第18話


 クリスマスパーティの当日・・・。




 俺達は綿密に作戦内容を確認し、事前練習まで行って本番に備えた。


・・・まず、武田が率いる、強盗団に変装した不良部のメンバーが怒鳴り散らしながらパーティに乱入する。

そして、携帯電話やスマホやらを回収し、部屋(パーティ会場)の隅の方へそれっぽく誘導する。

 そのあと、強盗団のリーダー役である武田が、「金を出せ!」とか喚きながら園長を脅し、お金を持っていないと困った様子を見せた園長をねじ倒す。


……園長には一応事前連絡し、相談してこの三文芝居に協力してもらう事は承諾してもらっている。


 ここまでの流れから犯人の子が、(…俺は犯人はここの園児達の中の誰かだと睨んでいる)園長や他の子供達を守るために名乗り出てお金を差し出す流れになれば、作戦は成功だ。


……万が一、名乗り出なかった場合は、この後何も知らずにやって来た姉ちゃんに強盗団が投げ飛ばされて成敗されるという、ヒーローショーモドキのような形で楽しんでもらう事になる。



 問題は、ひとつ。


 不良部のリーダー、武田がなかなかな大根役者で、何度も練習してセリフ合わせしても台詞の棒読みが治らなかった事だ。


 簡単な、とはいえ台本を見ながらの演技には無理があるのかも知れないが、一番リーダーらしい型位と声の大きさからしても、やはり彼が適材適所の役割になるし、彼の望みの “姉ちゃんに投げ飛ばされたい” を叶えるためには奮闘してもらうしかない。



「・・・とはいえ……」



「や、やややあやあ我こそはこのごおとおだんのリーダーであるぞっ!おとなぁしく、か、か、金お、だぁせぇいっ!!」


・・・笑わないでやってほしい。

彼は、今、本気で演技しているのである(汗)

しかも、十回中ではまだ随分マシな方だったりなんかして。



「……アトラクションのヤラレ役の着ぐるみの怪人ならともかくねぇ…出てくるなり子供達にウケるような棒読みが治らないのは、どうしても迫力にかけるっていうか……」


 映画監督よろしく、台本をメガホン代わりに指示を出す明が、全力で肩を落としながら練習の成果を評価した。



「いくらかはマシになってきてる…と思うぜ?迫力云々を問わないのであれば、という条件はつくけども」


「瞳ちゃん、あんた、麻痺してきちゃってるんじゃない?

だいたい、 “やあやあ我こそは” って、何よ?戦国時代の戦前の名乗りを上げる武将じゃあるまいし。台本に無いわよ、そんなセリフ」


「…これでもリーダーとしては、頑張ってる方だと思うよ?元々仲間内以外で人前で演技するなんて芸当が出来るような器用な人じゃないんだよ、この人は」


 メガネを掛けた日野さんが、まあまあ、と両手で押さえるようなジェスチャーをしながら苦笑いする。



「仕方ねえだろぉ?こうみえて俺はあがり症なんだ」


…公園でリサイタルとかしてそうなくせに(汗)

あ、いや、あがり症の不良なんて・・・

どんどん『いい人』が前面に出てきちゃってんなぁ…。



「ねえ、ジャ…じゃなかった、リーダー。そんなにアガるんなら、覆面とかしてみたらどう?顔が隠れてると思えば案外気持ちが大きくなって緊張しなくなるかもよ?」


来杉出がそう提案すると、日野さんが羅道を手招きして耳打ちした。



「……う〜ん……今僕が持ってるのはこれくらいしかないけど……」


 羅道がゴソゴソと鞄の中を漁ったかと思うと、おあつらえ向きそうなゴリラの覆面マスクを取り出した。



「アンタ、なんでそんなもんを持ち歩いているんだ?学生鞄の中にそんなもん……」


とりあえずお約束でそうツッコんでみる。

……変なものが出てこなくて内心はホッとしていたりなんかして(笑)



「だって、ボクの趣味はプロレス鑑賞と、技の研究だからね〜。

これはプロレスラーのゴリラ仮面が使ってる物のレプリカだよ」


・・・ゴリラ仮面……。

たしかに最近人気のプロレスラーにそんなひとがいるけど……。



「へぇ〜。ちゃんと頭の後ろがマスクマン用に調節出来るように紐がついてら。こんなのも売ってるんだな〜」


 これはパーティグッズのゴリラのお面とか、被り物とは違い、しっかり被れて頭や顔にピッタリフィットしそうだ。

 これなら被った感もあるし、激しい動きをしてもズレたりする事はないだろう。



「…よし。・・・おお、なるほど、こりゃあすげえ。意外とつけ心地が良いぞ」

「うふふ。そりゃあ本物のプロレスラーが激しい動きをして、汗をかいたりしても大丈夫なように出来てるんだもん」


「リーダー。ついでだから台本無しで、レスラーになった気分でやってみたらどうだい?」


ナイスアイデアだ、来杉出。

プロレスラーになった気分が加われば・・・




「……おい、おまえらぁ!大人しくしろッ!!ガタガタ騒がずに壁のところに並んで座りやがれ!」


 セリフだけじゃなく、その時のジェスチャーや動作まで、急に臨場感が出てそれっぽくなったじゃねぇか。



「おお〜!メチャいい感じじゃん!それよ、それ♪これなら子供達も怖がってくれそうよ」


 明監督も大満足で大きく頷いてオーケーを出した。


…これで、準備は全部整った。


 今夜の本番、なんとかなりそうな気がしてきたぜ。



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