第50話 アイドル声優は気付いてる⑥

 「ボタンさん、今はあの人を追い出すことが先決です。外泊禁止が解けても、あの人が家に居る限り、ボタンさんに未来は無いと思います」

 「そ、そうよね」

 トウカは一人だけ論点がズレていたボタンを諭した。ハレオはそれを見ていたが、なんの事か分からずテーブルの呼び出しボタンを押す。

 

 そして4人は食事しながら、どうやってユウを追い出すか話し合う。

 

 「そもそも何故あの人は、ハレオくんの家に居座ろうとしてるの?」

 「義理の母親の知り合いらしい、俺がずっと一人暮らしだから心配して来てくれたそうだ……何を今さらだよ」

 「ふ~ん、じゃあ姉弟でも親戚でもないのね、尚更居座る意味分からない、全力で阻止しましょう」

 ボタンはミラノ風ドリアを頬張りながら拳を握る。


 「でもさ、ちょっと厳しいけど、もしかしたら私達のこと考えて色々言ちゃった感じもしない?」

 目の前で若鳥のディアボラ風がジュウジュウと音を立て、ナイフが入るのを待っているが、猫舌のスミレは冷めるのを待ち、憧れていた人物が放った言葉を思い返していた。


 「確かにそれも考えた。でも初対面であの発言は、よっぽどのクズ人間。それか、よっぽど私達を追い出したいかじゃない?」

 エスカルゴのオーブン焼きを上品に頬張るトウカは、持論を展開する。

 「とにかく、私達のグッドプレイスを大人に汚させるわけにはいかないわ、皆で協力して追い出しましょう」


 「ハレオはどう思っているの?」

 スミレの問いに、イカの墨入りスパゲッティをクルクル回すフォークを止めたハレオ。

 

 ハレオはずっと考えていた、宝くじのことを皆に話すべきなんじゃないかと、そうすればユウの脅しにも屈することなく、同居を反対できる。

 簡単なことだ、それだけで解決する話。


 「俺さ、みんなに言わなきゃいけないことがあるんだ……」

 切り出したはいいが、言葉に詰まるハレオ。

 

 そしてハレオは、考えを巡らせる。


 ここで真実を話しスミレとボタンの態度が変わってしまったら?

 それだけは絶対に避けたい、お金に目の眩まない人間など居ない、ただでさえハーレムと揶揄されるこの状況が更に悪化するのは目に見えているし、スミレとボタンがそんな人間じゃないとしても、金を使うことを拒否する俺に幻滅し離れて行ってしまう可能性もある。

 嫌だ、大切な友達をお金なんかで失いたくない。

 だったらどうする?考えろ、俺には何がある、何ができる、回避する方法……お金なんかで……お金?……使うか、億を積めばユウさんを追い出せるかもしれない。誰かを雇って罠に嵌めて、スポットライトが当たった場所から追い出し、その高慢な性格を打ち砕き、そして俺の家からも……。


 ……最悪だ、なんて最悪な人間なんだ俺は、これも金の魔力なのか、恐ろし過ぎる。こんな物、持ってちゃダメだ。

 今すぐ皆に打ち明けよう、そして金なんて捨ててしまえばいい……そうしよう、それが最善、それしかないっ。


 結論に至ったハレオはイカ墨の付いたフォークを置き、立ち上がった。


 「みんな、俺は金を……」


 「お兄ちゃん、大丈夫だから、私、いえ私達に任せて」

 立ち上がったハレオの手を引き、座らせたトウカ。

 

 どうせ宝くじの当選金でも尽きたんでしょう。それで義母に工面願ったら、ユウが来たってとこかしら?

 それで、ユウを追い出したら義母からの援助も無くなり今の家にも住めなくなる。そんなのスミレさんにも悪いし、私の居場所も無くなる。そしてなによりもお兄ちゃんのプライドが傷ついてしまうわ。スミレさんとボタンさんの前で、お兄ちゃんにそんな顔はさせない。

 家賃の事は心配ないとして、問題はあのクズ声優。

 女の敵は女が倒す。お兄ちゃんは心配しないで、いつものお兄ちゃんで居て。


 トウカは、そうハレオに念じ、頷いたのだった。

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