第104話 集結する最果ての剣
GOOの召喚獣は、初級召喚獣でLv10のプレイヤーと同等。ステータスオール80程度。
中級召喚獣でLv30のプレイヤーと同等。ステータスオール150程度。
そして上級召喚獣でLv50のプレイヤーと同等の300程度のステータスを持つ。
サモンライドによって召喚獣のステータス値が自身のステータスに上乗せされているクリスターは、上級召喚獣二個分、つまり約600程、ステータスが増加しているのだ。
そして、次にクリスターは黄色い召喚石を取り出した。
「あれは……まさかクワガイガー!?」
「ふふふ、何を驚いているんです? まさかクワガイガーを持っているのは自分だけだなんて、思っていたんですか?」
クリスターが取り出したのはクワガイガーの召喚石。上級すら超える、超級の召喚獣。そのステータスはオール500。その数値がそのまま、彼女のステータスに加えられる。
「――サモンライド!!」
そして彼女の見た目がまた変化する。銀色の鎧に電子回路のような模様が浮かび上がり、虹色に輝く。さながらゲーミングアーマーと言ったところか。
「食らえ――放電!!」
クリスターが手を掲げると、幾重もの電撃がヨハンとドナルドを襲う。
「ちょっとちょっと~ワタシ、スタン耐性持ってないのよ~。アンタもクワガイガー持ってるでしょ? やり返しなさい☆」
「持ってるけど、お城の防衛に置いて来ちゃったわ」
「アラ、そうだったわねぇ~☆」
ヨハンはスタン耐性を持っているものの、確定で防げる訳ではない。もし放電を食らい、スタンして動けなくなってしまったら、そのままグレイプニールからのデモンフリーズのコンボでやられてしまうだろう。
攻撃系のスキルで敵の電撃を相殺しつつ逃げ回っていると、ドナルドが思案顔で呟いた。
「ケド、妙ねぇ……☆」
「妙とは……?」
「いや、あの子の強さを見る限り、召喚獣のスキルだけじゃなくて、ステータスも上乗せされてると思うのよ☆」
ドナルドの読みは当たっている。サモンライドは召喚獣のステータスも上乗せされるので、計算上、あと二体の上級召喚獣をサモンライドすれば、ヨハンのステータスすら上回る事が出来るのである。
ヨハンも敵の攻撃が強力になっていることを感じていたので、素直に頷いた。
「私もそう思う」
「そう。だからこそ妙なのよ☆」
ドナルドの言い分はこうだった。
サモンライドは使えば使うほど自分自身が強化されていくスキル。ヨハンほどではないにしても、クリスターも多くの召喚獣を持っているだろう。それこそ、順当に使えばヨハンすら超えるスタータスを得られるのだ。
だが、だったら何故、わざわざヨハンたちと対面するまでスキルを使わずにいたのか。
それがドナルドの疑問だった。
イベント開始からずっと使い続けていれば、今頃は無敵のステータスを手に入れていたはずだからだ。
「ケド、あの子はそれをしなかった……ということは☆」
「サモンライドには制限時間がある……?」
「そういうコト! じゃ、何をすればいいのか、わかるわね☆」
「ええ、任せて!」
「一体何を相談しているのか知りませんが……」
逃げ回り続ける二人に、明らかに苛立ちを感じているクリスター。彼女は次の召喚獣をサモンライドすると、二人にさらなる猛攻を仕掛けるのだった。
***
***
***
「くっ……こんな……」
数分後。様々なモンスターをサモンライドしたクリスターだったが、ついにヨハンとドナルドの二人を倒すことはできなかった。
さらに、別のルートから城の入り口を目指していた神聖エリュシオン教団のメンバーも合流。踊り続ける煙条P、ダルクも合わせて10人の敵プレイヤーを前にして、さらにサモンライドの制限時間が切れそうということで、クリスターはかなり焦っていた。
結果的に、ドナルドの読みは的中していたのだ。サモンライドの制限時間は、最初の変身から10分。10分経てば、全ての召喚が解除される。
もちろん、また1からサモンライドしていけばいいのだが、サモンライドに使用された召喚石は召喚された扱いとなるため、その日はもう使うことはできないのだ。
(まったく、他のメンバーは何をしているの……無限ガッツがあるとはいえ、全員ここに集まってくるなんて……最強ギルドの恥ね)
先に散っていったメンバーに心の中で悪態をつきながら、クリスターは考えていた。
(残るサモンライドの回数は一回……半分……いやせめて3人は道連れに……ん?)
せめて3人は倒したいと考えるクリスターの元に、一通のメッセージが届く。送り主の名前を見て露骨に顔を歪ませるが、書いてある内容は理にかなったものだった。
個人的にはそのメッセージの内容に従いたくはなかったが、それでもギルドの勝利のため、従うことにする。
クリスターが最後のサモンライドをすると、腕が丸太のように太くなり、その質感は岩石のように変化した。
「アイツ……モンスターに変身できるのか……」
「ところで、あれは何のモンスターなのですか?」
教団のメンバーがヨハンに訪ねる。ヨハンは腕の形状から、そのモンスターの正体を推測した。
「中級モンスターのアースゴーレムかしらね」
「強いのか?」
「いいえ。スキルも、よく使い方のわからないのが一つだけだったはず……」
「謎だな……けど警戒しておいて損はないよね。必要ないかもしれないけど――ルミナスエターナル」
聖女ダルクがスキルを発動。これにより、10秒間の【無敵】状態が全員に付与された。
だがクリスターの動きはそれでも止まらない。彼女は巨大化した腕で地面を叩きはじめた。
何度も。何度も。
そして、地面を叩いているクリスターを中心に地震が発生。庭フィールドに亀裂が入り、地面が大きく揺れた。
アースゴーレムのスキル【アースクエイク】。地震を発生させ、フィールドに掛かっている魔法効果を破壊する能力を持つ。GOOではフィールドに効力を及ばせる魔法が少ないため、あまり有用なスキルではないのだが。
「く……しまった……地面が揺れたせいで」
地面が大きく揺れた影響で、踊っていた煙条Pが足をもつれさせ転倒。曲が止まってしまい、全員の無限ガッツが解除されてしまう。
「これが彼女の狙いか?」と皆が思った直後。クリスターの後ろ、城の方からヨハンたちに向かって一直線に、黄金のエネルギー波が飛んできたのだ。
それは何者かが放った剣士系最強攻撃スキル【ファイナルセイバー】。おそらく敵の増援だ。
いち早く危険を察知したダルクは聖女のスキルのひとつ【セキュリティシールド】を発動。これは大きな盾を出現させて攻撃を防ぐスキルだが、間に合わない。
盾がみんなをカバーできるまで大きくなる前に敵の攻撃が直撃。無敵貫通や様々な強化が上乗せされた攻撃は、ダルクのルミナスエターナルを貫通し、大ダメージを与えた。
離れた位置に居た教団メンバーは全滅。
生き残ったのは自前のガッツを持っていたヨハンとドナルド、そして盾で防げたダルクと煙条Pのみだった。
「貴方はギルドクリスタル前の防衛担当のはずですが?」
そして、制限時間を迎え変身が解除されたクリスターが忌々しげに後ろ振り返ると、そこには最強のプレイヤー、ロランドが立っていた。
「あまりにも暇だったもので。助太刀に来たという訳です」
ロランドは涼しい顔でクリスターの横までやってくると、そう言った。その言葉はクリスターのプライドを酷く傷つけたが、助けられたのもまた事実。
しかも、庭の防衛をしていた全員が苦戦していた煙条Pの【無限ガッツ】をいとも簡単に攻略してみせたのだ。それもクリスターが思いつかなかった足場崩しという方法で。
「ええ。ええ。本当に助かりましたともありがとうございます。感謝してますのでどうぞ城の奥へお帰りください」
「そんなことを言わず。ここは私にも戦わせてください。何せ……」
そしてロランドはちらりとヨハンを見やる。
「彼女とはいずれ決着をつけたいと思っていたのでね……さて、それでは」
言いつつ、ロランドはストレージから一本の短剣を取り出した。剣の部分が黒い水晶のような石で出来ていて、とても戦う剣には思えなかった。
「あんな剣、見たことも聞いたことも無いよ」
ダルクが驚く。これでもトッププレイヤー集団の一員であるダルクが見たこともない剣。一体どのような効果があるのかと全員が身構えていると、その剣から黒い波動が発生。フィールド中に散らばった。
その波動に、ヨハンは見覚えがあった。そして叫ぶ。
「クロノドラゴン、逃げて!」
「無駄ですよ」
黒い波動は一瞬で上空のクロノドラゴンまで伸びる。すると、クロノドラゴンの体は光の粒子となって消滅した。
「……オールデリート」
ヨハンは呟く。
かつて、コンとゼッカがギルティアロランドの兄妹コンビと戦った時に見た、ユニーク装備【オメガソード】の持つスキルである。
「けど、あれって妹ちゃんにあげちゃったんでしょ☆?」
「ええ。いくらコレクターとはいえ、ユニーク装備を持ち主に返却するなんて効果があるようには思えませんが」
「ええ。というか、そもそも見た目が全然違うわ」
第三層で召喚獣抹殺能力を持つ剣が新たに実装された可能性もあるが、ロランドが首を振った。そして、剣を少しだけ自慢げに指さす。
「この黒い剣は【複製剣ジャンクドッペル】。貴重ですがユニーク装備ではありませんよ」
「複製剣……ということは」
「ええ。この剣は生産後、別の剣にぶつけることで、その剣に秘められたスキルをコピーできる強力な剣です。私はこの剣を、妹の持つオメガソードにぶつけ、スキルをコピーしておいたのです。来たるべき、貴方との戦いに備えてね。ですが……」
ロランドは少し残念そうな顔をしながら、剣を掲げて見せる。すると、複製剣にバキバキと亀裂が入っていく。
「一度でもそのスキルを解放すれば、このように壊れて二度と使えなくなってしまう。生産のための素材も重いので、割には合いませんね」
完全に砕けた剣を捨てたロランドは、メインの剣を握りしめる。
「ですが、一体仕留めれば十分。次のモンスターは召喚させませんよ」
「あははー私をお忘れですかロランドさん。加勢しますよ……サモンライド」
ロランドの横に、アースゴーレムをサモンライドしたクリスターが並ぶ。
「別に一人でも構わないのですが……」
ロランドはタイマン勝負が出来ず少しだけ残念そうだったが、気持ちを切り替えたのか、再び鋭い視線をこちらに向ける。
「撤退しましょう☆」
「はぁ!?」
ドナルドが言った。反論するのはダルクである。
「何を言ってるの!? せっかくここまで来たのに!」
「ここまで来たって……まだ城に入れてもいないのよ? それに目の前には最強のロランドちゃん。ワタシたちが今考えなくちゃいけないのは、生き残ること。大体、仮にここを突破して中に入ったとして、難易度は中の方が高いのよ? 無理無理絶対に無理だわ☆」
「くっ……でも」
ダルクは悔しそうに目に涙を浮かべた。ドナルドの言っていることも理解できるのだろう。
寧ろ、トップギルドの一角として頑張ってきたダルクの方が、目の前のロランドの強さを理解しているからだ。
「さぁどうしました?」
「戦う姿勢を見せなさい!」
4人にロランド、クリスターが襲いかかる。
「ああもう! 今話してるんだから邪魔しないで――ファイヤーウォール!」
ダルクが、聖女のスキルを発動させると、ヨハンたち4人を中心に、円形の炎の壁ができあがり、ロランドたちの攻撃を防ぐ。
「炎の壁?」
「聖女が使えるスキルの一つ、ファイヤーウォールだよ。1分間炎の壁の中に姿を隠せる。まぁこっちも外に出られないし、攻撃も出来ないけど……って、そんなことよりさっきの話」
ダルクがドナルドに向き直る。
「そもそも、逃げられるのかい?」
「まぁ、4人全員は難しいでしょうねぇ……☆」
「それなら、私が囮になりましょう」
囮を名乗り出たのは、煙条Pだった。
「お恥ずかしい話ながら、私の踊りは全て邪魔されるでしょう。この中で一番居なくなって困らないのは、私です」
元々隙の大きいスキルだったが、それが先ほど完全に封じられたのだ。だから煙条Pが自分を切り捨てろと言うのは、納得できる言い分だった。
「いいえ。アースゴーレムのスキルの揺れは、建物内では起こらないはず。まだ煙条Pのスキルが完全に死んだわけじゃない。貴方は必要だわ」
「ヨハンさん……」
「ダルクくんは、ここを脱出したら自分のギルドホームの守りを固めて。煙条Pとドナルドさんは、闇の城の守りをお願い。今日はもう外に出なくていいから、7人全員で城を守って。全力でね」
「あらあら……別に良いケド☆」
「ま、待って待って。それじゃあ囮は……」
「ええ。囮は私が引き受けるわ」
***
***
***
炎の壁が消える。
それと同時に、ヨハンは召喚石を手に取る。
「召喚獣召喚――メテオバー……」
「おっと、させませんよ!」
外で待っている間に、さらに召喚獣をサモンライドした、キメラチックな見た目に変貌したクリスターが地面を叩く。その揺れによって、ヨハンはよろめき、召喚は失敗に終わる。
「くっ……これじゃ新しい召喚獣を召喚できないわ……」
「ふふふ、貴方の考えはお見通しですよヨハンさん。メテオバードを召喚し、みんなで逃げる気だったんでしょうが、そうは行きませんよ!」
クリスターがにやにやと笑う。
「こちらとて庭の守りを全滅させられているのでね。あなた方を逃がす訳にはいかないんですよ」
「ちょっと何よコレー!?」
と、その時だった。白亜の城の庭の方から、少女の叫び声が聞こえた。
そのやかましい声にクリスターは「やべっ」と冷や汗をかき、ロランドは「面倒な」という顔をする。
「侵入者か。私が本気を出す価値のある相手だといいのだが」
「はっはっは。何やら楽しそうですなぁ」
「あれ……海賊王レイドのヨハンか。ちょっと戦ってみたいかも」
見ると、庭の入り口には外のギルド襲撃から帰還したギルドマスターのギルティア、メンバーのガルドモール、グレイス、カイが立っていた。ギルティア以外はランキング上位の常連たちである。
「うわあああ。このタイミングで帰ってくるなんてぇ……」
ダルクが絶望的な表情で頭を抱えるが、それでも作戦は変わらない。ヨハンはスキルを発動する。
「それじゃあみんな。手はず通りに――デコイ!!」
ヨハンはスケープゴートが持つスキル【デコイ】を発動。これにより、フィールドにいる敵は、ヨハン以外を攻撃対象にすることができなくなった。
「では皆さん。今のうちに!」
煙条Pに促され、ドナルドとダルクも走り出す。
「それじゃ、ギルドホームは任せて頂戴☆」
「あの……ヨハンさん。その……巻き込んで悪かったよ」
「気にしないでダルクくん。イベントが終わったら、また遊びましょう……それにね」
「は?」
ダルクにしか聞こえていないような声で「私はまだあきらめていないわ」とヨハンは呟いたのだ。ドナルドに手を引かれ、その言葉の意味を聞き出せないまま、庭の出口に向かって走り出す。そして三人が横を通り過ぎるとき、カイは挑発的に口を開いた。
「ギルドマスターを捨て、おめおめと逃げるとは……とんだ臆病者だな?」
3人はそれを無視して走り去る。カイは「ふん」と不機嫌そうに剣を引き抜くと、跳躍し庭の中央までやってきた。ギルティアたちもそれに続く。
そして、最果ての剣の6人は合流。ヨハンVSトップギルド6人の構図が完成する。
「皆さん。ここは私一人にやらせてくれませんか? ヨハンさんとはランキングイベントの時の決着をつけたいと思っていたのです」
「いいや、お前が出るまでもないぞロランド。この女とは私が戦ってやる。そろそろいい加減、本気を出せる相手と戦いたいのでな」
「いやいや、ここはギルドマスターであるアタシがやるわ。ゼッカイチオシのプレイヤーがどんなものか試したいしね」
「お前では勝てんやめておけ妹」
「妹って呼ぶの辞めてよ! それに、アタシだってコイツの弱点は研究してるのよ! MPを封じれば楽勝なんだから」
「あ、ギルマス、それガセらしいですよ」
「なんですってー!?」
「フッ」
自分を前に言い争いを始めた最果ての剣のメンバーたちを見て、ヨハンは笑った。
「女、何がおかしい?」
それが勘に障ったのか、カイがヨハンに聞き返した。
「いいえ、だってほらねぇ。若い子たちが私を巡って争っているのを見たら……なんだかとても気分が良くなってしまったの」
「は? おばさん調子乗りすぎじゃん?」
「全員まとめてかかって来なさい坊やたち。じゃないとちょっと……本気出したお姉さんには勝てないわよ?」
言いながらヨハンは、切り札のスキルを発動させる。
「面白いじゃない。それじゃあお望み通り……アタシたち全員で相手してあげるわよ!」
空が時計型の魔法陣に覆われていく中、最後の戦いが幕を開けた。
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