第29話 意外な助っ人
圧倒的絶望の状況に駆けつけてくれたのは、かつて一度だけやりとりをしたプレイヤーコンとその召喚獣プレレフアだった。
「え……ええ!? コンさん? どうして……それに召喚獣も!?」
「ああコレな? ここに入る前に先に召喚しとったんよ。頭ええやろうち?」
困惑するヨハンに朗らかに答えるコン。相変わらず何を考えているのかわからない人だと思いつつ、ヨハンは尋ねた。
「ここに来たってことは、何か策があるの?」
「策? そんなんあらへんよ。あれは正真正銘の糞モンスターや」
「だったら……どうして来ちゃったの!? 知ってるでしょ、アイテムも装備も全部取られちゃうこと」
「知っとる。全部知っとるんよ。うちも来るつもりはありまへんでした」
「じゃあ、どうして?」
「何でやろな。一生懸命戦ってる魔王はんらを見ていたら、胸が熱うなって。気づいたら身体が勝手に動いとったんよ。うちアホやわ」
コンはペロリと下を出して笑う。
「全然アホじゃないわ。素敵よ貴方」
「ほんまに? 照れるわ」
「げははははは!」
不死蝶の舞による幻惑効果が切れ、海賊王は再び戦闘態勢に入り、狙いをヨハンとコンに定めた。だが、そんな海賊王に迫るもう一つの陰があった。
「ぶるるうあああああ」
「げは? げははははは!」
海賊王に斬りかかったのは、一人の剣士職のプレイヤーだった。その頭上に表示されている名は【ソロ】。ヨハンがかつて戦った、三刀流のソロだった。
「ふぁいふふぉふぁふぉふふぉわふぉふぉふぉれふぁ」(ヨハンを倒すのはこの俺だ)
「あらあら。助っ人はまだおったみたいやね。知り合いなん?」
「いや……確かイベントで一回戦っただけの人……」
「イベントで一戦。ほなら助けに来る理由には十分や。あの三刀流のお人もアホなんやろ。ええアホや」
「ふがががががが」
三刀流のソロは三本の刀で敵の攻撃を捌く。だがゼッカほど上手くはない。徐々にHPを削られていく。
「プレレフア……【フラワー・オブ・ライフ】をうちに」
「ぷーわー」
可愛らしい鳴き声を上げながら、プレレフアを最強たらしめている【フラワー・オブ・ライフ】を発動させる。その能力により、コンの魔力は三倍となる。
「そしてこれがうちの魔法杖や」
自慢げに取り出したのは、どう見ても拳銃にしか見えない装備。だが紛れもない魔法杖に分類される装備である。
「これで撃って撃って撃ちまくったる。ええい全速前進や!!」
ソロを援護しようと、初級火魔法ファイヤーボールを銃から撃ちまくるコン。一発の破壊力こそ少ないが、着実に相手のHPを削っている。
「げははははは」
「ふぉっい、ひょほふぃふんふぁ」(オイ、よそ見すんな)
ソロは三刀流専用スキル「トリプルスラッシュ」を繰り出す。
「げはっ……げははは」
だが、ゼッカほどHPを削ることは出来ない。
「うちらが目指す勝ち筋は変わらへん。魔王はんの鎧を取り返すことや。知ってはるやろ?」
「ふぁああ」(痛いほどな!)
「私も……召喚獣召喚――ヒナドラ!!」
「もきゅ!」
幾何学的な魔法陣から、小さな黒い幼竜が姿を現す。スキルのブラックフレイムを使うと一発で退場なので、打撃戦で参戦させる。
「もっ……もっ……」
ヒナドラの繰り出す体当たりはダメージを与えられているのかさえ怪しかったが、それでも三者同時攻撃は強い。手数の多さで、海賊王に【オールスティール】を発動させる暇を与えない。
「げははははは」
だが海賊王は自分を骨単位でバラバラにすると、ヨハン達から遠く離れた場所まで飛んでいき、再び組み上がる。そしてこちらに手を翳してくる。
「げはは……その宝、気に入った。【オールスティール】!!」
「ぐ……おのれ海賊王めぇ!」
「いやん……」
ソロとコン、二人の装備が一斉に奪われた。
「げはははははは」
そして、海賊王は再びこちらにやってくる。
「うちら弱すぎひん? 一回もアイテム落とさせられへんかった」
「面目ねぇ……こうなったら……特攻じゃあああぁぁボケぇぇええええええ」
ソロは素手で海賊王に殴りかかる。
「こうなったら破れかぶれや! うちも行ったるわ!」
コンもやけくそになったように海賊王に襲いかかった。ヒナドラもその後に続く。
「よ、よし……こうなったら私も」
「あかんわ……魔王はんはそこにおり」
「ど、どうして!」
「俺たちがアンタの鎧を必ず取り返す! だからアンタはそこで待ってろ」
「もっきゅ」
「で、でも……」
鎧が手に入ったところで……他の召喚獣が居なければ何も出来ない。
「ぐあああああ」
そして、ついにソロの身体に海賊王のサーベルが命中した。基礎防御力のないソロはそれでHPを全て失い、その肉体は消滅した。
「んもう! いい加減にぃ……落ちろ落ちろ落ちろー!」
「もっきゅもっきゅもっきゅー!」
コンとヒナドラは攻撃の手を緩めない。その素手による攻撃が一体どれだけのダメージになるというのか。だが、例え1ポイントだろうと、積み重なれば、やがて大きなうねりとなる。
『海賊王のスキル【略奪者の末路】が発動しました』
ようやく、海賊王の身体から三つのアイテムをドロップした。コンがめざとくそのアイテムを見定める。
(一つは【やくそう】……これはつかえへん。残りの二つは……っ!)
コンはそのアイテムを見た瞬間……この戦いの勝利を確信した。
(なんやあの情報……ほんまやったん)
コンの口角が上がる。
コンは二つのアイテムを拾い上げると、それをヒナドラの口に押し込んだ。
「ももっ!?」
「これを魔王はんのところに」
「も?」
「ええから。はよ行くんや」
「もっきゅ」
もっもっと跳ねながら、ヨハンの元を目指すヒナドラ。それを見た海賊王はヒナドラに向けて剣を構える。
「アンタの相手はこっちや。プレレフア!」
「ぷーわー」
MPが尽きかけ、もうスキルを発動する余力の無いプレレフアと一緒に、海賊王に掴みかかるコン。だがその拘束をたやすく振りほどいた海賊王は、プレレフアを一刀両断する。
「ぷーわあああ」
真っ二つになり消滅するプレレフア。
(よう頑張ったなぁプレレフア……ありがとさん)
「げははははは!!」
「ってあかんわ。うちの力だけじゃコイツを抑えられへん。かんにんな魔王はん」
「げははははは――【トルネードスラッシュ】!!」
コンの拘束もむなしく、海賊王は攻撃を放った。振り下ろされたサーベルから放たれた竜巻のような斬撃が、ヨハンとヒナドラを襲う。
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