第十六話 説教と温もり


 少し経って。


 額に冷え〇タを貼った俺は、フローリングに二人を正座させていた。


 そんな二人を見下ろすような形で、俺が仁王立ちしている。


「お前ら、やりすぎだ」


「「す、すみません……」」


 流石の二人も、俺が倒れたことで反省している様子。


 早坂なんか、今にも泣きそうだ。


 ただ、心を鬼にしなければいけない。


「今日一日を通して、度が過ぎてると俺は思う」


「……ご、ごめんね、透くん。ちょっとやる気を出しすぎちゃって」


「……ごめんなさい透。つい、久しぶりに会えたのが嬉しくって」


「「ごめんなさい」」


 頭を下げる二人。


 誰がどう見ても反省している様子で、俺はふぅと息を吐いた。


「二人とも、顔を上げてくれ」


 顔に反省の表情をにじませた二人が、心配そうに俺のことを見てくる。


 別に説教をしたいってわけじゃない。


 それに、二人の好意が嫌ってわけではないのだ。


 それをちゃんと伝えなければならないと思い、んんっと喉を鳴らす。


「正直、俺は別に、迷惑ってわけじゃない。二人がその……なんだ? こ、好意を向けてくれての行動は、嫌じゃないんだ」


 きょとんとはてなマークを浮かべる二人。


 うまく言葉がまとまらない。


 それに自分からこれを言うのは妙に恥ずかしくって、視線をそらして頬をぽりぽりと掻く。


「今までの生活とは違って賑やかだし、言うのは恥ずかしいんだが……騒がしくて、楽しい」


「と、透……」


「透くん……」


 これは、確かに感じていることだった。


 これまでと明らかに日常は変わった。でも、それはダメな方向じゃなくて、もしかしたら、むしろ……。


「だから、二人が嫌とか、迷惑とか思ってないんだ」


 どうしても伝えたいことが、遠回りだったけど言えた。


 それに達成感を感じていると、目を輝かせた二人が俺のことをじっと見つめていた。


 視線を合わせるのは照れくさくって、斜め下に落とす。


「これからは、その、もうちょっと距離感とか、段階とかを考えてだな……」


 そう言った刹那――



「透っ!」「透くん!」



 二人が俺に飛びついてきた。


 そのまま二人に押し倒される形で、フローリングに倒れ込む。


 お風呂上がりのいい匂いが、ふわっと香る。


 女の子特有の柔らかな体の感触が色濃く感じられ、胸がドキッと跳ねる。


「透! 透!」


「ばっか広瀬! お前激しいって……!」


「透くん! ごめんね、ごめんね!」


「早坂当たってるって! ヤバいもんが押し付けられてるって!」


 俺の主張なんて聞こえてないようで、二人が無我夢中に抱き着いてくる。


 ――しかし、何故だろうか。


 じんわりと胸の奥で温もりを感じた。


「それがやりすぎなんだって!」


「これからは気をつけるわね、透!」


「もう気をつけてくれ!」


「私、ちゃんと抑えるね!」


「今抑えられてないから!」


 全く、さっき言ったばかりだというのに……。


「ははっ。どうしようもないな、ほんと」


 なのに、笑えてくる。


 とんでもなく修羅場だったのに、俺の口から笑みが零れてきた。


 そして、俺たちはフローリングに倒れ込んで、気づけば三人で笑っていた。


 

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