第19話 自白剤の製作
「これだと、キノコ食い倒れ旅行ですね」
地図の丸印のキノコ旅行は三ヶ所目になった。まだ目的のキノコは手に入っていない。
湧き水の近くで焚き火を起こすと、収穫したキノコを次々と調べていく。
街から離れた森の中で茶色いキノコをひたすらに集めて、ある程度集めたら薬品で調べる。
真実茸じゃなかったら、グツグツ煮えたぎる鍋に投入する。
山菜とキノコとお肉の鍋で、お昼は身体に良い食事を食べている。
「食べ切れないのは街で売りますか」
モグモグと流石に一人で食べ切れる量じゃない。
でも、キノコを捨てるのは勿体ないので、街で売って肉代ぐらいは稼ぎたい。
傷物だから、キロ単位で五百ギルで売れれば上出来だ。
「よいしょ……さてと、さっさと見つけますか」
一人用のキノコ鍋を食べ終わったので、鍋を湧き水で綺麗に洗って、リュックの中に片付けた。
立ち上がって、リュックを両肩に担いで、地面に置いてある木の杖を拾う。
剣は重いし、私の持ち物の匂いに近寄ってくる獣は爆弾で肉の塊に変える。
「エイッ! ヤァッ!」
……天然キノコを買い取ると言えば良かったですね。
木の杖を振り回して、進路を邪魔する枝や葉っぱをバサバサと倒していく。食後の運動にはちょうどいい。
それに今更だけど、真実茸を集めていると言わずに、茶色いキノコを集めていると言えば良かった。
そうすれば、こんなに苦労せずに、普通にズルせずに集めてくれる人がいたかもしれない。
「はぁぁ、城での監禁ダラダラ生活が懐かしいです」
手も足も筋肉痛でパンパンだ。それにこれだけ動いているのに痩せた感じがしない。
むしろ、ちょっと太った気がする。多分、キノコ鍋が原因だ。
今度からは肉と鍋じゃなくて、パンを持って来よう。そっちの方が軽くて動きやすい。
森の中を歩き続けて、乾燥した日陰に生えているキノコだけを集めていく。
洞窟じゃなくても、日向と日陰の境界線がハッキリしている場所があるなら、そこにも真実茸があると思う。
倒れた大木の中の空洞だったり、落ち葉で隠れた地面の穴だったり、草の茂みの中だったり、日陰で暖かいという条件さえ合えば、真実茸があるはずだ。
「でも、真実茸を日向に当てた時はどうなるんでしょうか? 普通のキノコになるんですか?」
ちょっと疑問に思ったけど、錬金術師の先生の本には書いてなかった。
多分、心配しなくても重要じゃないから、書いてなかったのだろう。
気にせずにドンドン回収しても問題ないと思う。
「ふぅー、暗くなる前にそろそろ帰りますか」
この森は寒くはないけど、野宿するのはやっぱり嫌だ。
近場の街の宿屋に戻って、お風呂に入って、ベッドでゆっくり寝たい。
疲れた身体で倒れるように前に進んで街に戻った。
♢
「はぁー、今日も文明の時代に戻ってきました」
夕方前に街に到着した。街の近くの森を三時間も探索してしまった。
もう身体がクタクタだ。こんな重労働を美少女にやらせたら駄目だ。
……普通はお酒でも飲んで気晴らしするんでしょうね。
十七歳の美少女錬金術師だと、お酒は飲んじゃいけない。隠れて飲めるけど、隠れないと飲めない。
二十歳になるまでは、お風呂の長風呂で気晴らしするしかないのだ。
「まずは宿屋に戻って、キノコと荷物を置いてきますか」
一度宿屋に戻ると、もう動きたくなくなるけど、そこは頑張って、宿屋の外の公衆浴場まで行くしかない。
リュックとキノコ袋を持って、フラフラと宿屋を目指して歩いていく。
晩ご飯前という事で、到着した宿屋の中は外からでも分かるぐらいに繁盛していた。
「なぁ、この小銀貨を溶かして、大銀貨を作れねぇかな? そしたら、大金持ちだぞ」
「お前、馬鹿だなぁー。これは銀貨だけど、銀じゃないんだよ。溶かしたら石ころと同じだぞ」
「マジかよ⁉︎ じゃあ、銅貨も銅じゃねぇのか⁉︎」
「王子の結婚式も三日後だな。めでたい話だが、まずは戦争をどうにかして欲しいぜ」
「文句言っても仕方ねぇよ。上の考えている事は俺達には分からん」
「そりゃそうだけど……最近は聖女様も戦争に賛成し始めて、信者の中から兵士の募集を始めているんだぜ」
「それだけヤバイって事だろうよ。今のうちに死ぬ程飲まねぇとな」
……そういえば、三日後に結婚式でしたね。
酒飲み達の会話を聞きながら、宿屋の扉を開けて、二階に上がっていく。
宿屋の鍵は持っているので、カウンターに貰いに行かなくていい。
王子の結婚は各街に城から伝令の兵士がやって来た後に、新聞で大きく国民に広められた。
一応、気にしないようにしているけど、結婚前と結婚後では状況は違う。
出来れば結婚前に自白剤を送って、使うか、使わないかは王子に決めて欲しい。
その結果は新聞で分かる。
「まあ、そんなに簡単に見つかりませんけどね。さて、お風呂お風呂と……」
部屋にリュックとキノコ袋を置くと、洋服タンスから愛用の旅行鞄を取り出した。
キノコ狩りに必要ない物は部屋と鞄の中に置いている。
着替えの服を選ぶと鞄を持って、公衆浴場を目指した。
♢
「あっー、何もしたくないです……」
風呂から帰るとベッドに倒れた。目を閉じれば、三分以内に眠れる自信がある。
でも、明日の朝にキノコを調べるのも面倒だからやりたくない。
風呂上りの綺麗な身体で土で汚れたキノコを触りたくない。
こんな事なら、王子に真実茸を探してもらえば良かった。
「はぁぁ、よっと! まあ、それが出来たら苦労しないんですけどね」
ため息を吐いた後にやる気を出そうと、元気よく起き上がった。
貴重な素材は乱獲を防ぐ為に、錬金術師同士でしか情報交換しないのが一般的だ。
誰でも素材と作り方が分かれば作れるようになるなら、錬金術師は廃業になってしまう。
……パパッと片付けますか。
手袋を両手にはめると、床に白い大きな布を広げた。
床に座って、木のまな板とナイフを用意して、キノコ袋いっぱいのキノコを調べ始めた。
千本に一本じゃなくて、一万本に一本ぐらいの確率でありそうだ。
キノコの下の部分を少しだけナイフで切断すると、大きい方のキノコの断面に皿に入れた薬液を付ける。
あとは放り投げて白い布の上に放置する。それをキノコ袋が空になるまで繰り返す。
全部のキノコが終わったら、部屋の電気を消して、光っているキノコがあれば、それが真実茸だ。
「さてと、今日の結果はどうでしょうか。ふぅー……」
キノコ袋が空になったので立ち上がって、テーブルの上のランプの火に息を吹きかけて消した。
部屋の中に暗闇が訪れたけど、床の上に僅かに青色に光る点が何個も見える。
「おお! 六、七……七本もある! これでキノコ狩り旅行は終了です!」
暗闇で光るキノコを数えると七本もあった。これなら七人分作れるけど、そんなには要らない。
依頼通りに三本作れば、貰った報酬分の仕事はしたと思う。
「とりあえず試作品を急いで一本作って、宿屋の酔っ払いに試しますか」
この嬉しい気持ちのまま、酒場の料理を全部注文してもいいけど、それは本当に全部終わった後だ。
失敗作を王子に送るわけにはいかない。それに、ようやく見つかった真実茸を目の前に眠れない。
やる気があるうちに、パパッと作りたい。
真実茸だけをテーブルの上に置くと、残りのキノコは白布に包んで、キノコ袋に入れた。
これで床の片付けは終わった。次に洋服タンスの中から赤い液体の入った細い瓶を一本取り出した。
準備していたこの薬液に刻んだ真実茸を入れて、沸騰したお湯の中に浸ければ、一時間で完成だ。
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