第27話 最強ギルドたち
惜しくもHPを失ったプレイヤー達が集まる待機エリア。海賊王クエストが中継されているこの待機エリアは現在、異様な雰囲気につつまれていた。
「ふざけんなボケがあああ!」
「このボス考えたヤツ出てこいや!!」
「装備品押収とか勝てるわけねーだろがあああ」
怒号とブーイングが飛び交っている。その怒りは全て理不尽なボスモンスターと、それを用意した運営へ向けたものだった。
当然である。戦う前にアイテムを全て奪われ、さらに装備も奪われる。この状態で戦えるプレイヤーが一体どれだけいるのか。しかも、ボス戦が始まってから告げられる、負けたら装備没収という事実。もし自分がその立場だったら、まともな精神状態でプレイできるかどうか。
この中には、ヨハン達に対して「ザマァ見ろ」と思うものは、誰も居なかった。ここに居るのは、全てがプレイヤーだ。ここにいるプレイヤー達はそれぞれが月額980円という、高額ではないが、決して安くもない料金を支払い、そして多くの時間を費やし積み上げてきたものを持っている。それは装備だったりキャラクターの能力であったり仲間であったり。
それが今、目の前で理不尽に奪われている。それが彼らには、堪らなく悔しくて仕方が無かった。
「頼む! 俺たちも参戦させてくれ!」
「俺にあいつらを助けさせてくれ!」
「報酬は要らねぇから!」
「お願いだ……俺たちにも手伝わせてくれ」
だが敗者の声が聞き入れられる事は無かった。ヨハン達に注目していたプレイヤー、アベンジャーマスオは泣き崩れていた。
「さっきまであんなに楽しそうだったのに……許せねぇ……許せねぇよ運営ぃ」
「いや、まだ希望はある……」
目を逸らさずに画面を見つめていた一人のプレイヤーが呟く。その言葉を聞いて、他のプレイヤー達の顔に希望が宿る。
「大手ギルドの【最果ての剣】と【神聖エリュシオン教団】は、殆ど無傷。それに【ドナルド・スマイル】や【コン】といった有名ソロプレイヤー達も未だ健在。彼らが集まってくれれば、あるいは……」
「そ、そうだ! これはレイドバトル! 援軍が来る可能性があるんだ!」
「ああ。まだ希望は残ってる」
「耐えてくれ……応援が来るまで、折れずに耐えてくれよ……三人とも」
一人のプレイヤーが、神に祈るように呟いた。
*****
海賊王レイドの様子は、現在生き残っているプレイヤー達もメニューを開くことで確認することが出来た。
ソロの召喚師であるプレイヤーコンは、モニターに表示されている海賊王とヨハン達の戦いを鋭い目で見ていた。
「なんなんこのボス……ありえへんわ」
コンはどこかの大手ギルドに先陣を切らせ、ある程度敵の情報を得てから参戦するつもりだった。だがヨハン達の戦いを見てわかった事実は。
・ボスエリアに入ると同時にアイテムストレージのアイテム全没収。
・回避不能の装備強奪攻撃。
・このボスが倒されなかった場合、装備やアイテムの返却は無し。
「こんなん誰も行かへんわ。アホらし」
特に召喚師(サモナー)であるコンにとって、最悪の相性の相手である。こう考えるのは無理もない。コンは運営へ呪詛の言葉を吐き捨てながら、乱暴にメニューを切った。
***
現在GOOにて最強と言われているギルド【最果ての剣】。そのメンバーであるロランドは、悲痛な面持ちでヨハン達の戦いを見守っていた。そして、意を決した表情をすると、近くでくつろぎながら、同じく海賊王レイドを観戦しているギルドマスターに声を掛ける。
「ギルドマスター。我々も向かいましょう。この糞モンスター、自らの手で葬り去らないと気が済みません」
「ダメ。却下」
【最果ての剣】のギルドマスターである黄金の鎧に身を包んだ金髪の少女【ギルティア】はロランドの申し出を一蹴した。
「私らは対人戦最強ギルド。対モンスターは攻略班に任せておけばいいのよ」
「ですが……」
「装備を失う可能性があるのよ!? 装備品は私の宝物なの! 絶対に嫌! 行かない! 以上!」
「ですが……海賊王と戦っているのは、ゼッカさんですよ?」
「……知ってるわよ」
「いいんですか。このまま敗北し、装備を奪われたりしたら。ゼッカさんまで引退してしまいますよ?」
「……知らない!! 知らない知らない知らない! 引退したいなら勝手にすればいいわ!! 私を捨てたあの子のことなんて……絶対に知らなーい!!」
ロランドは「しまった挑発しすぎた」と、説得の失敗を悟る。
「やっちまったなロランドさん」
「ロランドさん、こうなっちゃ、もうギルマスはテコでも動きませんぜ」
周囲のギルドメンバー達がやれやれといった感じで、ロランドに忠告した。そして、ギルドメンバーの一人がロランドに尋ねる。
「それで。GOO最強プレイヤーのロランドから見て、勝ち目はあるのかい? あの海賊王ってボスは」
「勝ち目はないでしょうね……手持ちアイテムを奪われる関係上、弓使いと召喚師は戦力になりません。そのうえ、装備を剥ぎ取るスキルも使ってくる」
「改めて糞みてーなボスだな。しかも倒さなきゃ装備が帰ってこない? なんだそりゃ、賠償金案件だろ」
「下手したら問題になって、サービス終了もありえますな」
「……ええ。特に、事前に装備を奪われる事を伏せていた運営に、私は強い嫌悪感を覚えます」
拳を握りしめるロランド。出来れば自分で倒したいが……単独で助けに行って勝てるほどの圧倒的な力は持ち合わせていない。
「私たちに出来るのは、彼女達がショックで引退しないように祈ること。そして、あんな酷い仕様のレイドボスに、これ以上挑む人が増えないように呼びかけること」
「……だな。ギルドメンバーやそのフレンド達にも広めておくぜ。あのレイドボスには挑むなってな」
この瞬間。控え室で観戦をしていたプレイヤー達の希望、大手ギルドの助っ人という道は、完全に潰される事となった。
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