第80話 誘拐犯になんて恋しない⑪
支払いに困っている自分の為に、千円札2枚をせっせと折り畳んで重ね合わせ折り紙の手裏剣を作り、あんなに離れた場所から正確に頭に当てたセバスチャン。
そんな彼女のことを素直に可愛くカッコいいと思ったハレオは、セバスチャンに向かってコクリと頷いた。
「すみません、お金ありました。ごちそうさまでした」
「なんだい、あるんじゃないか、毎度あり」
「あ、あのう」
会計を済ませるハレオの後ろで、モッカが何かを閃いた。
「すみません、私、お皿洗い手伝ってみたいのですが」
「なんだいお嬢ちゃん、若いのに偉いじゃないか。自分で使ったものは自分で片づける、これが出来ない若者が多いこと多いこと、やってきなやってきな、あたしが許可するさ、なんならバイト代も付けとくよ」
お金も払ってるのに上から目線のおばちゃんに違和感を覚えたハレオだったが、モッカのキラキラした表情に引き留めることをせず、そっとセバスチャンの元へ向かった。
「ありがとうセバスチャン、ホント助かったよ。お金は必ず返すから」
「それは問題無い。お嬢様に雑務をさせたことは万死に値するがな」
黒スーツに蝶ネクタイのビシッと決めた服装で、いかにも執事って感じのセバスチャンだが、あらためてその顔を見ると、オールバックにした叩き甲斐のありそうな広いおでこは、産毛も多く赤ちゃんの様に可愛いし、切れ長だけど瞳がキラキラしていて吸い込まれそうになる目。鼻筋も通っていて唇も柔らかそう、イケメン男子と言われれば間違いはないのだが、女の子だと分かると、それはそれで魅力的で違った癖が生まれそうになるハレオ。
「それよりも、早速晴間邸宅の詳しい状況を教えてもらおうか」
「わかった」
ハレオは、家にいるメンバーと一緒に住むことになった経緯を事細かに説明した。
下心は一切無く、モッカの今後をただただ心配して……とは断言できないが、モッカの警戒心をセバスチャンが和らげて、良い方向に進めばというのは本心のハレオ。
「なるほど、貴様が生粋の女誑しだということは十分に理解した」
「いや、違うって、なんてこと言うんだよ」
「それは誰がどう見てもハーレムとだと思うが」
「違うって、勘弁してくれよ」
本気でその言葉だけは否定したいハレオは気が動転する。
「その周章狼狽、自覚しているようだが?」
「違うってば、皆友達だし、妹だし、確かにユウさんのことは好きだけど、それは恩師としての感情だって分かってきたし、みんな本当に美人で可愛くて、俺の料理を美味しそうに食べてくれて、それから……」
ハレオはトラウマが暴走を始め無い様に必死になっていく。
「落ち着け、別に責めてはいない、むしろ好都合だ。モッカお嬢様を一人暮らしさせるのは言語道断、私は隔離させられているし、他に傍に付ける人材も居ない、妙な男が寄ってきても困る。ならばお前以外の住居人が全て女性、しかも年齢も近い。先導者も居るし学校も近いとなれば文句なし。気掛かりはお前だけだが、それはお前一人を注視すれば済むということ」
「それって……」
「ああ、モッカお嬢様がお前の住居に向かうように根回ししてやる」
「ほ、ほんとうか、それは良かった、そうと決まれば早速帰って家の掃除しなきゃ」
「なんだその喜び様は、不安だからやっぱり止めようか」
「待って待って、落ち着いて下さいよセバスチャンさん」
「急に“さん”付けか、考え直した方が良さそうだな」
「いやいや、俺もモッカが一人暮らしなんて心配だからさ、きっと皆とも仲良くできると思うよ」
「ふん、まぁいいさ、お前がモッカお嬢様に触れるようなことがあれば、真っ先に粛清を行うまでだからな」
「え~、触れることも許されないの?」
「なんだ、やっぱり触れる気だったのか、この痴れ者め」
「分かったよ、分かったから、触れないから、とりあえず、この後どうすればいいか教えてくれ、どうやってモッカを俺の家に誘導すればいいんだ」
提案はしたがモッカには強く拒否されている内容。セバスチャンはモッカの前に姿を出せないから説得も無理だろう。
「任せろ、私に考えがある」
「セバスチャンさん」
自信満々なセバスチャンに、信頼の眼差しを向けるハレオだった。
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