第43話 リベンジ

 30分後の14時、コロシアムにて2VS2のデュエルが始まる。


「ちょっとコンさん。どういう事ですか!」


 店番をドナルドとレンマに代わってもらった3人は、コロシアムに向けて歩いていた。


「どうって何が?」

「全部です。ギルド対抗戦とか、あの無茶苦茶な値上げとか……」

「何か理由があったの?」


 ギルド対抗戦の告知は12時頃に届いていた。召喚石を取引するなかで、コンはいつの間にか目を通していたらしい。


「理由、そんなんあらへんよ。金を毟り取れるところから、取れるだけ毟り取る。それだけや」

「コンちゃん。無理に悪役ぶらなくていいのよ」


 ヨハンは横からコンの肩を抱く。


「私たち、仲間でしょ? 良かったら話してくれない?」


 ヨハンの言葉に、コンはどこか照れくさそうに頬を掻いた。


「仲間……ね。ああもう……魔王はんの前だと調子狂うわ……うちはね、悔しかったんよ……」

「悔しい……?」


 コンは頷いた。


「ゼッカちゃんは最強のギルド言うたら、どこやと思う?」

「そりゃ、さっき会ったあの二人の居る【最果ての剣】でしょう?」

「あんたはそう言うやろな。でもな、違う。最強のギルドは【決闘宿】や!」

「あ……」


 ギルド【決闘宿】。その名に、ゼッカは聞き覚えがあった。それはかつての最強ギルド。召喚師のみで構成されたギルド。召喚師の最盛期、【最果ての剣】が手も足も出せなかった、そして召喚師の弱体化により、崩壊したギルドである。


「うちはそこのサブギルドマスターやったんよ。さっきの二人とも、ゼッカちゃんとも殺(や)りおうた事あるんやけど……」

「すみません……覚えてないです」

「ええんよ別に。けどうちらは絶対に忘れへん」


 当時、プレレフアの能力もあって、召喚師は召喚師と組むのが最強と言われていた。故に召喚師は固まって、このゲームにおいて独自のコミュニティを形成していた。

 そしてそんな召喚師一強時代、最果ての剣や神聖エリュシオン教団を始めとした他職業のプレイヤーが行ったのは、運営への抗議だった。


『召喚師だけバランスがおかしい』『ナーフしなきゃゲーム辞める』『召喚師調整しろ』


「なぁゼッカちゃん? うちらなんか悪い事した? あんさんらはうちら召喚師の事チートチート言うてはったけど、チートって意味知ってはる?」

「コンちゃん。ゼッカちゃんに八つ当たりしないの」

「いいんですよヨハンさん。コンさんの言っていることは……全て正しいんですから」


 召喚師全盛期、ゼッカも『召喚師はバランスがおかしい』と唱えていた一人である。いや、あの時代、召喚師以外の全ての職業のプレイヤーがそう思っていて。

 だから運営も、調整という名の弱体化をするしかなかった。


「うちが大好きだった居場所はもう無い。みーんな辞めてもうた。攻略サイトにも『新規で召喚師を始めるのは愚か』って書かれてもうてるし……もう新しい召喚師なんて増えへんやろ」


 弱体化以来、コンは毎日仲間を失った。


『私もう辞めるから。あ、召喚石あげるね』

『別のゲームにもサモナーあるし、そっちを楽しむことにするよ』

『この糞ゲーまだ続けるの?』


 ログインする度に減っていくギルドのメンバー、すり減っていく心。そして、いつしか大好きだった彼女のギルドは消えていた。最低構成人数の5人を下回ったからだ。

 いつしか最強のギルドは【最果ての剣】という事になっていた。それがコンには許せなかった。あれは偽物だ。本当の最強は自分たちだ。その思いが、彼女をこのゲームへと縛り付けた。


「せやからね、許せへんかったんよ。平気な顔してうちの所に召喚石を買いに来たあいつらが……本当に……」


 いつの間にか、コンは涙を流していた。ゼッカがその涙を優しく拭う。ゼッカは後悔していた。召喚師最強時代。自分達は負ける度に「運営仕事しろ」「調整早くしろ」と言っていた。最早それはスラングであったと言っていい。召喚師に負けたプレイヤーが必ず言う、決まり文句のようなものだ。


「いや……違う。多分、言い訳」


 ゼッカだって、ヨハンと会うまでは、召喚師を選ぶ人は、強ければ何でも良い、勝てればそれでいい、プライドなんて無い、そんな連中なんだと思い込んでいた。でも、違った。

 目の前で涙を流す女性は、召喚師という職業を愛し、仲間達と楽しく遊んでいた、自分たちと同じプレイヤーだった。


ゼッカはコンの手を握ると、彼女の目を真っ直ぐ見つめる。


「は? 何?」

「コンさん。このデュエル、絶対に勝ちましょう!」

「いや……何でいきなりやる気になったんこの子? うちは魔王はんと……」


「うん! ゼッカちゃんとコンちゃん! このデュエルは貴方たちでやるべきだと思う。良いコンビになると思うわ!」


「ちょ、魔王はん……この二人で組んでも勝てへんて……召喚師は召喚師で組まへんと」

「そんな事はありません! 私も最果ての剣のやり方が気にくわなくて辞めた者! きっとコンさんとの相性は良い筈です!」

「いや、そないな事言われても……え、ほんまにやるん?」


こうして、凸凹コンビの小さな逆襲(ぎゃくしゅう)が始まる。


***


***


***


コロシアムに踏み込む3人。するとヨハンは観客席に、ゼッカとコンはフィールドに、それぞれ転送された。


「あら、魔王は温存って訳?」

「ほう……あの時の続きが出来ると思っていたのですが、興醒めですね」


 ギルティアとロランドは明らかに落胆する。彼らがデュエルを引き受けた理由はもちろん召喚石の購入だが、もう一つにヨハンとの力関係をはっきりさせておきたいという狙いがあったからだ。


「舐められとるね、うちら」

「ええ。ですがすぐに後悔するでしょう。私たちを侮ったことを」


その時。14:00を迎えると共に、デュエル開始の合図が鳴り響く。


「お兄ちゃんは手出ししないで。私一人で相手をするわ」

「……了解しました」


 前に出るギルティア。敵の狙いはこちらの手の内を探る事なのでは? と疑っているロランドは、むしろギルドマスターである妹に戦って欲しくなかった。ロランドは自身のビルドや戦法、戦闘における思考などを全て自分のチャンネルで公開している為、隠している手の内が一切無い。

 全てオープンにしていて尚最強なのだ。一方ギルティアはユニークスキルの使い手である。あまり表立って戦わない方が良いのだが。


「ま、いいでしょう」


 妹の性格上やりたいようにやらせておこう。そう思うロランド。


「行きます! 援護を!」

「わかっとる、召喚獣召喚――スケープゴート!」


 幾何学的な魔法陣から、毛玉のような羊のモンスターが出現する。


「【増殖】してゼッカちゃんを援護や」

「メェー」

「よし!」


 自慢のユニーク装備【デッド・オア・アライブ】を構え、スケープゴート達と共にギルティアへと突っ込むゼッカ。


「スキル【換装】発動――【芭蕉剣(ばしょうけん)・羅刹女(らせつにょ)】を我が手に!!」


 ギルティアは戦闘中に自由にストレージの装備と自分の装備を交換できるスキル【換装】を発動。それにより扇形の剣を手に握ると、仰ぐように一振りした。


「ぐっ――!?」

「なんなんコレ!?」


 ギルティアが軽く振っただけで、凄まじい突風が発生し、ゼッカとコンはその場に倒れてしまう。

ユニーク装備【芭蕉剣・羅刹女】。攻撃能力は一切持たないが、突風により、敵を寄せ付けない無敵の防御力を持つ剣である。


「なぁにその悔しそうな顔、超ウケる。え、もしかしてアタシに勝てるつもりだったの?」


ギルティアは地に伏した二人を嘲笑った。

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