第15話 初のパーティ戦とその後
一時間が経った頃。最終的にステージの前で守りを重ねる意味はないと判断し、3人で協力して敵を倒していた。ヨハンはワンコロにサイリウムの回収をさせつつ、本体は様々なスキルを使って敵を殲滅。レンマは攻撃的なスキルを持たないものの、ゴリラスーツのパワーによって格闘で敵を倒していた。
そして戦闘も一段落。集めたサイリウムの山を前に、三人は一息ついていた。
「結構集まりましたねぇ」
「ゼッカちゃんが大暴れしたお陰ね」
「……ボクはほとんど何もできなかった」
「ドロップ増加アイテムくれたじゃない。あれだけでも大助かりよ」
さてこのサイリウムの山をどう分配しようかと悩んでいると、突如、空が赤く染まり、重厚な音楽が流れ始める。それはさながらボス戦のBGMのようだった。
ステージで歌うアイドルたちの曲の雰囲気が大きく変わったのだ。何か大きな戦いを予感させる演出に三人は一斉に立ち上がり、身構える。
「……何よこれ?」
「おそらく、一定数の敵を倒したのでボスモンスターが登場するのかと」
「うふふ、なるほど。レアアイテムの予感ね」
「そうですね……レアは出ないにしても、大量のサイリウム獲得のチャンスです」
しばらく待っていると、上空に巨大な全身をサイボーグ化した鯨のようなモンスターが現れた。そして。
『高難易度クエスト発生:彼女の歌は世界を救う ~Pされるよりも、ピーしたいマジで~ 開始』
《勝利条件》
全ての敵の撃破。
《敗北条件》
プレイヤーの全滅。又はステージ上のアイドルのHPが0になる。
というメッセージが表示される。そして、クエスト開始の合図と共に、空に浮かぶ鯨型のモンスター【空母ビッグホエール】の腹部ハッチが開き、そこから先ほど戦っていたゴブリンたちがパラシュートで降下してくる。
「拠点防衛系かぁ……燃える!!」
「ゼッカちゃん、私こういうの不慣れだから、指示を頂戴」
「……」コクリ
「了解です。まず、レンマちゃんはステージ前で待機。ここから私たちに防御バフをかけつつ、敵の強力な攻撃が来たらステージを守って」
「……」コクリ
「ヨハンさんは飛べる召喚獣で鯨本体を攻撃。さらに降りてくる敵も攻撃してください。地上の敵は私が全て倒します」
「「了解」」
ヨハン、そしてレンマはすぐに行動に移った。
「ようやく出番ね。召喚獣召喚――【メテオバード】!!」
玩具型の召喚石から新しい召喚獣を呼び出すヨハン。中級召喚獣メテオバード。バチモンコラボの一体。ヨハンの手持ちで空を飛べる唯一のモンスターである。火の鳥が隕石でできた鎧を纏ったような姿のそのモンスターは羽を広げ飛翔する。
「貴方はビッグホエールを攻撃して」
「ぎゃるうう」
「そして私は……ブラックフレイム」
メテオバードを見送ってから、ヨハンは上空からパラシュートで降下してくるゴブリンたちを焼き払う。すでに着陸しているゴブリンたちはゼッカに任せ、ひたすら上空の敵を狙い続けた。
「ちょっと手数が足りないか。それなら……【増殖】」
スケープゴートのスキル増殖を発動し、ヨハンは三体に分裂した。
「「「ブラックフレイム!」」」
そして、三体が同時に暗黒の炎を放つ。空を埋めていたゴブリンたちは一瞬で蒸発し、ドロップアイテム、サイリウムの雨が降る。見通しの良くなった空を見上げれば、メテオバードがビッグホエールにとりついたところだ。
「今よ、メテオバードスキルを発動――ファイナルメテオインパクト!」
メテオバードの身体が輝き、より強い炎のオーラを纏う。その状態で、敵に向かって全力で体当たりを行う。その攻撃はビッグホエールの身体を大きく揺らすが……。
「そんな……」
「HPバーはほとんど動いていません」
ほぼノーダメージと言って良かった。それどころか、ビッグホエールは口を大きく開くと、メテオバードにかみつき、一撃で撃破。そのまま頭部をこちらに向ける。
そして再び大きな口を開いて――。
「敵の必殺技がくる――」
「ぶおおおおおおおおおおお」
ビッグホエールの攻撃スキル【超撃爆音波】がフィールド全体に降り注ぐ。その攻撃範囲は凄まじく、デコイを発動したとしてもカバーできないだろう。
「ボクに……任せて……スキル発動【ルミナスエターナル】!」
レンマの足下から魔法陣が広がり、フィールド全体を包む。そして、パーティー全体に10秒間の【無敵】と【状態異常回復】を授ける。そしてこの効果は、護衛対象であるステージ上のアイドルにも有効だ。降り注いだ敵の音波攻撃からヨハンたちを守る。
「凄いわね!」
「流石! 守護者(ガーディアン)の最強スキル。さて、それじゃあ反撃ですよ」
「ええ、私に任せて頂戴」
ヨハンはそう言うと、二体目のメテオバードを召喚する。
「乗ってゼッカちゃん。二人で接近して倒しましょう」
「ナイスですヨハンさん!」
二人はレンマをステージに残し、メテオバードの背に乗って飛翔する。幸いゴブリンたちは先ほどのビッグホエールの攻撃に巻き込まれ全滅しており、二人の接近を邪魔するものは誰もいない。またビッグホエールも強力な攻撃を続けて撃つことは難しいらしく、驚くほど簡単に接近に成功。
「背中の部分にクリスタルが埋まってますね……多分アレを砕けば攻撃が通用するはず……行ってきますヨハンさん!」
ビッグホエールの背中に飛び移るゼッカ。巨大な背中を物凄いスピードで駆け抜けたゼッカは自慢の双剣デッド・オア・アライブでザクザクと切り裂き宝石を破壊する。
「ぼええええええんんん」
「試しに撃ってみましょうか……ブラックフレイム!!」
敵の腹部に攻撃を当てると、ビッグホエールのHPバーは減少する。
「やっぱり! あの宝石がこいつの守備力を上げていたんですね!」
喜びながらビッグホエールの身体を切り刻むゼッカ。敵のHPがぐんぐんと減っていく。あと大技一発と言ったところか。
「後は私に任せて! はっ」
そう言うと、ヨハンはメテオバードから飛び降りる。ゼッカとレンマは何が起こるのか見守った。
「スキル発動――ファイナルメテオインパクト!!」
ヨハンが発動させたのはメテオバードの突撃攻撃スキルだ。全身に炎を纏い、跳び蹴りのポーズで敵に突撃する。中級モンスターはレベル30程度のステータスを持つ。ヨハンはレベルこそ16だが、そのステータスはレベル50のプレイヤーより高い。そんなヨハンが放つファイナルメテオインパクトの威力は桁違いだ。
「はあああああああああ!!」
「ぼげええええええええええ」
ヨハンの身体はビッグホエールの身体を貫通し、向こう側へと突き抜ける。ボスモンスターであるビッグホエールは断末魔の咆哮を上げながら身体を粒子に分解し、消滅した。
『スキル【ガッツ】が発動しました』『スキル【ガッツ】が発動しました』
地面に落ちたヨハンとゼッカは即死級の落下ダメージを受けるも、スキルガッツによりなんとか存命。高難易度クエストをクリアすることに成功した。
『みんな、本当にありがとう! 今日のライブは、私の一生の思い出だよ♪』
アイドルのライブステージはそんな言葉で締めくくられ、フィールドには「どうやって回収するの?」というくらいに大量のサイリウムが降り注いでいた。
***
街に戻って。
使い切れないほどのサイリウムを手に入れた三人は、各々で欲しい素材を交換していた。ヨハンは中級モンスターたちのスキル解放に必要な素材を大量に交換。レンマは自らの推しアイドルの衣装を交換したようだ。
「ちょっと着てみせてよレンマちゃん」
「私も見たいです」
ヨハンとゼッカの二人にせがまれて、レンマはアイドル衣装に装備を切り替える。すると必然、着ぐるみゴリラで隠されていた彼女の素顔が見られるわけなのだが。
「「……可愛い」」
ヨハンとゼッカの二人はレンマのかわいさに絶句した。年齢は中学一年生くらいだろうか。輝くような青い髪に青い瞳。透き通るような白い肌は、頬だけが照れくさそうに桃色に染まっている。
レンマのあまりの美少女っぷりに、ヨハンとゼッカは言葉を失った。
「あの……変?」
「「変じゃないよ!!!」」
(ち、ちょっと可愛すぎないかしらこの娘? 持って帰りたいんだけど!?)
(何故これほどの美貌を隠す? 安売りはしないということなのか!?)
と悶えるお姉さんたち。そんなヨハンとゼッカを見てくすくす笑うと、レンマは二人にも同じステージ衣装を取り出してきた。
「え?」
「くれるの?」
「うん。あと……一緒にボクと写真……撮ろう? それを……着て」
「おお、いいアイディアですね!」
瞳を輝かせて衣装を受け取るゼッカ。さすが女子高生と言ったところか。コスプレに抵抗がない。だがOLのヨハンはそうはいかない。
(うぅ……背中開きすぎ……胸元見せすぎ……スカート短い……くっ……この歳で……コレを着るのはなぁ~ううぅむ……)
一人悩んでいたヨハンだったが、潤んだ瞳でこちらを見つめているレンマに気が付く。
「……ボクと一緒は……嫌?」
「いいいいい嫌じゃないわよ!」
漆黒の魔王装備からアイドルの衣装に着替えたヨハン。その顔は羞恥心で真っ赤だった。
「似合ってますヨハンさん! 可愛いです」
「……綺麗」
「そ、そうかなぁ……あははははははははは」
そして、若者二人に上手く乗せられ、後に見る度に死にたくなるようなスクリーンショットを取りまくってしまうヨハンであった。
次回、中級バチモンが真の力を解放。
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