異世界転生で??にとばされる
第36話 キャンセル待ち
「その……心中御察しします」
「何がだよ」
「いやあ……お友達があんなことになってしまって」
「友達じゃねーって言ってんだろ。それに……俺がカルアミルクを火葬にすんのは毎回の事だろ……別にそれに対してどうこうはねえよ」
俺はまた白亜の神殿に戻ってきていた。全身不随になったカルアミルクにとどめを刺し、その後すぐにチェンジを唱え、ワールスロの世界を後にしてここに戻って来たんだ。
浮かない表情で戻ってきて、不満を口にするでもなく押し黙ってる俺に、ベアリスはひたすら恐縮するのみであった。
「怒ってないんですか?」
「お前に対してか? 怒ってなんてないよ。怒ったって仕方ないだろう」
ベアリスはすぅっと鼻から大きく息を吸った。
「ぃよかったぁ~~ッ!!」
声、でかい。
「いやあ、ね? 今回手違いであんなわけわかんない世界に送っちゃったからひょっとしてケンジさん怒ってんじゃないのかな? って思ってたんですけどね!」
ベアリスは笑顔で俺の背中をバンバンと叩く。
「よかった~! 怒ってなくって! そうですね、私悪くないですもんね!! 怒られるわけないじゃないですか! 心配して損しちゃいましたよ!!」
「てめえはちょっとは反省しろッ!!」
「いたたたた! 痛い痛い!! ほっぺがちぎれちゃう!!」
俺はベアリスの両頬を引っ張りながら尋問する。
「というかやっぱり送る世界間違えてたんじゃねえか!! さんざん間違えてないって言い張りやがって! 反省をしろ! 間違いを認めて謝れ!!」
そう言って俺は彼女の頬をはなした。ベアリスは両手で赤く腫れた頬を押さえて涙目だ。
「ま……」
やっと謝罪が聞けるのか。
「……間違えてない……神に間違いなど存在しない……」
このアマ。
「確かに当初送る予定だった世界とは違いましたが、それも因果律の内なのです。たとえ偶然でも、神がそこに送ったという事は意味がある事なのです」
ほっぺをさすりながら言われても全く説得力がない。そもそもどんな意味があるというのか。今回ヴェリコイラ達には何もお願いされていないし実際助けも必要としていなかった。
「植物状態になってたカルナ=カルアさんが救われました!!」
このクソアマ。
「ケンジさんがあの世界に行っていなければカルナ=カルアさんはあのまま一生薄暗い介護施設で寝たきり生活を続けるはずでした。それが、ケンジさんが行ったことによって、生の苦しみから解放されたのです」
『生の苦しみから解放する』とか完全に悪役のセリフじゃねーか。というか魔族とかダークエルフは邪神側の存在だから助けちゃいけないとか言ってたじゃねーか。
「カルナ=カルアさんはケンジさんによってポアされて、救われたんです」
『ポア』とは元はチベット語であり、『転移』を意味する。転じて、死ぬことにより魂が異世界に転移することを指す。
まだ被害者の会とか存在するんだからそういうやべー発言は控えてほしい。俺は会話を打ち切ることにした。これ以上続けて藪蛇にでもなったらたまらない。
「それはそれとしてさあ、元々俺を送る予定だった世界はどういう所なの? そこって……その……まだ、『空き』はあんの?」
我ながら「何を言ってんだ」という感じはする。ホテルの予約じゃねーんだから。
「ちょっと待ってくださいね。今予約状況を確認します」
そう言ってベアリスはデスクトップPCの端末から空き状況を確認する。
あ、これ完全にホテルの予約だ。
「ん~……」
「どうなの?」
モニターを眺めながらベアリスは難しい顔をしている。やっぱり人気の異世界なのか?
「ちょっと……込み合ってはいるんですけどぉ……プランによっては捻じ込めるかもしれませんね」
プランてどういうことなの? ホテルなの?
「ちょっと新規で急に入るのはできないみたいですけど、向こうで誰か死んでちょうど『空き』ができた時に入れ替わりで入ることは出来るかもしれません。キャンセル待ちってことです」
「空きができる」、「入れ替わり」……その世界で死んだ人が出た時にそいつと入れ替わりで入るってことか? だが俺はその前に一番重要な情報を聞いていないことを思い出した。
「いや、その前にさあ、その世界って環境はどうなの? ワールスロにいた時は『科学技術が発展してて』みたいなこと言ってた気がするけど」
「そうそう、そこなんですよ」
ベアリスはカチカチとマウスをクリックする。
「かなりですね、ケンジさんが元居た世界に環境が似てて、価値観? ですか? そう言うのも近いと思いますよ。ただ、戸籍制度がしっかりしてる地域なんで、キャンセル待ちって形しか取れなかったんですけど……」
ベアリスは何かに驚いてモニターに顔を近づける。何か困ったことでもあったんだろうか。
「奇跡ですよ。前回目をつけてたキャンセルで空いた枠に、まだ入れそうです!!」
奇跡なのか?
正直それがいい事なのか悪い事なのか。いまいち俺は判断がつかない。
「ちょ、ちょっと待って、なんかまた罠があるんじゃないだろうな」
それが何なのかは分からない。分からないが、なんとなく怪しい感じはする。今までのパターンだと……たとえば新石器時代はあったから、逆に科学が発達しすぎてて俺の知識も力も何の役にも立たない世界とか……
「この『枠』は法治主義が行き届いてて安定した国ですから、いつもはすぐ埋まっちゃうんですよね……こんないい『枠』はもう、二度とあかないかも……」
二度と、だと!?
「ちょっと……その、一旦保留にして、考える時間を……」
「保留はいいですけど、『枠』を押さえておけるわけじゃないですからね? こうしてる今にも、もう枠が埋まっちゃうかも……」
や、やめて。こういう焦らされるの嫌なんだよ。時間を。考える時間を!
「まあ、ケンジさんが嫌だって言うなら仕方ないですけど……」
「い、嫌とは言ってないだろ! ただ、考える時間が欲しくて……」
「まあ仕方ないですね。今回は縁がなかったという事で」
「転生します!!」
「おりゃあ!」
俺は、光に包まれた。
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