第73話 超進化的なサムシング

光に包まれたヒナドラの姿がぐんぐんと巨大化し、メタルブラックドラゴンが姿を現した。


 全身をサイボーグ化した竜の姿をしている。

 バーチャルモンスターズの設定上、ヒナドラ→ブラックドラゴン→メタルブラックドラゴン→クロノドラゴンと進化を辿る。つまり、クロノドラゴンの進化前の姿なのだが、その大きさはクロノドラゴンを大きく超える。


広かったこの地下バトルフィールドでさえ手狭に感じるその大きさに、その場に居た全員が圧倒された。


「……可愛かったヒナドラの面影が完全に消えた」

「ええ、確かに全身機械化というショッキングな感じになっているけれど、正真正銘の主役モンスターなのよ。アニメに出てきたのは22話だったかしら。パートナーの子供が正しい心の力を発揮したとき、それに応える形で登場、中ボスを圧倒的な力で倒したわ。そもそもバーチャルモンスターって、パートナーとなった人間の心の有り様や未来へと向かっていく力を受けて成長するのだけれど、主人公とヒナドラに関してはそれまでの苦難が他の子供達よりも多かったから、初進化した時の感動も一際大きかったの。その後も進化すれば勝ち確定という無類の強さを発揮したんだけど、物語中盤で戦いの舞台がバーチャルワールドから現実世界に移った後はしばらく活躍できなかったの。だってこの大きさだと、街とか壊しちゃうから。そして上位形態よりさらに上の究極形態の敵が出てくる終盤にはその役目を終えて、出番をクロノドラゴンに譲る形になるのだけれど、強さの描写から未だに根強い人気を誇るモンスターなのよ!」


「……う、うん。早口で説明ありがとうお姉ちゃん。でも、敵が来てるよ」


ヨハンの早口の説明中も、敵のベビーたちがじりじりと近づいてきている。


「安心してレンマちゃん。こういう状況こそ、メタルブラックドラゴンの得意な状況よ。さあ、いくわメタルブラックドラゴン……全砲門解放!! レンマちゃん、女の子をお願いね」

「……わかった」


 ヨハンのかけ声と共に、メタルブラックドラゴンの体中に仕込まれた武器のハッチが開く。生体部分と思われていた場所すらフェイクで、武器が仕込まれている。


 レンマはそれを見てメタルブラックドラゴンの攻撃方法を察したのか、ゴリラボディで女の子をかばうように包み込む。それを確認したメタルブラックドラゴンは、一斉に大小無数のミサイルを発射した。


「包囲殲滅弾――【ジェノサイドウォーズ】!!」


放たれたミサイルはその物量でもって、前面に居たベビーたちを粉砕する。とてつもない爆発がフィールドを埋め尽くす。


「……凄い! あの数を一瞬で」


爆炎が止んだ後、そこに大量に居たはずのベビーたちは跡形も無く消滅していた。


「やるな女……とでも言うと思ったか。ベビー共! 【増殖】して敵の裏側に回り込め!」

「増殖!?」


攻撃を受けない位置にいて生き残ったベビーたちは一斉に増殖を発動。その数を三倍に増やす。そして、器用に壁を移動し、メタルブラックドラゴンの背後に回る。そして、ヨハンたちを取り囲んだ。


「ははは、いくら強力な召喚獣とはいえ、召喚者を倒してしまえばこちらのもの! いけぇベビーたちよ!」

「相変わらず召喚者を直接狙うのね……」

「……卑怯だ」

「メタルブラックドラゴン!」


ヨハンは叫ぶ。


「無駄だその巨体ではなぁ! それにもしさっきの技を使ってみろ? その少女が死ぬことになるぞ」

「……確かに。ボクとお姉ちゃんは大丈夫だけど、この子は」


 レンマが腕の中の依頼主の女の子を見る。召喚者と同じパーティであるレンマはメタルブラックドラゴンの攻撃でダメージを受けることはないが、この女の子はそうではない。あの爆発に巻き込まれれば、この状態でもダメージを与えてしまう。


「安心してレンマちゃん。バチモンは必ず私たちを守ってくれるわ」

「……守る、そうだったね」


 レンマは先ほどのワーフェンリルを思い出す。おそらく、あのセリフも行動も、そういう風にプログラムされているにすぎないのだろう。そこに信頼とか、友情というものを感じるのは、とても愚かなことなのかもしれない。寂しいことなのかもしれないけれど。


「……お姉ちゃん、とっても楽しそう」


 レンマはポツリと呟いた。目の前のヨハンとメタルブラックドラゴンの間には、何か得体のしれない、信頼感のようなものが見えたのだ。プログラムにすぎないからこそ、それ以上の熱い何かを、レンマは今、確かに感じていた。


「メタルブラックドラゴンのスキル発動――オールディメンジョン」

「ぐるあああああ!!」


 メタルブラックドラゴンが雄叫びを上げると、フィールド上に6機の小型の兵器が出現した。

 ヒナドラに似たその機械、通称【ヒナビット】と呼ばれるそれは、空中を自在に飛び回り、レーザー光線を放ち、ヨハンの周囲にいるベビーを一体一体、葬り去っていく。


「これがメタルブラックドラゴンのもう一つの必殺技【オールディメンジョン】! 6個のビットを展開し、3D的な攻撃で敵を倒すわ!」


「ぐぬぬ……俺のベビーが全滅……ひぃ」


悔しがる敵の男に、メタルブラックドラゴンの巨大なメタルアームの刃が向けられた。


「さぁ、この子のお父さんの居場所を言いなさい」

「く、召喚者を直接狙うなんて卑怯だぞ……恥を知れっ!!」

「「お前が言うな」」


 ヨハンは未だに頭上に居るダークスパイダーを警戒しつつ男に質問を重ねるが、次の攻略に繋がるような情報は得られなかった。おそらく、ゲームの設定上、この男は情報は吐かないのだろう。

「もう倒しちゃっていいと思う」というレンマの言葉を受け、メタルブラックドラゴンに攻撃の指示を出す。


「待ってくれ……ダークスパイダー……俺を助けろ! 何見てる早く……」

「ゲラゲラゲラ」


 男は必死に自分のモンスターであるダークスパイダーに助けを求めるが、ダークスパイダーは数多の口でゲラゲラと笑うと、霞のように消えてしまう。


「あ……そんな……あああああ」


そして、メタルブラックドラゴン最後のスキル【シャープネスフィン】に切り刻まれ、男も同時に消滅した。


***


***


***


男が消え去った足下には、アイテムが落ちていた。


拾ってみると、何やら地図のようだったが、複雑過ぎてヨハンとレンマにはわからない。


だが、意外にも少女が食いついた。


「こ、これお父さんの持っていた地図だ! これがあれば、別のルートがわかるかもしれないよ」

「……本当?」

「ということは、この地図が示す場所にお父さんがいるのかも」


「うん。でもね、一度家に帰って解読しなくちゃいけないから、明日、また私の家に来てください」


「わかったわ。明日こそ、お父さんを助けましょう」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る