11-3
「何をやっとるんじゃ」
「先生…」
状況を説明したが、先生は解せない様子。
「よく分からないが…怪我人は?」
「怪我人はいませんが、リアンが…」
先生が、座りこんだままのリアンを覗き診る。
「椅子を持ってこい」
「はい!」
シエラが椅子を取りに走って行った。
「大丈夫か?」
「…はい」
リアンは弱々しく答える。
「椅子持ってきました」
「おう。これに座れ」
「うん」
椅子を書斎の中が見えない位置に置いて、リアンを座らせる。
僕はリアンの前にしゃがむ。
「リアン、僕は大丈夫だから。ソニアも傷つけない、約束する」
「うん…」
「だから、気をしっかりもって」
「うん…」
弱々しく頷くだけ。
「水をお持ちしました」
マイヤーさんだ。
「マイヤーさん…ありがとう」
マイヤーさんからカップ二つを受け取る。
リアンに水を飲ませ、僕も飲んだ。
フリッツ先生はミラルド先生に何か言ってる。
ミラルド先生は頷いて去って行った。
書斎に戻ると、ソニアがロープで縛り上げられていた。
ミャンが長剣を拾い、ライアが持っていた鞘に収めている。それとソニアのショートソードも回収した。
「本当なら、あんたを斬りたいけど、リアンがいるからね」
ヴァネッサは縛られたソニアの耳元で話す。
「ヴァネッサ、リアンに聞こえるよ」
彼女の肩を掴み止めさせる。
「ソニア、なぜこんな事をした?僕が領主だからじゃないらしいけど」
「…」
「あんたね…」
黙っているままのソニアに掴みかかろうとするヴァネッサ。その前に腕を出す。
「ヴァネッサ、落ち着いてよ」
彼女は苛立ち、舌打ちをする。
「わたしは仇討ちために帰ってきた」
「仇討ち?僕じゃないんだよね?」
ソニアとは初対面だ。
「あなたじゃない。シュナイダー様よ」
「なんだってっ!」
ヴァネッサがソニアを掴み上げる。
「ふざけんじゃないよ。シュナイダー様が何したっていうの?」
「ヴァネッサ…」
ヴァネッサはソニアを殴り殺しそうな雰囲気。
「シュナイダー様はわたしの父を殺した!その仇討ちよ!」
「あんたの父を殺した?適当な事言って…」
「適当なんかじゃない。両親の事を調べる内、それに行き着いた」
ソニアは目に涙を浮かべる。
「両親って…あんたはそれを調べるためにアチコチ行っていたのかい?」
「そうよ」
「そうよ?シュナイダー様は、あんたをそんな事をさせるために自由してたわけじゃないでしょ?それとも知ってたのかい?」
「知らない…と思う…」
ソニアは自身の両親を知るため、シュナイツを離れ旅をしていた。
そして、父親の情報を手に入れる。
しかし、父親はシュナイダー様に殺されたと。
「君の父親とシュナイダー様はどこでどうつながってる?」
「わたしの父はヨアヒム・ベルファストだった」
「ヨアヒム・ベルファスト?」
「何だと…。おい、本当かそれは?」
フリッツ先生が戸口から驚いた様子で入ってくる。
「先生、知っているんですか?」
「ああ、帝国の竜騎士だった者だ」
「帝国の?」
「あたしも聞いた事はある。向こうじゃ、シュナイダー様ほどじゃないけど、尊敬されてる竜騎士だよ。でも、もういない」
「うむ。十五年前、帝国の再侵攻あった。その時に…まさか、あれの事か?殺されたと言ってるのは?」
フリッツ先生の問いにソニアは頷く。
「あれは…ああしなければいけなかったらしい…」
「何があったんです?」
「一騎打ちだ」
帝国の再侵攻。
その情報を王国は掴んでいた。
侵攻を防ぐため布陣を敷き、待ち構える。
しかし、軍同士の衝突はなかった。
帝国からの一騎打ちの申し入れあり、シュナイダー様が名指しされ、とヨアヒム・ベルファストと戦う事になったのだ。
その一騎打ちにシュナイダー様は勝利し、帝国は軍を引いた。
「そういう事か…」
「戦争なんだよ…殺った殺られたをいちいち、仇討ちされちゃたまったもんじゃない」
「そんな…なぜ父が死ななけれいけなかったの…父だけが…」
ソニアの父親は無駄死にではない。
戦争は回避されたのだから。
「レオンだって、したくてしたわけじゃない。ベルファストとは友人だった」
「そうなんですか?」
「詳しくは知らん。だが、帝国に竜騎士の友人がいると言っていた。たぶん、いや間違いないだろう」
「先生はベルファストさんに会った事は?」
「いや、ない。ブリッツなら知ってるかもしれん」
「大体、あんたの父親がベルファストだって確証あんの?」
「わたしが嘘ついてるっていうんですか?」
「あんたが嘘言ってるかもしれないし、あんたが掴んだ情報がそのものが嘘の可能性もあるでしょ?自信を持って父親がベルファストだって言える?」
「…」
ソニアは黙ってしまう。
自分の親が、本当の親かどうかわかる者はいないだろう。
「ソニアに嘘を言ってどうする?何の利益もないぞ」
先生がそう指摘する。
「あるでしょ?実際シュナイダー様は襲われてんだから。さっきみたいに。ソニアを焚きつけた可能性だって」
「え?シュナイダー様が襲われた?」
ソニアはヴァネッサの言葉に驚く。
「どういう事ですか?」
「シュナイダー様はね、病気で死んだんじゃない。暗殺されたんだよ」
「そんな…でも、病気って布告が…」
「あれは噂や混乱を防ぐための表向きの理由」
「あたしはあんたが首謀者じゃないかって疑ってる」
ヴァネッサはソニアを睨む。
「違う!」
ソニアは首を横に大きく振る。
「違う?シュナイダー様はあんたの仇なんでしょ?」
ヴァネッサはソニアの胸ぐらを掴む。
「それは…そう、だけど…」
「あたしは二度も領主を失う所だった」
「ヴァネッサ、その辺でやめてくれ。僕は生きてる」
彼女はソニアを離す。
「情報や確証が少なすぎるんだよ」
「そんなのはどうでもいい。ソニアはあんたを襲った、その事実は変わらない」
「それに至る経緯が不明瞭で、ソニア自身も気持ちが揺らいでいた。そうだよね?」
そうソニアに問いかける。
彼女は小さく頷く。
「どうしていいか、分からなかった。父の事を知ってから。そして、シュナイダー様は亡くなってしまうし…」
ソニアは誰にも相談できず、迷いはあったものの半ば衝動的に行動してしまった。
「いつまでやるの?これ」
「いつまでって…」
「こいつの処分を決めないと」
ヴァネッサはソニアを軽く蹴る。
「処分…」
「あんた、まさか無罪放免にする気じゃないないだろうね?」
そんな気はないけど…。
処分といったってどうする?。
ソニアがした事は重罪に値する。
追放?拷問?
何にせよ、リアンが納得しないだろう。
その前に確かめないといけない事がある。
「処分はする。その前にシュナイダー様、ベルファストさん、ソニアの関係を明らかにないと。ソニアが納得いかないよ」
「知りたい」
「あんたは知ってんじゃいの?散々出歩いて」
「父や一騎打ちの事を知ったのは、最近で…詳しくは…」
「馬鹿!。詰めが甘いんだよ」
ヴァネッサはため息を吐く。
「情報は受け取るだけじゃいけないんだよ。情報の出どころが重要なの」
「はい…」
「もらった情報鵜呑みにして、その他すっ飛ばして」
「なら、ますます明らかにしないと」
このまま有耶無耶で終わらすわけにはいかない。
「してどうすんの?。あたしは興味ないよ、こいつの事なんか…」
「なんの確証もないままソニアを処分していいものだろうか?君がシュナイダー様を襲った首謀者がソニアだって言ってるけど、それだって君の憶測でしかない」
「そうだけど…」
ヴァネッサは面倒くさそうにため息を吐く。
「分かったよ。勝手にしな」
「ありがとう」
「しかし、ウィルよ。どうやって調べる?レオンとベルファストは敵国の将同士。公には無関係だぞ」
確かに公に会える立場でない。
「でも、友人。個人的な付き合いがあった…」
「レオン関係の事ならブリッツが知ってると思うが…今すぐにというわけにはな…」
「はい…」
個人的な関係…個人的…か。
僕は考えつつ、書斎を見回す。
本棚が目に入った。
本棚にあるのは、シュナイダー様の日記。
「日記なら…日記に何か書き記してる可能性は?」
「うむ。なるほどな。ありえる」
日記ほど個人的な物はない
本棚のそばにいたヴァネッサとソニアには移動してもらった。
ソニアは窓のそばに、ヴァネッサは北側の壁に。
離しておかないとヴァネッサがすぐ手を出す。
本棚の日記に手を伸ばす。
「シュナイダー様、お許しください」
そう呟いから、端の一冊を手に取った。
「お前さんが一人で読むには、多いな」
先生がそう言って、日記を手にする。
「こっちが古いやつか…ウィル、お前は新しいほうから見ろ。古いのはわたしが見る」
「はい、ありがとうございます」
「私も手伝います」
「ぼくもだ」
エレナとライアが本棚に近づき日記を取る。
エレナはランプの中にある発光石をさらに強く光らせてくれた。
「君達には関係ないから手伝わなくても…」
「二人だけではいつ終わるかわからないぞ」
「人数が多ければ効率は上がります」
「うん…。ありがとう」
ミャンは読むのは苦手だからと、ヴァネッサの隣に行った。
「ウィル、私も手伝う…」
「リアン…。君は手伝わなくいい」
戸口に立つリアンはまだ顔色が悪い。
「マイヤーさん、椅子を」
「はい」
廊下にある椅子を持ってきてソニアのそばに置き、リアンを座らせる。
「ここに座ってて」
「でも…」
「君がソニアのそばにいれば、ヴァネッサは手を出しづらいから」
そう耳打ちする。
「…わかったわ」
リアンが小さく頷く。
ソニアが僕の顔をじっと見つめていた。
「何かな?」
「いえ、別に…」
「そう?」
彼女は視線を床に戻す。
「アル。お水を頂戴」
「はい、かしこまりました」
マイヤーさんがカップをリアンに渡す。
そのカップをソニアの前に出す。
「飲んで」
「でも…」
ソニアは僕を見る。僕は小さく頷いた。
「ありがとう…」
彼女はリアンが差し出すカップに口をつけ、水を飲んだ。
「ありがとう、リアン。もういい…」
「うん」
僕は本棚に戻り、作業を再開した。
Copyright(C)2020-橘 シン
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