第3話 救いの手

「ぐぬぬ……」


 まるで海外旅行! とはしゃいでいたヨハンが少し周囲を歩いてみようと思ったところ、目の前に透明な画面がいくつも現れた。

 メニュー、お知らせ、通知などなど。どれから目をつけていいのかわからなかったので、とりあえずステータスを開くことにした。



名前:ヨハン Lv:1


職業:召喚師サモナー


HP:30/30

MP:50/50


筋力:20

防御:20(+1)

魔力:20(+1)

敏捷:20

器用:20


【装備】

頭 :

胴 :最初の服

右手:最初の杖

左手:

足 :

装飾:


スキル

【初級召喚術】



「うふふ、上手くいってるわ。さて、それじゃあ早速バチモンと遊びたいところだけど……どうすればいいのかしら?」


 ヨハンはこれからどうすれば良いのか全くわからず、途方にくれてしまう。すると、一人のプレイヤーが近づいてきて、話しかけてきた。


「おいおい新人が来たかと思ったら、ババアじゃねぇか」


 と、失礼な態度で話しかけてきたのは、一人のプレイヤーだった。ヨハンはムッとしながら振り返ると、そこには厳めしい装備に身を包んだ背の低いプレイヤーが立っていた。

 歳は30代後半に見える。「貴方も十分おじさんでしょう?」と言いたい気持ちを堪える。


「おいおい無視か……人がせっかく色々教えてやろうとしてるのによぉ」


 おじさんの頭上にはプレイヤー名とレベルが表示されている。名は【ズワイガニ】でレベルは38。十分にこのゲームをやりこんだプレイヤーだろう。だが、初対面の人間に対しての接し方がなっていないなと感じたヨハンはきっぱりと断る。付き合うに値しない人物と判断したためだ。


「結構です。それじゃあ」

「テメェ。人が親切にしてやったのに、その態度はねぇよなぁ? ゆとりか? お? 来い、礼儀って奴を教えてやるぜ」


(こ、この人しつこい!?)


「やめなさい!」


 ヨハンが困ってあわあわしていると、凜とした声が響く。しっかりとした意思の込められた声のほうを見ると、黒い装備に身を包んだ高校生くらいの女子が仁王立ちしていた。

 長い黒髪がはためく姿を見たズワイガニは「チッ」と舌打ちをすると、あっさりとどこかへ消えていった。


「大丈夫でした?」


 と、今度は心配そうな顔でヨハンに近づいてきた。黒いレオタードを基本とし、胸や腕など必要最低限の箇所に鎧を、そしてその上からコートを着込んでいる。その色は全て黒。明らかに質の違う装備をつけている彼女のレベルは50と表示されていた。

 ジェネシス・オメガ・オンラインの現在の最高レベルは50なので、先ほどのズワイガニ以上にやりこんでいるプレイヤーということになる。


「大丈夫です。助かりました」


 ヨハンがお礼を言うと、黒い少女は「よかった」とにっこり笑った。


(この子、カッコ可愛いわ)


 とそんな姿にヨハンが見惚れていると、黒い少女は手を差し出してきた。


「私、ゼッカと言います。お姉さんは?」

「私は哀か……ヨハンよ。さっきは本当にありがとう。とても困っていたのよ」


 差し出された少女の手を握りながら返す。一瞬本名を言いそうになったがなんとか堪えた。


「助けられて良かったです。あの人、このゲームでもかなり悪名高いプレイヤーなんですよ。でも、あんな人ばかりじゃないんで、このゲームのこと、嫌いにならないでくださいね?」


 ゼッカは飛び切りの笑顔でそう言った。

 ああ、この子は本当にこのゲームが大好きな子なんだなと、ヨハンは思った。そして、この子になら安心して相談できると確信し、バチモンの件を相談してみることにした。


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