第44話 窓際2列目、前から3番目の席の君




語学クラブに行く時の話。




アルベルトは全くのレティ不足だった。



3年生と1年生の教室はかなり離れている。

偶然廊下で会うというのは稀で、唯一会えるのは大食堂であったが、お互いの間が悪いのか………


2人は、領地で別れた日から実に半月近く会えていなかった。




そんな中で、この週末にはある令嬢とオペラに行く事を皇后から命じられており、アルベルトのイライラは最高潮だった。




ラウル………

こいつは毎日レティに会ってるんだよな………

家に帰ればレティが待ってるんだ………


レティと顔が似てるのも何気にイライラする………



そう考えたらムカムカして、いつの間にかラウルの尻を蹴りつけていた。



「 痛?! 何?、アル!!何するんだ! 」

とんだとばっちりを受けたラウル。



「 アル、お前、機嫌悪過ぎるぞ 」

……とエドガーが笑う。



「じゃあ俺、語学クラブだから」

そう言ってレオナルドが、教材を持って教室から出ようとすると…………



「まて!」

………と、アルベルトはレオナルドの肩を掴み



「俺が行く」

………と言いながら教材を取り上げて、スタスタと語学クラブの教室まで行ったのだった。



あのイライラは何処へ行ったのか、今やスキップをする勢いだった。





そうして、語学クラブの教室にやって来た。



フフフ………いるかな…………





アルベルトは生まれながらにしての皇子である。



常に他人から注目され、常に他人に囲まれて暮らしてきた。

なので、人前に出る事も人前で喋る事も平気だ。

台本も無しに、その時々の最高のパフォーマンスの言葉を、にこやかに言えるのである。






なんだこの可愛い生き物達は…………



教壇に立つと

12人の丸く大きく見開いた真剣な24の瞳が真っ直ぐ自分を見詰めて来る。



俺の音読に耳を済まし

声を揃えて繰り返してリピートして来てくれる事が心地よい。



サワサワする…………




特に

窓際から2列目の、前から3番目の席に座っている君!



君の可愛らしさは何なんだ?



ピンクががったバイオレットの丸い大きな瞳に、そんなに見つめられると顔が赤くなる………




これは病み付きになる………

レオナルドに譲れない。

次も絶対に来る!




そうしてる内に

その美しい瞳が閉じ、うつらうつらし出した。




えっ?!………眠いの?




これは教師として失格だ!

対策を考えねば…………



心はすっかり教師気分なアルベルトであった。





しかし………

新しい楽しみを見つけた皇子様に、無情にも、語学クラブへの出入り禁止を言い渡されたのであった。




次は必ず『アルベルト先生』と呼ばすつもりでいたのに…………








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る