第25話
ドアが閉まり、寂しそうに見る大輔の表情を出来るだけ見ずに、運転手に行き先である自分の家の住所を言う。
(どういうことだろう? 那内さんの能力デメリットはともかくとして、僕の借りた能力デスバインドの使用後のデメリットは次の日のはず……なのにやけに早めに同性に異常に好かれる日が早い。出石眞さんに接触できれば何かの手がかりへの一歩として説明出来るはずだ。どうすれば会えるのだろう?)
目的地に向かう為に動き出したタクシーの中で、雨狩は夜の窓の景色を見ながら思案に耽っていた。
※
「よし、それじゃあ雨狩。ここの英訳を和訳にして答えてみろ」
次の日の英語の授業を受けながら、那内の能力を使う過去の日だが、那内が早退していた四限の当てられた時と同じ答えを言う。
「はい、デービスは明日クミに自分の自転車を直さなければならないから今日宿題を終えるように言った、です」
過去と同じ答えを言う自分がデジャヴではなく、現実に起きたという奇妙かつ異常な状況に答えながらも体が冷える。
「んっ、正解だ。おっ、そろそろ授業終了だな。それじゃあ今日の授業はここまで。日直、いつものな」
「きりーつ、礼!」
雨狩も含めた教室の生徒が立ち上がり、英語の担任の本川に礼をするとチャイムが鳴る。
(この日は那内さんに市の図書館で勉強をする日だが、まだ北井さん達に頼まれてもいない。メールを送ろうにも図書館の時に交換していた。 モータルブレイクザワールドの能力で過去に飛ばされ改変された現在では、登録されていない。那内さんの様子だけでも見に行こう)
一万田はデスバインドの効果が切れたのか、雨狩を見ずにメールに集中している。
その中で白本や井田が楽しそうに話をしながら、柳沢がルーズリーフにマジックで雨狩に何かを見せる。
太い油性マジックでこう書かれていた。
『昨日のホモテロ事件は一万田の冗談(?)らしいから掘られはしないってさ。ってか田辺さんの裏口誰も教えてねぇから説明してくんない?』
読み終えた雨狩は首を横に振り、驚く柳沢を後にして教室を出る。
那内の教室に向かいながら、雨狩は考える。
(デスバインドのデメリット効果は確かに切れている。そこは事実だろう。先ほどの柳沢君がその証明だ。だけど、那内さんの弟の効果は使って間もない時だ。変だな……)
教室に着くと、那内を見かける。
どうやらしっかりと出席しているようだ。
那内は教室で北井達に、この前の食事代を手作りの重箱のお弁当で返していた。
(無事みたいだ……図書館で勉強を頼まれる日をどう変えるべきか? 頼めば異形に会うが出石眞さんにも接触できる。どうする?)
「何やってますの~?」
「うわっ! み、美空木さん!」
気づけば教室の入り口の手前に不審に思えたのか、購買部で買い物を済ませて教室に戻る途中だった美空木が声をかける。
「那内さんに御用ですの? 恥ずかしがり屋なのは結構ですが、声をかけないと怪しい人に思われてしまいますわよ」
「す、すみません……」
声に気づいたのか、那内達が雨狩を見る。
那内が北井に「外して良いかな?」っと言って、雨狩と美空木のいる入り口に移動する。
「どうしたの? 雨狩君」
(図書館での勉強は能力を借りる前に済ませている。なら、図書館の場所を提案する北井さん達よりも先手を取り、ここにいる美空木さんにも分かるように場所を変えなくては……)
「勉強を教えようと思いまして、屋上に行きませんか?」
「まぁ、那内さんの勉強を教えてくれるために来てくれましたの? 素晴らしいですわ。私達で今日図書館で雨狩さんに勉強を教えてもらおうかと思っていたのですわ~」
美空木が嬉しそうに微笑む。
「ははっ、き、奇遇ですね」
雨狩は芝居じみた演技をする。
「私お腹いっぱいだから、みんなで私のお弁当食べてていいよ。ごめんね、五限始まるまでに戻るから」
「わかりましたわ~。皆さんには伝えますので、ごゆっくりどうぞ~」
那内も雨狩のことを察したのか、美空木にそう言う。
二人は屋上に向かう。
(これで異形との接触は避けられるはずだ。ある意味では能力を借りながら、能力を持たない状態での適性を持つものを狙う異形にも襲われる事態にも今後ならない。それらの事から出石眞さんに会う必要もない。恐らく解決のはずだ)
※
「雨狩君お腹すいていない~?」
屋上の椅子掛けで那内がそう言いながら、雨狩に購買部のサンドイッチを渡す。
「ありがとうございます。能力のデメリットはもう大丈夫なんですか?」
「うん、昨日だけだったよ~。昨日の晩御飯が鍋物で、まだお腹減ってたから大輔よりも多く食べてお母さん達ビックリしてた」
「朝はどうしましたか? 僕は一人で冷蔵庫から朝食の軍艦巻きを食べていました」
「朝からお寿司なんて、レアな朝食だね! ん~と、私は朝は普段通りの朝食メニューでお腹一杯になってたよ~。テニス部の朝練があるからミーちゃんと一緒に登校したよ」
「……やはり能力使用デメリットは長期的に続くものではないようですね。後は異形も現れないから日常に戻ったのは確かですね」
「能力あるけど、返す人いないから借りっぱなしだね、エクソシストって人たちに関わらないことになるし良かったね。あれ? 能力持ったらエクソシストに入ることになるのかなぁ?」
「それなら、出石眞さんが勧誘に来るかもしれませんが断れば良いだけです。能力を返せば五感の一つを失います。問題は現段階では無いでしょう。エクソシストハンターと言うのが説明されてなかったのですが……ああっ、サンドイッチはすぐに食べ終わるので失礼します」
雨狩はそう言って、サンドイッチを食べる。
ボリュームあるハムチーズサンドを食べている中で、ニコニコとこちらを見る那内に雨狩は母親に愛情を貰っているような気分になる。
(進学校の中学に進学してから、母さんや父さんと食事をすることは無かったな……。なんでこんなにも当たり前の光景なのに、僕の胸は痛むんだろう)
「そういえば能力で過去に戻ったので、那内さんのメールを交換して無いですね」
「あっ、そうかぁ……二回目になるけどメール交換していないことになるね。食べている間に交換してあげるよ。はいっ、スマートフォン出して~」
「はい、どうぞ。僕はちょっと席を外してゴミ捨ててきますので……」
そう言って雨狩は、サンドイッチを食べ終えると包装袋を屋上のゴミ捨て場に捨てるために立ち上がる。
その時だった。
屋上のドアから勢いよく開いて、白本が出てきた。
「雨狩! 大変だっ!」
「白本さん、どうしたんですか?」
「一万田が昼休みに外でポリにパクられちまった!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます