第78話 誘拐犯になんて恋しない⑨
「あの、モッカはなんでお婿さんを見つけたいの?親の破産と関係無いとおもうんだけど……」
それとも金持ちの相手を見つけて家の再建の足掛かりに?とかも考えたがセバスチャンの話だと破産は嘘ってことになる。でも、モッカがそう考えているのなら、それならそれで自分にもチャンスがあるかもとも思ってしまうハレオ。
「破産とは直接関係無いのですが、私には許嫁が何人かいまして……」
「許嫁、何人か……」
モッカはゴーヤを頬張りながら悲しい顔をした。
「お父様の意思に逆らいたくは無いのですが、もしも自分の手で相応しい相手を見つけることができて、お父様がその方を認めてくれるのなら……そんな淡い期待に縋りたいだけなのかもしれませんね、この話は忘れて下さい。美味しいご飯が勿体ないですから」
「お婿さん探し、俺は応援するよ」
「ハレオさん……」
「だってさ、親が勝手に決めた相手なんて時代錯誤もいいとこだろ、俺だったら絶対に反抗するね。なんか複雑な理由で1人になったみたいだけど、良い機会だから、もっと自由に色々な事を体験して、自分の考えを持てるようになればいいんじゃないかな、もちろん誘拐されたのも何かの縁だから、協力できることがあれば喜んで力を貸すよ」
「優しいんですね……」
モッカは、零れ落ちる涙をハンカチで拭った。
ハレオは大いに照れる。
「……すみません、涙でお化粧が……ちょっとお手洗いに行ってきます」
「うん」
「言っておくがお前には1ミリもたりとも脈は無いぞ」
モッカが席を立ち背を向けた瞬間に、ハレオの隣へ座ったセバスチャンが耳元で囁く。
「ビックリしたぁ、ソレどうやってんの?瞬間移動?」
「中二病か?」
「あなたに言われたくないのですが」
「まぁいい、それより貴様、これ以上モッカお嬢様を泣かせるような言動を続ければ私も黙っていないぞ」
「別に俺が泣かせた訳じゃないんだけど、というか何人も居る許嫁ってなんだよ、セバスチャンも知ってるのか?」
「モッカお嬢様の心を乱すなと言っている。許嫁の事は私も納得していない、だが御屋形様のお考えに逆らう訳にはいかんのだ」
セバスチャンは唇を噛み、眉を顰める。
「2人ともどうかしてるよ、自分の意思をもっと大切にしなきゃ」
「言うな、モッカお嬢様に辛い思いはさせたくないのだ。この件には触れないでくれ」
「いいや言うね、モッカの一人暮らしの期限はどれくらいなの?」
「決まっていない、明日かもしれないし1年後かも……全ては御屋形様のご意向次第」
「なるほど、で?セバスチャンはどんな風にモッカを支えるつもりなの?」
「それはもう手っ取り早く金を作る方法に導いて」
「そんなん言ってるから、モッカの傍から離されることになるんじゃん」
「うっ……それは」
セバスチャンが見せたしおらしさと、気弱になり少し高音が混じる声色にハレオは疑問をぶつけた。
「セバスチャンってさ、女の子だよね?」
「な、なにを急に」
セバスチャンは咄嗟に右手で胸を抑える。
「いや別に性別なんて気にしないけどさ、女の子同士ならそういう許嫁とか親が勝手に決めた相手とか、嫌な気持ちがよくわかるんじゃないのかなって思って」
「そ、それは……」
「それにセバスチャンはモッカのこと好きなんでしょ?」
「くっなにを世迷言を、主に仕えるのは執事の務め、性別や私情などとうの昔に捨て去ったわい」
食堂のおばちゃんも注目するほど高い女声で叫ぶセバスチャン。
「“わい”って、めっちゃ動揺してますけど」
「き、きさまー私を愚弄するかー今すぐ粛清してやるー」
顔を真っ赤にしたセバスチャンに、だんだん楽しくなるハレオ。
「俺も協力するからさ、モッカが自分の意思を持てるように導いてみようよ」
「き、きさま……」
「せっかく今は自由の身なんだから、セバスチャンも御屋形様の言いなりなんか止めて、またモッカの前に出てきなよ、きっとモッカも喜ぶよ」
「……やめろ、私の心を乱すな」
「心が乱れてるってことは、つまりそういうことだろ、素直な方が女の子は可愛いくなれるって、俺の友達も言ってたよ」
「や、やめろ、やめてくれ、私は……モッカお嬢様の……はっ」
「お待たせしました」
お手洗いから帰ったモッカ。
そしてハレオの隣からセバスチャンは消えていた。
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