第703話 ウィルメンテ公爵との会談

 アイザック一行はウィルメンテ公爵領に到着した。

 そのまま彼らは領都へ向かい、ウィルメンテ公爵と面会する。

 変装しているハーミス伯爵達を見て、彼は不思議に思っていた。

 彼にアイザックが説明する。


「ウィルメンテ公、実はこんな事が――」


 アイザックが状況を説明し始めると、みるみるうちにウィルメンテ公爵の顔色が青ざめていった。

 彼は動揺を抑える事ができず、アイザックやハーミス伯爵達の間で視線を激しく動かしていた。


「そのような事があったのですか……。ですが今の話を彼らの前で話してもよかったのでしょうか?」


 ウィルメンテ公爵が心配そうな目でアイザックを見る。

 アイザックは「会話の流れでヴィンセントと一緒になってアーチボルドを煽った。そのせいでハーミス伯爵達の一族が八つ当たりされたかもしれない」という事にも触れた。


 ――彼らの家族が殺された責任の一端があるかもしれない。


 その事を告げるのは危うい行為だと思ったからだ。

 だが、アイザックもそれをわかった上で説明をしていた。


「彼らは一番の当事者です。自分達の知らないところで、なにが起きていたのかは知っておきたいでしょう。そして彼らにはそれを知る権利がある。私がアーチボルドの行動を読み違えた結果は伝えておきたいと思っていたところです。今回はいい機会でした」

「そうでしたか」


(ハーミス伯爵達の反応がおかしい……。なぜ陛下を恨むそぶりを見せないのだ? 陛下にも多少は原因があるというのに憎んでいるように見えないぞ)


 ウィルメンテ公爵は、ハーミス伯爵達の反応をいぶかしげに見ていた。

 普通ならば「お前が煽らなければ!」と思うところだ。

 そのようなそぶりを感じさせない彼らの態度に首をひねる。

 そんな彼の様子を察してハーミス伯爵が説明する。


「アイザック陛下は、どうなるか知っていてわざと煽るようなお方ではないと存じております。そもそも同盟の再締結に動いていた我らを捕えたのはアーチボルド陛下――いえ、アーチボルドの仕業です。いくらなんでも奴があのような行動に出るとは予想できなかったはずです。アイザック陛下を恨むのは逆恨みにすぎませんから」


 気丈な姿を見せるハーミス伯爵に感動しながらも、ウィルメンテ公爵は「どうやってここまで彼らの信頼を勝ち取ったんだ?」と不思議で仕方がなかった。


「あなた方ならばまともな話し合いができる。そう思って接触したのだが、そのせいで多大なご迷惑をおかけしたようだ。申し訳ない」


 しかし、ウィルメンテ公爵も不思議がっているばかりではない。

 流れに合わせて彼も謝罪をする。


「付き合いのある者から根回しを進めていくのは当たり前の事です。その当たり前をわからない者がいた。それだけです」

「確かに同盟の再締結に動かなければこんな事にならなかったのに。そう恨んだ事もあります。ですがアーチボルドこそ恨むべき相手だという事はわかっているつもりです」

「以前ならアルビオン帝国と同盟を結ぼうと考える者こそ売国奴でした。リード王国と同盟を結び直すというのは自然な考えなので恨むなど……」


 ハーミス伯爵以外の者達も、アイザックやウィルメンテ公爵を責めたりはしなかった。

 これまでのアイザックの誠実な対応もあり、彼らも心の中で折り合いをつけていた。

 誰彼構わず八つ当たりをしていては復讐を果たす事はできない。


 ――狙う相手はアーク王国の王侯貴族。


 彼らは、そう意思統一をしていた。

 それでも感情が暴発してしまいそうになるが、なんとか耐えていた。


「そう言ってもらえると助かる。……陛下、彼らの処遇は決めておられるのですか?」

「今のところはまだ。しかしながら半年後か一年後にはアーク王国へ戻ってもらうつもりです」

「それまでに動く事をお考えですか?」

「彼らを長く待たせたくないので。ただ私の考えているやり方は、アーク王国の者の手でアーチボルドを玉座から引きずり降ろすというもの。リード王国が直接介入するのは遅くなるでしょう」


 アイザックはハーミス伯爵に視線を向ける。


「リード王国は他国の手前、派手に動く事はできません。まずはアーク王国の問題はアーク王国民の手で解決しようとしてほしいのです。そのためにアーク王国内で内戦のようなものを起こすつもりです」

「なるほど。『アーク王国政府が援軍要請を出せなくとも、アーク国民の誰かが救援要請を出せば援軍を出す』という約束を逆手に取るわけですか」

「ええ、その通りです。極端な話、アーク王国民の反乱軍からの要請でも軍を動かしてもいいでしょう。アーク王国の動きに不安があったとはいえ、曖昧な表現で宣言しておいてよかったです」


 アイザックは狙っていたなどとは言わなかった。

 今回の一件は、すべて偶然によるものでなければいけないからだ。

「攻める口実を探していた」などと知られれば、ハーミス伯爵達から得た信頼を一気に失ってしまう事になる。

 絶対に「この状況に陥ったのはアイザックのせいじゃないのか?」と思われる危険は避けねばならなかった。


「では彼らはウィルメンテ公爵家預かりという事でいかがでしょうか? ここからならアーク王国も王都よりは近いので支援もしやすい。なにより、このような事態に巻き込んだ謝罪として、彼らになにかしてやりたいのです」

「彼らが生きているという事を秘密にしてくれていれば私はかまいません。皆さんはどうですか?」


 肝心なのはハーミス伯爵達の意見である。

 アイザックは彼らに話を振る。


「平和な時代であれば、アイザック陛下と統治方法について議論をしたかったですが……。今はとてもそのような気分にはなれません。復讐の炎を絶やさぬためにも、アーク王国に近いここで爪を砥がせていただければと思います」


 他の者達もリード王国の王都に興味は持っていたが、今は復讐が最優先のようだ。

 ウィルメンテ公爵家の厄介になろうとする者ばかりだった。


「わかりました。皆さんはウィルメンテ公爵家にお任せしましょう。ウィルメンテ公、彼らの事をお願いします」

「かしこまりました!」


 ウィルメンテ公爵がアイザックにうやうやしく頭を下げる。

 ハーミス伯爵達も同じ行動を取っていた。


「それでは皆さん、一年ほど待っていてください。お約束通り、復讐の機会はちゃんと用意します。それは私にとってだけでなく、リード王国にとっても国防の観点から必要な事なので約束は破りません。今は大雑把な案しか浮かんでいませんが、必ずや仕上げてみせましょう」

「お願いいたします。私達も一矢を報いる方法を考えてみたのですが、知り合いに頼るというくらいしか思い浮かばなかったので……。私達もできる事をいたしますので、アーチボルドを処刑台に送り込んでください」

「わかりました。彼の首を切り落とすのは皆さんにお任せしましょう」


(さて、ここまで言ったものの、本当に成功するかな? 失敗したらどうしよう……)


 元々、アーク王国に攻め込むつもりだったので下準備は進めている。

 しかし、それはハーミス伯爵達と関係のない計画である。

 彼らという劇薬を放り込んだ時、どこまで戦火が燃え広がるかまではわからなかった。

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