第32話

 薬師の方々の人数は多く、薬草育成部門や製薬部門、新薬開発部門、疾病情報部門などがあり、サロニア国の三倍の人は働いていたわ。


 考えてみればサロニアは少数精鋭過ぎるのよね。もっと人が増えれば良いのに。


 私は薬草園を重点的に見学させてもらい、サロニアには無い薬草がいくつかあったので株分けしてもらう事が出来たわ!


 私の領地の話をして土作りや肥料の話等様々な意見交換が出来たと思う。


 そして後日、カイロニアには無い薬草を送ることで話はついた。


 交渉してみるものね。


 これは絶対マード薬師長からボーナスを弾んでもらわないと! こんなに頑張ったんだもの。


 この日は薬草園の見学で終わった。


 ローサが従者に申請していたお茶の件も『カイン殿下が騎士団で仕事をしている時間は空いているので』とカイロニア国の淹れ方や茶葉のレクチャーを受けられたみたい。


 ローサの淹れるお茶が前より格段に美味しくなっていてびっくりしたわ。



 滞在三日目はローサも侍女として一緒にカイン殿下と王都観光に出かける事となった。


「トレニア、今日は私のことをカインと呼ぶように」

「わかりました。カイン、宜しくね」


 街を出歩くため今日は平民の格好をしているが、カイン殿下の美しさは全くといっていいほど隠れていないわ。


 私とは全く釣り合っていなくてなんだか謝りたくなった。


 私達は王都で一番有名な時計塔を見学したり、丘へ上がって絶景を眺めたりしたの。そして時計塔の絵葉書を父とマード薬師長宛に出してみた。


 これこそ旅の醍醐味よね。


「トレニア、お腹が空いたか?」


 殿下は私に気遣うように聞いてきた。


「そうですね。そろそろお腹が減ってきました。どこかいいお店はありますか?」

「ああ、お勧めの場所がある。こっちだ」


 カイン殿下は機嫌が良さそうに案内し、一軒の食堂の前に立った。そこはやや小さなお店だったけれど、活気があって人々が多く出入りしていた。


「こういう店に入った事はないか?」

「ありますよ。私、平民になってもう三年は経ちますし、自炊もしています」

「そうか。トレニアの手料理を食べてみたいな」


 カインはそう言いながら店に入り、席に着くとすぐに威勢のいい店員が「いらっしゃいませ!」とメニュー表を出した。


「カイン、凄いですね。聞いたこともない食べ物ばかり。どれを選べば良いか分からないです」

「良かった。ここはカイロニア全土の郷土料理が食べられる店なんだ。私のお勧めはこれとこれだ」

「では、私はカインのお勧めをいただきますね」


 カインは手を挙げて店員を呼び、料理を頼んだ。横の席のローサやカインの従者達もそれぞれ頼んだみたい。


 店員がすぐに運んできた料理は煮込まれた骨つき肉がゴロリと皿の上に載り、香草や野菜も添えられてとても良い香りがする。


 カインは厚く切って焼かれた肉に香辛料がまぶしてあるステーキのような食べ物だった。


「どうやってこの料理を食べるのですか? お肉は齧り付くの?」

「こうやって齧り付いて食べるんだ。それとこの硬いパンをスープに浸して食べる」


 私は教えられた通り肉に齧りつくと、中から肉汁が溢れだし、肉の柔らかな触感と旨味が口いっぱいに広がっていく。目を見張る美味しさだった。


「美味しいっ」


 カインも大きく肉を切り分けて齧り付いている。


「良かった。ここの店は肉料理が美味いんだ。今まで何人かの令嬢を連れて来たけどみんなは齧り付くのを嫌がってな。デートはいつも失敗さ」


 カイン殿下は苦笑いしているけれど、普通はこんな所に普通は貴族令嬢を連れて来ないわよね。令嬢が齧り付くなんてはしたなくて嫌がるに決まっているわ。


「まぁ、普通はそうでしょうね。はしたないですもの」

「トレニアは他の子と違って美味しそうに食べてくれるなんて嬉しい。連れてきて良かった。トレニアの事をもっと知りたい」

「私はもう貴族ではありませんからね。郷に入っては郷に従い、美味しい物をお勧めの食べ方でいただきます」


 肉に齧り付いている私を見るローサの視線が痛いのは気のせい。気にしない。


「私が親しくなる令嬢達がみんなトレニアみたいなら良いのだが。そういえばこの間、令嬢と王都で一緒にアクセサリーを見ていたのだが、


『カイン様と二人だけの指輪が欲しい』と言われて買ったのだが、別の令嬢達と王都でデートする時に同じように毎回言われるから指輪だらけになってしまうのだ。


 困った話だろう? トレニアには私の瞳色の指輪を僕とペアにして着けて欲しい」


 カイン殿下は悪びれる素振りもせず話をしている。その内容は相手にとって失礼ではないかしら。


 これから女性(私)と仲良くなりたいと微塵も思っていない内容に苦笑するしかないわね。


「ごめんなさい。大変申し訳ないのですが、私、薬師なので薬の調合をする時に装飾具は影響が出てしまうので着ける事は出来ないのです。普段使いも平民が高価な物を持っていると狙われてしまいますし、ご遠慮させてもらいますね」


 カインはそれなら仕方がないとあっさり引いてくれたわ。


 なぜ私と令嬢達を絡めて話すのかしら?


 不器用にも見えるけど、女性の扱いを見ているとスマートで嫌われる要素はないと思う。


 もしや私に対してのモテ自慢なのかしら!?

 やんわりと断ったけれど大丈夫よね?


 様々な疑問が浮かびながらご飯を美味しく頂いた後、カイン殿下にお土産を買いたいとお願いして商店に連れて行ってもらった。

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