第42話 皇太子殿下、先生になる





「はあ、身体が3つ欲しい」



「欲張りだね、レティは」



「………………?!」



その声の主は、教室の後ろのドアから入り、カツカツと靴をならして歩いて来た。

レティの横を通りながら教壇の前に立った。




アルベルト皇太子殿下…………




2人が会うのは領地で別れた時以来だ。







全員が固まった。




今は語学クラブの時間だった。

男子生徒10人、女子生徒2人の1年生の組だ。




「 今日はレオナルドに代わって私が先生だ 」



全員が起立し、礼をした。



「座りなさい、では、始める」



まだ、全員が固まったままだが、殿下が資料を音読し始めた。



低く清んだ声

流れる様な言葉が耳に心地良い。




優しい声……………





1年生部員はパニックだった。


こんなに近くで、この、世にも美しい美丈夫を見つめる事になる。

良いのか?

皇族を近くでじっと見るなんて不敬にはあたらないのか?


眩しい

何でこんなにキラキラしてるのか?


それに良い香りがする。

これは皇族の匂いなのか?

いやいや、そもそも匂いを嗅いでも良いのか?


それよりひれ伏したい。

もう、我慢できない。

ひれ伏したい。



学園で

皇太子殿下を遠くからは見掛けても、免疫の無い1年生部員全員は、目の前にいる皇太子殿下に戸惑っていた。

どうしたら良いかも分からずに石の様に固まり、30分の授業を耐えるのであった。




ただ1人を除いて……………




寝てる………




リティエラ嬢は机に突っ伏して寝ている。

1年生部員は横目でチラチラ見て、焦った。




授業が終わり

慌ててレティを起こそうとした令嬢に、アルベルトは手を軽く上げ、制しながら

自身の口元に『し~っ』と人差し指をあてて……



「 大丈夫だよ、私が後から送って行くからね 」

………と、令嬢に先に帰る様に促した。



彼女は顔を真っ赤にして頭を下げて礼をし、教室を出ていった。





「 さあ、どうしょうね、この失礼な令嬢を 」



レティはスヤスヤと寝息をたてている。



アルベルトはレティが突っ伏して寝ている机の前の椅子に跨いで座った。


椅子の背もたれに片腕を置き顎を乗せ、寝入っているレティを見ていた。




可愛い……




ラウルから、毎日夜遅くまで勉強してると聞いている。

学園長から、皇立特別総合研究所への研究員となる承認を得たと聞いた。

15歳の少女が、研究所の研究員になるなんて前代未聞だった。



「 君は何処まで斜め上を行くんだろうね 」

アルベルトはレティの頬を軽くつついた。



レティはまだ起きない。




辺りは夕焼けで赤く染まる。




「 レティ、早く僕を好きになれ 」


そう呟くとアルベルトは椅子から立ち、腰を折りレティの頬に唇を落とした。






「 レティ、ラウルが待ちくたびれてるよ 」


「 ん…… 」



ガバッと頭をあげる。

辺りを見回すと

殿下が窓辺に持たれて夕日を浴びて立っていた。



「 僕の授業はそんなに退屈だった? 」

「…………………」


うわ~っ!もしかして寝てたの私?



「 ヨダレ、ヨダレが付いてるよ 」

殿下がニヤニヤしながら、自身の口元を指でトンとした。



うっ………なんと言う失態。

真っ赤になって、袖でヨダレをフキフキしながら………



「 ご………ご免なさい 」



公爵令嬢が袖でヨダレを拭くなんて有り得ないのだが……

その、あまりにも可愛らしい仕草にアルベルトは萌えていた。





「 殿下の声が優しくて……… 」

叱られた仔犬の様に、耳も尻尾もシュンと下がる。




「 僕の声が子守唄になるなら、毎晩レティのベッドで囁こうか? 」



「………け、結構です………」




「 じゃあ帰ろうか 」

殿下は、クックッと笑いながら教室を出た。

私はバタバタと教材やノートを鞄に積めて、殿下の後を追った。



廊下の窓から入る夕日を浴びて、背の高い殿下の後ろ姿が神々しい。


殿下のブロンドの髪がキラキラと耀いていた。










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