第54話 本日の本題

 さて、ここからが本題だ。

 水産物関連と調味料関連。

 エビ養殖の先駆者はいるのか。

 ちひのライバルになりそうな業者はいるのか。

 味噌、醤油、甜麺醤のライバルは。


 まずは水産物関連をみてみよう。

 やはり魚のフライが一番メジャーだ。

 蔓芋とあわせてフィッシュ&チップスなんてものまである。


 これ絶対イギリスから移住してきた人間がいるだろう。

 マーマイトもどきもあった事だし。


 なんて思ってそして気づいた。

 此処もイロン村も結構人種が偏っている事に。


 白人、それもゲルマン系と感じる人が圧倒的に多く7割以上。

 白人のそれ以外が2割、アジア系1割。

 今のところ黒人は全く見かけない。


 これは移住を募集した場所が偏っていたせいなのだろうか。

 それとも何か他に理由があるのだろうか。


 知識魔法で調べてみるが理由は出てこない。

 なら考えるのは無駄だろう。

 そんな訳で商品の閲覧へと意識を戻す。

 あ、でもその前に。


「お疲れ。どうだった?」


 ちひが戻ってきた。


「割とスムーズに終わりましたね。口座も資格もイロン村のをそのまま使って問題無いそうです。明日から並べてくれるそうですよ」


「なら良かった」


「あとどちらかで品切れになった際は、イロン村の方と連絡して相互に在庫をやりとりしてくれるそうです。今後はどちらかの公設市場にまとめて卸せばいいみたいです」


「便利だな」


「ただそれなりの売れ行きがないと引き上げになるみたいですけれどね。それはまあイロン村の公設市場も同じですけれど」


 その辺の条件は聞いた気がする。


「確かあれって滅多にないんじゃ無かったか。3ヶ月で売り上げが小銀貨1枚1,000円以下とか」


ヘラスここの場合は2ヶ月で小銀貨1枚1,000円以下だそうですよ。少しだけ厳しいようです」


 どっちにしろ大した事はない。


「公設市場も場所不足になりそうだな」


「実際そうみたいですよ。此処も場所が足りなくなって食品部門だけで新たに建物を作ったようですから」


「イロン村もそうなるのかな」


「人口が増えればそうなるかもしれないですね」


 なお美愛は結愛をつれて各駅停車状態で棚を見回っている。

 今はやっと野菜コーナーを抜け、肉に入ったところだ。


「さて、それじゃここからが本題だな。水産物と調味料」


「どっちも問題無いですよ。魚の干物、さつま揚げ、エビについては競合業者無し、醤油、味噌、甜麺醤も先輩が作ったものだけです」


「早いな、確認が」


 もう把握済みか。

 僕はまだ見る前だというのに。


「手続きの待ち時間にざっと確認しましたから」


 確かに魔法で見ればわかるけれど早いし味気ないだろう。

 そうは思うが合理的でもあるのでとりあえず文句は言わない。

 それにまだ何か続きがありそうだ。


「だから今日の本題は市場ここじゃないです」


 そう来たか。

 しかし実は何となく想像はついている。


「学校か? それとも貸家か?」


「両方ですよ。やっぱり先輩は話が早くて楽です」


 もうすぐ結愛の義務教育期間がはじまる。

 やはり学校は行っておいた方がいい。

 なら最初から通っていた方が転入するより馴染みやすいだろう。


 僕もその辺は気になっていたのだ。

 美愛達には明日以降に話すつもりだったけれど。

 今までその話をしなかったのは、貸家や生活の費用を賄えるかどうか不安があったからだ。


 結愛1人で寮に入れるというのは無しの方向で考えている。

 ヒラリアは教育が出来ない移民等用に義務教育期間用の寮を整備している。

 結愛も案外その環境にすぐに慣れるかもしれない。

 同じような環境に同じ年代の子供が多数いるのだ。

 それにこのくらいの年齢だと順応性も高い。


 心配なのは結愛ではなく美愛だ。

 美愛は『結愛の為に』生きてきた感じがするのだ。

 酷い環境をそう思って耐えてきたのだろう。

 だから急に結愛と離さない方がいい。


 となると結愛と美愛が住める家が必要となる。

 ただその為だけに家を借りるのは美愛が遠慮するだろう。

 だから住むなら、それなりの理由をつけて全員で住む必要がある。


「ちひは此処から漁業をしに行けるのか」


「週に1回くらい、丸1日ちょい向こうに行ってくる感じになりますね。先輩もそれでエビ池とか行けばいいんじゃないですか。何なら5の曜日の夕方に皆で向こうへ行って、漁だのエビ作業だのして6の曜日夕方に戻ってくる形で」


 確かにそれでも何とかなる。

 ちひの漁がそれで大丈夫なら。


 僕の作業はエビ以外はヘラスでも出来る。

 折角向こうの家に個室を整備したのだけれども仕方ない。

 それに学校については気になっていなかった訳でもないのだ。


「学校の申し込みはあと2週間ちょいだっけか」


「あと15日ですね、学校がはじまるのは2月からですから。夏休みがありますし」


 ついでに確かめておこう。


「僕の醤油等の取引で、品物補充を考えた場合、市場から連絡が取れるところに住んでいた方がいい。理由はそんなところでいいか。

 あとイロン村でなくヘラスにしたのは田舎の学校だと進路に制約がある場合を考えてか。自分が苦労したから」


「その辺先輩も苦労したようですからね。あと理由を先輩だけにおっかぶせるつもりはないです。私も独立して商売してる関係上、市場が近い方が便利ですから」


 なるほど、確かにそれで問題無いだろう。

 あともう1件、確認だ。


「ちひの事だから、もうそれなりの条件の家の見当はつけているんだろ」


「物件のあるなしは知識魔法で確認出来ますからね。それなりの物件が月正銀貨10枚10万円で借りられるのは確かですよ。詳細はは窓口で相談ですね。合同庁舎の2階、開発局の相談窓口で不動産の仲介もやっているみたいですから」


 つまり生活費等を考えても問題無いと判断済という事だ。


「ならここが終わったら美愛達に話して物件選びをするか」


「先輩はそれでいいんですか」


「ああ、勿論」


 そう言って、そしてこれだけでは会話として足りなそうだと感じた。

 ちひの表情がそう言っている気がしたから。


「何でそんな確認をするんだ」


「あまりにも簡単に転居の事をOKしたからですよ。先輩は往々にしてその辺の判断が軽いから、時々不安になるんです。何を考えていて何を望んでいるのかって」


 今回については理由は簡単勝つ明快だ。


「僕も家を借りる事を考えていたしさ。もう1週間余裕あるからその間に相談しようと思ってただけで」


「なら物件は早めに押さえた方がいいですよね。それじゃ水産物や調味料を一応確認して、その後、美愛ちゃんと結愛ちゃんにも話します。それでいいですか」


 僕は頷く。


「ああ。此処が終わったら喫茶店でも入って休憩しながら話すとしよう。ある程度しっかり説明した方がいいだろうし」

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