第4話
検問を抜けると、そこにはずらりと店が並んでいた。
果物や野菜を売る人、買い物をする人、マントを羽織った冒険者らしき人、荷台を引く人、首輪をつけられた獣耳の人。
たくさんの人で賑わっているのか。ここは。治安は......いいような悪いような。日本に住んでたし、この光景は見たことない。でも、これが普通なのだろう。一緒にいるリムたちをゴミを見るような目で見ている。
「みんな、手繋いでいこっか」
要さんがそう言うと、要さんはリムとユイと手を繋ぎ、俺はシーナとユノと手を繋いだ。
手、小さい。こんな小さな子どもから親を奪うとか。有り得ない。それに手を繋いで気づいたけど、手震えてる。
「シーナ、ユノ。大丈夫?」
俺が聞くと2人は頷いていた。ずっと俯いてるし、大丈夫ではないだろう。
俺、一人っ子だし子どもとどう接すればいいかわかんない。どうしよ。まずは、ご飯にすればいいのか?
「要さん、そろそろご飯にしませんか?」
「んー、そうだね。でもその前にお金をどうにかしないと」
「あぁ、それなら。マジックバックにあるタオルと毛布を売ればいいと思いますよ。異世界転生系のアニメだと、向こうの世界の服とか、珍しがられるから」
「なるほど。スキルで〈創造〉ってのもあるし、これで服とか作ってみてもいいね」
「あぁ、それもありですね。目立つといけないので、そこの路地で試してみましょうか」
俺たちは人気のない路地に行き、〈創造〉で試しに服を作った。すると、思っていた以上に良い感じの服ができ、この世界に馴染むような服をリムたちに作った。要さんが!
「要さん、すごいですね。俺、せいぜい変な形のTシャツしかできませんよ」
「あはは。まぁ、俺こういうの得意だからね」
要さんは向こうの世界では、服の仕事でもしてたのかな?
「ねぇねぇ、見て」
要さんが俺に見せてきたのは、丼に入った白米だった。
「か、要さん。それ、チートです」
「チート?」
「い、いえ。俺、食べてみてもいいですか?」
「うん。お箸もどうぞ」
パクッ
「お、おいしい。要さん、これ、食べられます!」
「おぉ。まさか魔法で料理まで作れるとは思わなかったな」
「要さんも食べてみてください」
「うん。......ん! 本物の白米だね」
あ、関節キス。
「雪くん、ご飯をここで食べるのもなんだし、ここでおにぎり作って向こうのテントがあったところで食べよっか」
「はい! あの、多分俺が作ると変な味がすると思うので、全部任せてもいいですか?」
「ふふっ、いいよ。ちょっと待ってね〜」
要さんは最初にバッグを作り、ラップに包んだおにぎりを次々と作り始めた。
「よし。できた。じゃ、みんな行こっか」
俺たちは路地から抜け、テントの下にある椅子に腰掛けた。
「ん? みんな座らないの?」
俺が聞くとリムが口を開いた。
「奴隷は、普通、ご主人様と一緒の席には座りませんし、食事もご主人様の恵みしか頂きません」
「奴隷じゃないよ。リムたちはみんな俺と要さんの家族だ」
「雪くんの言う通りだよ。ほら、座ろ? みんなもお腹空いたでしょ?」
子どもたちは少し困惑しながらも席についた。要さんは子どもたちにおにぎりを2つずつ配った。
しかし、おにぎりを見たことないのか、不思議そうにみんな見ている。
「要さん、恐らくこの世界じゃラップもおにぎりも珍しいんだと思います」
「あぁ、だからか。みんな食べようとしないから、変な匂いがするのかと思ってた」
「ははっ、そんなわけないじゃないですか。ほら、みんな〜、これは、こうやって透明の紙みたいなものを外して食べるんだよ。ん! おいしい」
俺が手本を見せると、みんな真似をしてラップを剥いていた。あまり上手に剥けなかったのか俺の隣にいたユノが、俺に助けの目を向けてきた。
「ん? ユノ、難しかった。貸して?」
俺はユノからおにぎりを受け取り、ラップを外してやった。
「どうぞ」
「あ、ありがと」
「ん、どういたしまして」
かわいい。弟か子どもができたみたいだ。
「おいしい?」
「わぁ、おいしい」
ユノはもぐもぐと美味しそうに食べていた。
他は自分でラップを剥いて黙々と食べていた。
「みんなお腹空いてたみたいだね」
「そうですね。リムなんてもう2つ目いってるし」
「みんな、おかわり欲しかったら言ってね」
「おい。獣人の分際でそこに座るな。どけ。お前らも飼い主ならちゃんとしつけろ」
急に冒険者らしき男が俺たちに話しかけてきた。
「すみません。この子達はペットでも何でもないので」
「はぁ? 獣人だぞ? ペットじゃないってことは奴隷か? そこの黒髪以外は使えなさそうだが」
「申し訳ないですが、邪魔なんで消えていただけませんか?」
あ、また要さん怒った。
「あぁ? てめぇ、喧嘩売ってんのか?」
どこの世界でも、こういう人間はいるんだな。
「喧嘩を売ってるつもりはありませんよ? そもそも話しかけてきたのはそちらでしょ?」
「チッ、てめぇ、いい加減にしろや!」
冒険者は要さんに拳を振り上げた。しかし、拳は宙に浮いたまま振り下がることはなかった。
〈威圧〉かな? 飲み込み早いな、要さん。
「どこか行っていただけますか? 冒険者さん」
要さんがそう言うと、検問の所で会った荷馬車に乗っていた人と同じく逃げていった。
「はぁ。この世界は差別が濃く根付いてるみたいだね」
「そう、ですね。でも、俺たちがこれから根っこから抜いてけばいいんじゃないですか?」
「うん、頑張らうね」
子どもたちは不思議そうに俺たちを見ていたが、俺は強くこれからすることを心に決めた。
食事が終わり、次は先程要さんが作った服を売りに行くことにした。
俺たちは、服屋さんのような店に入り、カウンターまで行くと店員は怪しげなものを見る目で俺たちをジロジロ見てきたが、先程の服を見せると表情を一転させ、是非買取りたいと言い、交渉成立した。服を合計10着ほど売ると、金貨20枚を渡された。
この世界のお金の価値はわからないが、金、銀、銅の硬貨しかないようだから、おそらくいい値段だろう。
「ありがとうございました。またご来店下さいませ」
空も暗くなり、俺たちは宿を探すことにした。
地図見るとグレーンの宿っていうのが近くにあり、そこに泊まることにした。
「いらっしゃい。えーっと、2名様でよろしいですか?」
「6名で」
か、要さん、目笑ってない。
「は、はい! 2回の一番奥の部屋とその隣の部屋をお使いください! ご飯は近くで済ませてください!」
「わかりました。料金はいくらですか?」
「ぎ、銀貨6枚です!」
「じゃあこれで」
要さんは金貨1枚を店員さんに渡した。すると、店員さんは驚いた顔をした。
「お、お客様! おつりが銀貨94枚になるのですが、当宿には銀貨が50枚程しかありません! 申し訳ないんですが」
「あ、じゃあ、おつりは結構ですので、これでお願いします」
「あ、あ、ありがとうございます!」
なるほど。この世界だと金貨1枚は銀貨100枚なのか。
子どもたちも「は?」って顔してるし。
「では、ごゆっくり!」
「ありがとうございます。じゃっ、行こっか」
部屋分けは、要さんの部屋にリムとユイ、俺の部屋にシーナとユノにしたが、まだ寝るには早いため俺のいる部屋で話をすることにした。
「んー! 疲れたね。みんなも疲れたでしょ」
バタッ
「ユノ! 大丈夫?」
「ううっ、ママぁ、パパぁ」
そうか。そうだよな。寂しいし不安だよな。俺はユノを抱きしめ頭を撫でた。すると、続けてユノとシーナも泣き出してしまった。要さんと俺とで3人を抱き、泣きじゃくる子どもを見て、本当にこの世界が狂っていると思い、思わずさっきの荷馬車の人に殺意を覚えた。
「リムもおいで」
一人泣くのを堪えて立っていたリムに要さんが声をかけると、リムも相当辛い思いをしたのだろう。大きな声で泣きじゃくった。
子どもたちは泣き疲れ、俺たちの腕の中でいつの間にか眠り、起こさないようにベッドに寝かした。部屋には3つのベッドがあり、兄妹同士でひとつのベッドで眠ってもらうことにした。
「雪くん1人に任せるのもなんだから、俺もこっちの部屋で寝てもいい?」
「は、はい。大丈夫ですよ。俺もそっちの方が安心です」
「ん。で、明日のことなんだけど、今日人族の土地に来たはいいものの、子どもたちをつれてウロウロするのは危険だから、四季の土地に行かない? 〈創造〉が思ってた以上に使えるから、拠点作るのもいいと思うんだけど、どうかな?」
「そうですね。今日の人族のこの子たちに対する扱いは酷かったので、俺もそっちの方がいいと思います。食事も衣服も創れますし。でも、いくら要さんでも建物を作るのは難しいんじゃないですか?」
「んー、じゃあ今のうちに、どんな感じにするか2人で考えよっか。それなら、多分イメージできるから」
「そうですね。じゃ紙とペンを」
「お、雪くんもちゃんと作れるじゃん」
「要さんほどクオリティ高いものは作れませんよ」
「そう? でも、これすごく便利だね。スキルポイントもおにぎり作ったぐらいなら1も減らなかったし」
「スキルポイントがどれくらいで失われるかわかりまぜが、SP自動回復があるので、あまり関係ないと思いますよ」
「そっか。じゃあ、作りたい放題だね。雪くんはどんな感じにしたい? 洋風? 和風?」
「俺は、和風の方が好きですけど、便利さとか、この世界だと洋風が主流な気もします」
「そうだね。じゃ、どっちも入れよっか」
「できるんですか?」
「わかんない。でも、多分話し合っていくうちに見えてくると思うよ。露天風呂があるホテルみたいなのもたまにあるし」
「なるほど。露天風呂いいですね。あと、子どもたち用の部屋と遊び場も作ってあげたいです。土地は「四季の土地」の中心にある森に囲まれた広い土地にしましょ」
「いいね。土地もいっぱいあるし、異世界でアトラクションワールドっていうのもすごく楽しそう」
「わぁ、それめちゃくちゃいいですね。俺も遊びたい」
「ふふっ、実は俺が遊びたいから言ってみた。こういうの、小さい頃から憧れで、見ることしかできなかったから、楽しみだな」
「自分たちが想像するものが現実になるっていいですよね」
「だよね」
俺たちは家の構造や設備を考えながら〈創造〉の練習もたくさんした。結果、できたのはせいぜいおにぎりや簡単な衣服で、やっぱり衣食住は要さんに任せることにした。
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