第27話 意外な黒幕
「六ケ所同時だ! 至急応援に向かえ!」
夜の帳が降りた頃、予告通り賊の襲撃が敢行された。警備兵は漏れなく血相を変え現場へ急行し、鎮静化を図り始める。
「悪く思うなよ」
皆が街の外壁部へと散り散りになる中、まるで異端のように中央部へと向かう人影が。
「予定通りだ。上手くやってるじゃねーか」
そろり、そろりと歩み寄る。足音を殺し、気配を感じさせず。それは模範的な暗殺者のような立ち居振る舞いでナイフを握る。
「終わりだ!」
振り上げたナイフを下ろせば任務は完了。
「はい、ご苦労さまでした」
「ぬぅっ!?」
のはずだった。魔法で暗所が照らされ、闇に慣れていたそれは目を腕で覆い隠す。
「どうしてここに、という顔をしていますね 答えは簡単です。――事前にしつこいくらいに繰り返された結界装置への破壊工作が陽動なのが見え見えだったからですよ」
底冷えするような声で告げる。
ようやく目が慣れたのか、実行犯である男性はうっすらとではあるけれど視界を開け始める。
彫りの深い顔立ち。手入れをしていない髭が乱雑に伸び、羽織っている外套もボロだ。
典型的な盗賊って感じだなあ。
「確かに結界装置を無効化すればヘキサグラムへの出入りは楽になるでしょう。ですがそこいらの素人にどうこうできる作りにはなっていませんし、できるとも思っていないでしょう? 日中調べましたが、襲撃の跡なんて施設の外壁にちょっと傷がついた程度の何でもないものでした。とてもじゃないですが本気で結界装置を壊してウィズダムクリスタルを盗もうと思っているだなんて思えません」
束縛の魔法で男を封じる。
「であれば何がしたいのか? 明白でしょう。人々の意識を結界装置に向けたいのですよ。何のために? 犯行当日に本命である正面玄関の警備を薄くするためにです」
「……まさか、門番が全て出払っていたのは?」
「あら、やっと気付きましたか? もちろん私の指示です。まさか自分の策が完璧にはまった、とでも思っていましたか?」
ホッとしたような顔で国王サリウスはため息をつき、イシスの背後に回る。
「おとぎ話のほら吹きの名を騙って予告状を出す人間の言葉を真に受けるバカがどこにいますか。結界装置への襲撃はブラフだ。あんなもの、言外にそう告げているような物です」
「ふん。大した慧眼だ」
捕まったという割りに随分と落ち着き払っている。笑顔まで浮かべて。何だろう、まるでここまで想定内みたいな顔をしているなあ。
「この国の宝をいただく。国王が住まうこの王宮であれば国宝に魔法の研究資料にと、国の宝、に該当する物は揃っています。ついでに、もしかしたら国王の命も……と思い護衛をしていましたが、当たりましたね。あなたの狙いはサリウスの命。ヘキサグラムを混乱に陥れて何がしたいのですか? 復讐ですか?」
「ふふ」
何かがおかしい。イシスに声をかけようとした瞬間、事態は急変する。
「国王の命を狙ったのは目的じゃねーよ。必要な手段だ」
「手段? それはどういう――」
ぽたり、ぽたりと鮮血が滴り落ちる。
「イッシィ!」
「動くな!」
低く地鳴りのように響く声がアルテミスとエルナを押さえ付ける。
「……どういうつもりですか?」
「どうもこうも、最初からこういう手筈だったのですよ、イシスさま」
「私を葬るために根回ししてこんな大それた茶番を仕組んだと? でしたら早計でしょう。私が元々不老不死なのは知っているでしょう? であればこの程度の攻撃では到底――」
「ええ。知っていますよ。ですからこれは攻撃ではありません。単なる干渉です」
「――魔具【一方的に強いる支配(マンダトリードミネーション)】……っ」
微痙攣するイシスの右腕が杖を構える。それが僕の方へ向く。
「なあ、イシスさまよぉ。金銀財宝に魔法もいいけど、このヘキサグラムって国において一番の宝が何かって言われたら決まってるじゃねーか?」
束縛が解けた賊は意気揚々とイシスの背後に回る。
「この国を興してあらゆる魔法を開発し、膨大な知識が収まった脳みそを持っている世界一の魔法使い。あんたをおいて他に宝なんかねーだろうが」
「……最初からこれが狙いだったんですか?」
「……そうです」
「長くは持ちません。大変心苦しいですが魔王さま」
――お逃げください。
迷いは一瞬。
僕が身を翻すと同時にアルテミスとエルナも追従する。
人のいいおじさんにしか見えないくせにやってくれるじゃないか。今回の騒動の首謀者にして黒幕。
魔法大国ヘキサグラムの王、サリウス。その名前、忘れないからね。
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