第16話

「鬼が出るー、鬼が出る―、女を攫って一人二人、三人四人と食っていくー、鬼が出るー、鬼の正体、我知る人ぞと、」

 陰陽師は一人、陽気な声で歌っている。それを聴く者はいない。

 闇夜に響く声は、聴く人を恐怖に陥れる音調である。

 道を歩くのは陰陽師ただ一人だった。

 鬼がいたという証拠は、一つも見つかっていない。気配も全くない。しかし、鬼を見た人間が二人も出たという事実がある。今のままでは、陰陽師はただの嘘吐きとなってしまう。

 陰陽師は、陽気に歌っていた。

「唄った頃には、鬼が出る――」

 すると、声がぶつりと途切れた。

 静寂。

 陰陽師の陽気な表情が一変する。

「お前、何者だ?」

 陰陽師は、鋭く言い放った。

「普通の人間ではないな? 顔を、見せろ」

 月明かりに照らされ、音もなく立っていたその男は、傘を脱いだ。

 若く、美しい顔立ちの男は、切れ長の瞳でこう言った。

「私は、ただの庶民ですよ」

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