第58話 ネット遠足は終わらない⑥

 「ちなみになんですが、このネット遠足、リアルタイムで動画配信されています。只今同時視聴者数2万人突破中、広告収入もガッポガッポですよ。もうね、最後まで生き残った生徒には、特別ボーナスで好きな教科の内申点上げちゃいます。本気で遠足を楽しんで下さいねー」

 遠足を仕切るメンターのシャウトに、大多数の生徒達は歓喜した。

 ゲームをプレイして内申点が貰える、これ以上無い特典。

 仲間同士の戦いを強いられているとはいえ、所詮はゲーム、盛り上がらないハズが無い。


 だがしかし、そんな上手い話があるハズもなく、メンター不足の為、一時的に進行役とゲームマスターを頼まれただけの、ただの雇われ大学生のメンターが、自分の動画チャンネルで非公式に無断で配信し、自身のチャンネルで過去に例の無い同接記録にテンション上がりまくった挙句の内申点の嘘だった。

 しかし、煽りに煽られた生徒達に疑う余地は無く、次々と相方同士で戦い、そして倒れて行った。


 「お兄ちゃん、なんで武器を解除したの?まさか私にお兄ちゃんを討てと?」

 無言で立ち尽くすハレオのアバターに向かい、武器を構えるトウカ。


 「フレンドリーファイヤが有効になったってことは、自分で自分を攻撃することも可能になったってことよ、残念だけど、私はお兄ちゃんの思い出を奪うことは出来ない……」

 トウカは、攻撃すべきターゲットマーカーを自分に向けた。


 「ダメだよ、トウカちゃんのテクニックと知識なら確実に生き残れるのに」

 スミレのアバターが、間に割って入った。ボタンも同じく行動するが小さくて目線に入らない。


 「でも、このままじゃ2人とも脱落しちゃう、ここで私が落ちても、スミレさんとボタンさんのどちらかが、お兄ちゃんの話しを聞いてあげられるじゃない」

 「「どちらかが……」」

 スミレは下を見下ろし、ボタンは上を見上げた。


 「スミレちゃん、応援してくれる約束よね?」

 「お、応援はするけどさ……ハレオの話しを聞くくらいなら私にも……」

 「えーーーーーーーーー、ほらぁ、やっぱりぃー怪しいと思ったんだよぉ、ハレオの家に引っ越してから怪しいと思ってたー」

 「え?何言ってるのよボタンちゃん、何もないってば」

 「うそ、嘘よ、スミレちゃんもハレオの部屋行ったんでしょ?夜忍び込んだんでしょ?」

 「そ、そんなことする訳……ちょっと待って、私もってどうゆうこと?もしかしてボタンちゃん夜にハレオの部屋忍び込んだの?」

 「え、いや、それは、でも、何も無かったよ」

 「ひゃー大胆ねボタンちゃん、大胆だけど、やっぱりそれは健全な高校生として見過ごせないわ、残念だけど、ボタンちゃんのご両親に報告して……」

 「やめてーーーー、折角、外泊禁止解けたのに、お願いだからそれだけはご勘弁下さい」

 「じゃあ、今回は私にハレオのこと任せてくれる?」

 「酷い、それとこれとは関係無いでしょ」

 「あるもん」

 「ないよ」

 スミレとボタンのアバターは、互いの武器を向けあい戦闘態勢に入った。


 「やめろっ、みんな何やってるんだ」

 「お兄ちゃん」「ハレオ」「ハレオくん」

 「みんな取り敢えず武器をしまってくれ」

 「急にどうしたの?急がないと、みんな退場になっちゃうよ」

 「今、運営に連絡中だ」

 「運営?ゲームの制作元の?」

 「ああ、こんな馬鹿な真似は即刻止めさせてやる」

 「そっか、運営会社に頼めば何とかしてくれるかも」

 「無駄よ、たぶんこの参加人数だとサーバー貸切ってるから、W高側は、相当なお金を積んでると思う、そんな簡単に動かないと思うわ」

 「そんなぁ」


 「だったらそれ以上の金を積めばいいだけだ」

 ハレオのボイスチャットから、カタカタとキーボードを勢いよく叩く音が響いた。

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