第16話
「鬼が出るー、鬼が出る―、女を攫って一人二人、三人四人と食っていくー、鬼が出るー、鬼の正体、我知る人ぞと、」
陰陽師は一人、陽気な声で歌っている。それを聴く者はいない。
闇夜に響く声は、聴く人を恐怖に陥れる音調である。
道を歩くのは陰陽師ただ一人だった。
鬼がいたという証拠は、一つも見つかっていない。気配も全くない。しかし、鬼を見た人間が二人も出たという事実がある。今のままでは、陰陽師はただの嘘吐きとなってしまう。
陰陽師は、陽気に歌っていた。
「唄った頃には、鬼が出る――」
すると、声がぶつりと途切れた。
静寂。
陰陽師の陽気な表情が一変する。
「お前、何者だ?」
陰陽師は、鋭く言い放った。
「普通の人間ではないな? 顔を、見せろ」
月明かりに照らされ、音もなく立っていたその男は、傘を脱いだ。
若く、美しい顔立ちの男は、切れ長の瞳でこう言った。
「私は、ただの庶民ですよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます