第37話 声優女子は帰りたくない①

 LGBTグループディスカッションから約2週間後の土曜夜。

 ハレオは悩んでいた。


 (また、お金を使ってしまった。旅費、滞在費、医療費、その他諸々で、だいたい500万か……まぁまぁ安かったな。だけど一つ気になるのは、旅立つ日のナリヤスの俺を見るあの顔……まさか気付かれたか、いや、そんなハズは無い。ちゃんとした弁護士を雇い、ちゃんとした書面で、ちゃんと分からない様にした。だから大丈夫なハズ……だが最近、俺の周りが騒がしい気がする、引っ越しをして謎の勧誘地獄からは脱出できた。しかし、登校すると女子生徒達が自然に集まってくる。スミレのカリスマ姉御肌が強力なのは分かるが、面識が無い女子生徒の一部がチラチラと視線を飛ばしている気がするのだ。あれは一体なんだ、何か獲物を狙うようなあの視線……ボタンの奴もそうだ、家出したとか嘘付きやがって、偶々業務スーパーでスミレの母親と会話して仲直りしたんですかって聞いたら、何言ってるのこの人って顔されたよ、泊りに行った友達の家は、俺の家だって言ったら、なんか怒り出して「男の家に泊まらせる訳ないでしょ」だと。それ以上は何か嫌な予感したから黙ってたけど、ボタンの奴、暫く外泊禁止にされたって喚いてたな。なんで嘘まで付いて俺の家に泊まりに来たんだろ……。まてよ、なんか聞いたことあるぞコレ、確か、ハニートラップ、美人局。宝くじの高額当選者を狙った色仕掛け。金を搾りに搾り取り、果ては殺害までされるってヤツ……くそっ最近脇が甘かった、今後は毅然とした態度を保たないと、いつ奴等が金目当てでハーレムを形成してくるか分からんからな。はぁナリヤスが言っていた様な、打算的じゃない純愛ってやつに出会いたいものだ)


 ピンポーン。


 そんな妄想を巡らせながら、ゆり根とエビのみぞれ煮を作っていたハレオの家のチャイムが鳴る。


 「ハレオ……」

 モニターに映ったのは、スミレ。


 「どうしたスミレ」

 「……家出してきた」

 「帰れっ」


 とは言ったものの、モニター越しでも分かるくらいに涙で腫れたスミレの顔を見たハレオは、事情だけでもと招き入れた。

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