第18話

 若い武士が手ぶらで戻って来ると、少年武官が手を上げた。

「ちょうど良かったです。話したいことがあって」

 言いかけるも、一日歩き回って小汚い格好になっていた若い武士を見ると、「何かあったんですか?」と不思議そうに訊く。

「大したことじゃありませんよ。それで、話とは?」

 促されて、少年武官は真剣な顔付きで頷いた。

「相良の君のことなんですが……」

 若い武士はぱっと表情を変える。

「確か、あれからずっと伏せっておられるとか」

「はい。顔色も悪く、なかなか食も進まないようで」

「それは心配ですね」

 若い武士は低く唸った。そして続ける。

「早く、新しい陰陽師に来てもらって、鬼を払ってもらわないと」

 すると少年武官は、「いいえ」と首を振った。

「実は、私が頼りたいのは、あなたなんです」

「私?」

「相良の君を、守っていただけませんか」

 若い武士は度肝を抜かれたような顔をして、「私が、ですか?」と自分の顔を指差す。

「そうです。こんなに強い人を、私は他に知りませんから。私などは、力が及びませんし。友人として、どうか、お願いしたいんです」

 少年武官は必死な様子だった。若い武士は、すぐに頷く。

「私で良ければ、もちろんそうさせていただきます。しかし、ずっとお側に控えているというのは難しいと思いますが」

「はい、それは分かっています。お忙しいと思いますから、出来る範囲で、ということです。常に誰か一人は付いているようになっていますから……相良の君も、きっと安心するはずです。お願いします」

「命に代えても」

 若い武士は、力強く言った。

「心強いです」

 少年武官は優しく微笑んだ。

 その後、少年武官は相良の君にその旨を伝えた。相良の君の反応は鈍いものだった。

「そう」

「これで、少しは安心できるんじゃないかな。すごく強いし、きっと何があっても守ってくれる」

「そうね」

「安心して眠って」

 相良の君は縋るように少年武官を見ていたが、「ありがとう」と言うだけだった。

 少年武官は静かにその場を去ると、しばらく歩いて、一人の人物を呼んだ。

「中将様」

 少年武官は頭を下げる。

「少し、お話が」

 中将は振り向くと、「話?」と首を傾げる。

「少しだけ、ですので」

 少年武官の様子を見ると、中将は深く頷いた。

「……分かった、いいだろう」

 人のいない夜だった。

 少年武官は口を開いた。

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