転生したら小さなミミック! 擬態能力で聖女に成り済ましてます。【祝8万PV!感謝~!!】
小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中)
第一編
序章 幸せなふりの終わり
第0話 ガレット・デ・ロワ
それはある日の日本で起きた、小さな事件でした。
ソレは私のために用意されたお菓子じゃありませんでした。
お母さんの七番目の恋人は、他の六人が霞むほどお金持ちで、かっこよくて、暴力も振るわなくて、なによりお母さんを深く愛してくれました。
お母さんの好きなブランド物をたくさん買ってくれました。お母さんはいつも喜んでいて、毎日がデートのようだと、言っていました。
お婆ちゃんとお爺ちゃんは、お母さんと住んじゃダメだと私に言いました。でも私はお母さんに呼ばれたのが嬉しかったから、荷物を持って、移り住みました。
高級なマンションの部屋いっぱいに、ブランド物の空き箱が散乱していました。お酒に酔ったお母さんが、フローリングで寝そべっていました。
また親子で暮らせることを、私は嬉しく思いました。クラスのみんなとおんなじように、家族と暮らす日々に、憧れていましたから。
お母さんと恋人は、とっても仲良しで、私は二人の邪魔をしないように、ゴミなどを片付けていました。
ご飯は二人が外食に出かけるので、私はコンビニで何か買って食べました。机の上に、無造作に散らばった小銭が私の食費でした。
二人が私と会話することはありません。私も何も言いませんでした。
おかしいでしょう? でも、私はこれで幸せだったんです。
きっと、あとほんの少しの幸せを願ってしまったから、こんなことになってしまったんでしょう。
いつものように小銭を集めに、台所のテーブルに近づくと、紙製の白い箱が置いてありました。
ガレット・デ・ロワ
箱に貼られたきれいなシールに、金色の文字で、そう書かれてありました。
何やら注意書きもありましたが、その時の私は、この箱を勝手に開けたら、あの二人が困るだろうかと、そればかりを気にしました。
何年も透明人間のふりをし続けてきたせいで、知らず知らずのうちに、ストレスを抱えていたんだと思います。
あの二人を困らせたくて、そして少しは私のことを考えてほしくて、気づいたら、箱のふたを取っていました。
それはアーモンドクリームがたっぷり乗った、ごわごわした生地のパイでした。
これを食べたら、あの二人は困るでしょうか。怒るでしょうか。
少しは私の存在を、認識してくれるでしょうか。
こんなに大きなケーキ、誰からも用意されたことはありませんでした。
このマンションに存在する物は、全てお母さんと恋人の宝物。
私は二人が帰ってくるまでに、ケーキを全部食べてやろうと、大きく口を開けて、手掴みで中に押し込むようにして食べました。
そして、硬くてごつごつした、金属のような感じの何かを、喉の奥に引っ掛けてしまい、咳が止まらなく、なりました。
痛くて、苦しくて、飲み下すことができません。なんとか喉から出そうと咳込むたび、手のひらに鮮血が溢れました。
二人が、外出から帰ってきました。
倒れている私よりも、テーブルの上の空っぽの箱を見て、悲鳴を上げました。
きみのために用意した婚約指輪が、と恋人が叫びました。
ずっと欲しかったダイヤモンドの指輪が、とお母さんが悲鳴を上げました。
その後、私がどうなったのかは、わかりません。意識を失う直前の光景が、二人の取り乱した顔だったのが、とても嬉しかったのを覚えています。
うふふ
うふふふふ
ざ
ま
あ
み
ろ
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