釘付けだ。


食べて良い?食べて良い?

………と尻尾をパタパタと振る。



殿下はクックッと笑いながら

トレーに色んなものを取り分けてくれた。



「 有り難うございます、頂きます 」

フォークを持ち、パクパク食べ始める。



「 これから可愛いメイドさんの取り調べをするよ 」

殿下はニヤニヤと嬉しそうだ。

私はモグモグしながらコクコクと頷いた。


「 ここに不法侵入したわけは? 」

「 クリスマスパーティーに着るドレスのリサーチに…… 」

本当は商売の為だが………嘘は言っていない。


「 それで、その格好は?それって君ん家のメイド服だよね? 」

「 入れなかった時の為に、メイド服なら………お父様の忘れ物を持って来たと言ったら、入れるかなって……… 」


「 じゃあすんなり入れたんだ? 」

「 はい………すんなり……… 」

「 じゃあ、不法侵入を許した門番を罰しなきゃいけないね 」



ぎょとした。

「 駄目です、罰しちゃ駄目です………えっと………多分、公爵家の馬車だから通してくれたんです! 」


「 そう? 」

「 そうです、だから罰するのは私だけにして下さい! 」


「じゃあ、不法侵入の可愛いメイドさんへの罰はこれにしょう、はい、あ~ん」

殿下が悪そうな顔をしてフォークに唐揚げを突き刺し、私の口元に持ってきた。


「 …………… 」

……………パクり



「 美味しい? 」

「 ?!美味しい、あのお店の唐揚げより美味しい…… 」

殿下がクックッと笑っていた。



軽食を食べて、デザートを頬張る。


「 お腹いっぱいになった? 」

「 皇宮の料理って………凄く美味しいわ 」

シェフを見ると、頭を下げ、ニッコリと嬉しそうだった。


「 何時でも、食べにおいで 」

殿下が嬉しそうに言った。



「 リサーチ出来た? 」

「 はい…………父に見つかったら叱られるので、もう帰ります 」

「 お腹もいっぱいになったしね、じゃあ、馬車まで送るね 」



「 あの……馬車で待ってるマーサとカイルの分も頂いて良いですか?、彼女達も何も食べてない………ので………」


「 良いよ、レティは優しいね、たんと持って行っておやり 」


殿下が手を上げて、給仕を呼び、何かを伝えたら直ぐに籠を持ってきてくれた。


シェフが色々と籠に入れてくれた。

「 有り難うございます、あの………皆、喜びます 」




殿下が籠を持ってくれ、2人で歩きだした。




「 クリスマスパーティーではレティの素敵なドレス姿が見れるんだね 」

「 ハードルを上げないで下さい 」

殿下がクックッと笑う。




マーサとカイルが慌てて外に出て来て、籠を殿下から受けとる。

殿下が私の手を取り馬車に乗せてくれた。



「 じゃあ、気をつけてお帰り、お休み 」

「 お休みなさい 」




カラカラと馬車が走り出した。





王女様………

待ってるね………

悪いことしたな………




私は、殿下にフラれたのに、フッた殿下と何をやってんだか……………





私は唇を噛み締めた…………









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