第23話

「嘘って何が? あんたさっきから変よ? どうかしたの?」


 北井が訪ねる中で、不安になり始める那内に雨狩が辿り着く。


 そして息を切らした雨狩が、那内を見て落ち着く。


 息を整えて安堵の表情で話す。


「良かった。無事ですね……最悪の事態には今のところですが、恐らくなっていないということですか……」


「あ、雨狩君っ! 本物だよね?」


「そちらもですよね?」


 那内は嬉しさもあって、首を縦に振る。


「ごめん、みんな! ご飯代は明日の学校で必ず返すから雨狩君と一緒に帰るよ」


「えっ! 大胆ね、三加って……そんな積極的に行くタイプだっけ?」


「男は女を変えるものですわ~。ねぇ、飯田さん」


「ふふっ、噂をすればその変える男とやらからメールが来ているではないか。ゼミでの卒論も出来たようだな。さて、攻め時だな……ふふっ……」


「……あ、あはは~。ごめん、気分まだ悪いみたいだから、雨狩君に家まで送ってもらうよ。ケイちゃん達にはまた明日ね~」


「えっ? あんた、雨狩君に住所まで教えてたっけ? そんな親しい仲だったんだ。意外だわ」


 那内も異変に気付き始めていた。


 そのせいか、多少の動揺が現れ始める。


 仲が良い三人に、疎外感と違和感を交えた戸惑い。


 そんな那内を気にもせずに、北井は話を続ける。


「今日学校に来ないから、心配だったのに……まぁ、明日ちゃんと学校に来て、その辺の事情も話してよね」


「や、約束するよ。お弁当多めに作るね。じゃあね~。さ、行こう雨狩君」


「ええ、そうした方が良いですね。それでは皆さん後は僕が送りますのでこれで失礼します」


 雨狩と那内は図書館を避けて、那内の実家まで歩いた。


 事の詳細を互いに聞くために歩く。







「やはりそうですか……過去が今になっているようですね」


 夕日の沈みかける道路に、雨狩は歩きながら話す。


「うん、私の能力のせいだと思うよ。お腹が凄く減るんだけどね~。さっきまで大変だったんだよ~」


 本調子を取り戻したのか、那内は口調が戻っている。


 飯田に念のためで貰ったビッグマヨ唐揚げおにぎりを食べながら、那内は雨狩と歩く。


「その能力は今後使わない方が良いですね」


「うん、物凄くお腹が減って動けなかったんだ。でも雨狩君や私があの悪魔に襲われたときに使わないと危険だよ~」


「仮に使えたとしても過去に戻る上に、指定相手との場所が同じ場所に辿り着く訳ではありません。完全にランダムのようですし」


 那内はおにぎりを食べるのを忘れていたので、雨狩はどうぞっとおにぎりに平手を指す。


 那内は指したおにぎりを食べる。


「那内さんの使用後のデメリットの空腹も、考えると危険です。僕の能力なら使用後でも一回に付き同性に一回好かれる訳でもないみたいです。それはただの推測ですが、ある程度は使えるはずです」


 おにぎりを食べ終えた那内は、口に付いたご飯粒をペロッと舐めて話す。


「う~ん、雨狩君の能力は聞いた感じだと、その……私としてはなんか複雑かな。女の人じゃないのが嬉しいけど」


「それは……」


 何故ですと雨狩が続けて言葉を言う前に、ゴンッと言う音が聞こえた。


 見れば二台の車がぶつかっている。


 那内の実家の細道に入る前の道路に、ロードスターがインプレッサにぶつけていた。


「おいゴラァ!」


 インプレッサから、顔に傷のある灰色のスーツの大男がドアから出てくる。


 尋常でない怒りの表情で、ロードスターのドアをコンコンと叩く。


 ロードスターの中年の男が車を降りて頭を下げる。


「す、すいません」


「どんな運転してんだよ! 俺はここで人待ってんたんだぞ? 止まっている車には空いている道行きゃいいだろ!? そんなこともわからねぇのか! 免許証見せろぉ! 車種に傷がついたぞ、板金代払えやぁ!」


「で、ですが……」


「ああっ!?」


 傷つきの顔の男に威圧されたのか、中年男は怯えて交通ルールを言うにも言えないまま穏便に済ませようとする。


「本当にすいません。弁償して警察を呼んで、お互いに話し合いますから勘弁してください!」


 中年の男は胸倉を傷つきの顔の男に捕まれる。


「勘弁はしたことがねぇな~! 警察なんか必要ねぇんだよ! 払えや!」


 那内はそれを見て、真剣な表情で二人の元に向かう。


「な、那内さん! 賢明な判断ではありませんよ!」


「あたし止めてくるから、雨狩君は警察呼んで、ほっとけないよ!」


 雨狩は那内を止めようとするも那内は男の元に着く。


「止めてください。その人は弁償すると言っています。 それにこの道は標識で停止禁止ですよ。暴力はいけません!」


「なんだぁ? てめぇ! こいつの関係者か? 口の利き方しらねぇんならさ、痛い目見ろよ? オオン!」


 男はスーツから何かを取り出そうとしていた。


「!?」


 雨狩はその異様な物に気づいた。


 アイスピック。


 那内が危険と察した雨狩は即座に能力名を唱える。


「デスバインド! 武器を持つ男を拘束してください!」


 雨狩の指先から黒い鎖が、銃を撃った軌道のように男に伸び進む。


 那内と男の距離と雨狩との距離は一メートルだが一秒足らずで男の腕に鎖が巻き付く。


「おっ!なんだこりゃ! 離せコラ! 離せコラ!」


 男の体は三秒足らずで、アイスピックの持つ腕と胴体をくっ付けて巻き付ける。


 男の頭の上に二十三と言う数字が赤文字で点滅される。


 デスバインドの能力による死へのカウントだった。


「那内さん。警察を呼んでください。二十三分を過ぎたらその人は命を落とします。早く!」

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